第84話

 崩れた城壁の中からイタチ悪魔が這うように姿を現した。


 顎の骨が折れているのか、口からダラダラと唾液を垂れ流している。


「ギゲッ、オマエ、ゴロじでやる、ゴロじでやるゔ!!」


 城砦の壁の上にもチラホラ他の悪魔が姿を見せ始めた。


「いいだろう!! 派手に殺ってやるよ!!」


 俺は両手に魔力を練り纏う。


 イタチ悪魔が何か仕掛けようとしているのだろう、奴の周りの空間が歪むが……


「コレテ、ジネッ……」


 素直に魔法を使わせる気はない。


「ふん!」


 俺は一気に距離を詰めるとイタチ悪魔の顔面を殴る。


 すると、イタチ悪魔の頭が簡単に弾け飛んだので、頭を失った胴体を城砦の壁に向けて蹴り飛ばす。


 ドオォォン!!


 頭を失ったイタチ悪魔が高速回転し、城砦の壁をいくつも突き破りながら飛んでいく。


「おととい来やがれっ!」


 もう死んでいるだろう相手に、つい昔のマンガのようなセリフを吐いてしまったが、これは、俺は胸の奥でモヤっとする感情を本能のままぶつけただけだ。

 八つ当たりのようではあるが、半分はコイツのせいでもある。俺は悪くない。


「ったく。なんで俺は、一人寂しくこんな色気もない悪魔どもを相手せねばならんのだ」


 俺はこれから暑苦しく群がる悪魔どもに襲われ続けることになるのだ。少しくらい愚痴を吐いてもいいだろう。


「うるぁ!」


 何をもってチャンスと思ったのか、隙だらけだとでも思ったのか? 弱そうな悪魔が一体、城砦の壁の上から飛び降りてきた。


「もらったゼェェ……ぇ!?」


 飛び降りて着地した瞬間にその弱そうな顔面を掴みそのまま城砦の壁に叩きつける。


「邪魔だ」


 ドコォーン!!


 俺の城じゃないから遠慮なく壊していく。その方が派手だから。まあ、ここにいるディディスってヤツのせいで俺たちは振り回されているからその腹いせにでもあるが。


「グェッ!!」


 もちろん囲まれないよう逃げまわり城砦をバンバン壊していく。


「逃げルナ! テメェぇぇ!」


「うるせぇぇ!!」


 俺をとり囲もうと背後から襲いかかってくる弱そうな悪魔の足を払い、そのまま踏みつけて頭部を粉砕する。


次に俺の背中に張り付き自爆しようとした悪魔の両手を、


「ゴハッ!!」


 無理矢理引き離しつつその骨を砕く。そして、振り向き座間に両足に魔力を纏いバレーシュートの要領でそいつをけると、吹き飛ぶ前にパーンと音がしてその悪魔が木っ端微塵となる。オーバーキル。魔力を込め過ぎたみたいだ。


 ――ちっ、もう少し薄く魔力を練って纏った方がいいようだな。


 魔力を調整しつつ、馬鹿みたいに集団で襲ってくる悪魔の一体の胴体に向けて、右足を突き出すように蹴る。すると、今度はその悪魔の胴体に穴を開けた。


「これでも強すぎか。あともう少し調整……ってあ〜もう! 次から次と、鬱陶しいんだよっ!!」


「グェ!!」


 壁の死角から飛びかかってきた弱そうな悪魔の錆びた剣を左手の平に集めた魔力で弾き、そのまま隙だらけになった腹部に拳を叩き込む。


ドフッ!


 弱そうな悪魔の身体が一瞬だけ浮き上がりそのまま崩れるようにドサリと倒れた。確かな手応え、多分殺っただろうが、そいつの生死を確認している余裕などない。


 油断すれば、四方から襲われ行動が制限される。最悪追い詰められ行動できなくなってしまう。


 ――ま、今のところは、その心配はないがな……


 なぜなら襲ってくる悪魔が弱いから。

 こんな奴らに囲まれたって余裕で強行突破できる自信がある。


「そっち二ッ……ゴハッ!!」


「ふん!! よそ見はダメだぜ」


 また一体と悪魔を葬る俺。派手にやってやるっ気合いを入れていたが、若干飽きてきている。


 ――あ〜しかし、数が多いわ。まあ、強そうな奴が来たら城砦の壁を破壊しまくって逃げてやるつもりだが今のところそんな気配はない。

 もしかして廃棄悪魔って力が吸われ過ぎていて弱った奴しかいないのか?


 そんなのことを考えつつ、俺はなるべくナナたちのいる方に廃棄悪魔が向かわないに注意しながら狩り続けた。


 ――――

 ――


「ここまでくればもう大丈夫ね」


 ナナのそんな声に霞んでボヤけていたナナたちの姿がはっきりと現われた。ナナが幻術魔法を解いたのだ。


「お、おい。いいのかよ。アイツ一人残してきて。クローはお前の主なんだろ?」


 グラッドのその言葉にピクリと反応したナナは眉を吊り上げて睨む。


「仕方ないじゃない! あなたが不用意に魔法を使うからこうするしかなかったのよ。ほんとうはあたしだって……、クローさまから離れたくなかったんだから……」


 だんだんと勢いのなくなっていくナナの言葉を聞きグラッドはすぐに謝罪した。


「す、すまん」


 それはグラッドも自覚していたところだった。

 自分の軽はずみな行動でクロー一人を残して来てしまったと。


「あの時は……」


 グラッドは拳を堅く握った。


 普通の悪魔なら罪悪感など感じることないが、グラッドは違う。前世の記憶が僅かにあるのだ。

 だからこそ自分も何かしなければ、なんとかしなければ、という思いと、何もできない不甲斐ない自分に苦しみ。無意識にだが、自分の胸を押さえていた。


「グラッド。ほら、あなたも気配で分かるでしょ? クローさま、あたしたちが認識されないように派手に暴れている。

 弱そうな悪魔だけじゃなく、強そうな悪魔の気配までクローさまを排除しようと動き始めてる」


「そう……だな」


「あ、あの……その……クロー様は大丈夫なのですか?」


 黙って聞いていたイオナがおずおずとした様子でナナに尋ねた。


「何が?」


「クロー様は第9位ですよね?」


「そうだよ! アイツ第9位じゃん、ここから感じる気配でも全然負けてるじゃねぇか」


 イオナの問い、グラッドも今思い出したように同意する。


「ん〜……大丈夫と思うよ」


 だがナナに焦りはない。


「何でそう思うんだ? やはり主だからそう信じたいのか?」


「違うよ……あたしの場合は……勘かな」


 ナナはクローが本気になった姿をはっきりと見たわけではないのだが、力強くて頼りになる主だとナナは信じて疑っていないのだ。


「勘ってお前……それって大丈夫なのかよ」


呆れるグラッド。


「それよりほら。ゲートに向かってる弱そうな悪魔を少しでも狩るよ。

 あなたのせいでこうなってるんだが、悪いと思ったら少しくらいクローさまのために働いてよ。油断してる背後からとかで」


「分かってるよ……なあ、でもいいのか?」


「何がよ?」


「俺は結果的に自分のためになるから良いんだが、これって、元々はクローの契約者、というかアイツの妻を助けるためなんだろ?」


 気になったことはつい聞きてしまう性格のグラッド。ナナに気遣いつつも気になったので尋ねてみた。


「そうよ、それが何?」


「いや、だから、お前以外の女のために……ってことだよ」


「ん〜? あなたの言ってることの方が分からないわよ」


 ナナが意味が分からないっといった様子で首を傾げる。


「えっ? 何でだよ。だってお前、どう見てもクローのことが好きだろ」


「そ、そうよ。でもあなたには関係ないでしょ」


 グラッドの言葉に顔を真っ赤にするナナ。


「だから……そうじゃなくて」


「あーもぉ、うるさいわね。契約者は人族よ! 悪魔じゃないもん、あたしと関係ないの」


「へ?」


「だから、クローさまは悪魔なの。人族は関係ないの」


「え? ええっ? そう、なのか? 妻っていてるけど?? ……イオナたちもそうなの?」


「私もグラッドが何を言いたいのか理解できません。悪魔と人族、それ以外に何を想えと?」


イオナは眉間に皺寄せ、


「ああ、悪魔は悪魔。人族は人族だろ。人族はあたいたち悪魔にとって大事なエサ(感情値の素)だろ」


 ライコは首を振った。


「そう……だったな。変なこと聞いてすまん。俺、何か勘違いしていたようだわ。

(そうだった。忘れてたよ。俺としては前世の記憶のせいか、人族だろうが、悪魔だろうがどちらも関係なく女は女だ。そう思っちまうんだよな……

だから俺はまたあいつらの所に帰りたいと思うし、はぁ。しかしクロー! お前はなんて羨ましい奴なんだ)」


「ほら、あんたも変なこと言ってないで働く」


「分かった、分かったから、背中を叩くな!!」


 そう言ったグラッドはゲートに向かう悪魔の中でも比較的弱そうな悪魔の気配を探ると、


「よし、いまだ」


 隙だらけで頭上を通りすぎるその瞬間を狙って魔法を放つ。


「爆撃魔法:網弾(ネットバレット)!!」


 魔力の小さな塊が飛び出し悪魔の手前で弾けると、魔力の網が広がり飛んでいる悪魔を包んで拘束した。


「何よ、その魔法。見たことないわ……」


 ナナはグラッドの使った魔法を見て純粋に驚いた。

 ナナはある程度教育を受けている。それは魔法についても。それなのに記憶にあるどの魔法にも該当しなかったからだ。


「そうか? まあ、俺のオリジナルってことかな……」


 グラッドは得意げに笑みを浮かべると、拘束されてもがいていた悪魔に絡まる網を操作して地面へと叩きつけた。


 訳が分からないうちに地面に叩きつけられたその悪魔は、その痛さに呻きゴロゴロ転がる。


「ぐアアァァ!!」


「よし、うまくいった」


 結構な音を立ててしまったが、ナナの幻術魔法の効果で他の悪魔たちには気づかれていない。


「今のうちに、イオナたちのその武器を試してみた方がいい」


 グラッドは拘束した悪魔が逃げ出さないようにもう一度魔力を注ぎイオナたちに視線だけを向けた。


「分かった」

「ああ」


 イオナ、ライコの順にクローに貰った武器を振る。


「ぎぁぁぁぁ!!」


 悪魔はキズつけられた痛さに呻き転げ回るが、それは致命傷ではないため、そのキズはすぐに再生し始めている。


「へえ……その武器でも肉体的なダメージを与えることができるのか。すごいな。

 でも悪魔そのものを倒すまでには至らないんだな」


「そりゃそうよ。普通の武器でダメージを与えられるだけでもおかしいんだから、トドメをあたしとあなたが刺せばいいことでしょ」


「ああ。それでも、これからのために確認しときたかったんだよ」


「はい、はい。それでどうするの?」


「ああ、イオナたちは、手足や翼を集中的に狙ってくれ、そうすればその悪魔の行動を一時的でも妨げることができる」


「分かった」

「ああ」


「ふーん」


「何だよ?」


「あなたもなかなか考えているのね」


「ふん、これくらい誰でも考えつくわ。えっと、あとは、そうそう。イオナたちは特殊攻撃や魔法攻撃には気をつけろよ、耐性がほとんど無いはずだから」


 その後、グラッドたちは比較的弱い悪魔を狙って一体一体着実に狩っていく。


「よしよし、いい感じ。だが……」


「はぁ、はぁ」


 イオナたちは体力も奪われ低下しているようで、すぐに息ぎれをし肩で息をしていた。


「ちょっと休憩しましょ」


「すみません」

「すまん」


 彼女たちはすぐにしゃがみ込んだ。


「気にするな。結構狩ったつもりだったが……そうでもないな」


 グラッドは十数体の死骸の山を見てそう呟いた。

 一人あたり三、四体狩った計算になる。


 クローの方からは相変わらず派手な轟音が聞こえ一度に結構な数の悪魔の気配が消えていくこともある。

 ナナの言った通りクローは大丈夫そうで、グラッドの気持ちは少し軽くなっていた。


「しかし、こいつらの目。やっぱ異常だよな、血走ってて充血したような真っ赤な目をしてやがる」


「そうね。あたしも思ってたけど、これ絶対何かやられてるわね。

 動きも単調だし思考能力も……ほとんどない感じ? まるでゲートに向かうことしか頭にないみたい」


「あ〜それ、俺も思ってた。やっぱりそう思うよな。俺もあの時ディディスの所に戻っていたらこいつらみたいになってたのかよ」


 グラッドは操られている自分を想像して、ブルリと肩を震わせ顔を青くした。


「それよりさ、これっていつまで続けるんだ?」


ふと疑問に思ったことを口にするグラッド。


「ん? そんなの決まってるじゃない、クローさまがやめるまでだよ」


 それに対してなんでもないように応えるナナ。逆になぜそんなことを聞くといった様子でナナは目を細めた。


「そ、そう……な、なあ、それっていつだよ」


「さあ。あたしには分からないわよ」


「ウソだろ……」


 これはとんでもないことになったぞとグラッドが思った、そんな時、


「クケケ、オレが教えてやろう」


「ああ、って、え、誰……ぐはっ!!」


 グラッドはいきなり現れたヘビみたいな悪魔の細長いシッポによって払い飛ばされていた。


「ネズミ見つけたわ。クケケ。お前たちはここでシヌ。だから続ける必要はない。クケケ、嬉しいだろ」


 ヘビみたいな悪魔は細長い舌をチョロチョロと出し大きく裂けた口元を上げ、にやりと笑う。


「てっ、てめぇ!!」


 グラッドは口から流れ出した血を右手で乱暴に拭き取ると、すぐに立ち上がるが、受けたダメージが思った以上にあったのか、少しよろける。それもそのはずだ。


「!?……こ、こいつはヤベェ、第D6位↓だ……」


 グラッドは相手の気配を探り顔色を悪くした。


「ここはひとまず逃げることが先決よ。幻術魔法:幻影……きゃっ!!」


 ナナもすぐにまずいと感じ、間髪いれず幻影魔法を放とうとしたのだが、叶わなかった。


 ナナが手を突き出した時にはヘビ悪魔がうねうねと伸ばした自分の影が鋭く尖り襲ってきていたのだ。


 咄嗟にナナは両腕をクロスさせて後方へ跳躍したが、両腕、両脇腹に激痛が走った。


「う、うう」


 ナナの両腕、両脇腹には10円玉サイズの穴が開き、すぐに流血する。


 イオナたちが前に出てナナを庇おうとするも、ナナが首を振り片手を広げて制すると、すぐに回復魔法を自分にかけた。


「ダメ。今のあなたたちだと耐えきれない」


 そう言うナナもキズが深く自己再生では追いつかないと判断して回復魔法を使っていた。


 そんなナナの額には脂汗が浮かび上がり苦痛で歪んでいる。


「おい、大丈夫か!?」


「大丈夫と言いたいけど……無理」


「クケケケッ、ネズミはネズミか……オレは忙しイ。まとめて死ニナ」


 そう言ったヘビ悪魔の両腕が細かく別れると、無数の毒々しいヘビの姿へと変貌していく。


「おいおいあんなのに襲われたら一貫の終わりだぞ。くそっ、爆撃魔法:火炎砲(フレイムガン)!」


 半ばヤケクソのようにグラッドの両手から高熱の炎が放たれ渦を巻く、かなりの高温だが、無数のヘビがその炎を呑み込んでいく。


「う、ウソだろ!!」


 隙をついて練った魔法だった。グラッドは致命傷までは期待していなかったが、逃げる時間くらいは稼げるだろうと思いっていたのだ。


「ククク」


 ヘビ悪魔はご機嫌なのだろう、カラカラと不愉快な声を上げて笑った。


「お前のすかしっぺのような炎、なかなか楽しかっゾ、ご褒美にオレのペットの餌にシテヤルヨ」


 ヘビ悪魔の両腕から生えた無数のヘビが鋭い牙を向けて飛びかかってきた。


「う、動けねえ!!」

「私もです」

「くっ!!」

「なんで影が!? ……」


 両腕のヘビばかりに注意が行ってナナたちは気づかなかった。

 ヘビ悪魔の両腕のヘビが動き出す少し前に、ヘビ悪魔の影が四人の足首に巻き付いていたのだ。


 四人は逃げられないと悟ると襲いくるヘビからの痛みに耐えようと全身に力を入れた。


「うっ!!」


 だが、ナナたちが待てども待てども、その痛みが来ない。

 不思議に思い顔を上げたナナたちは二本の銀色の閃光をその目に見た。


「な、何?」


 閃光が走る度にヘビ悪魔がどんどん細切れのように小さくなっていく。


「これは、どういうことだ!」


 すぐに状況が理解できず、四人はこの不可解な現象を眺めることしかできなかった。


 何故ならその出来事はほんの一瞬の事で動こうと思った時には目の前に小さな黒装束を纏った悪魔が二人立っていたのだ。


「良かったガゥ」


「うん。良かったガウ」


 だが、その二人の悪魔はナナたちと話すのではなく、何やら二人で向き合って話し出した。


「ニコ自信無くしてたガゥよ。弱くなったと思ってたガゥ」


「それガウ。ミコもそうガウ」


 黒装束を着たチンチクリン悪魔。銀色のふわふわした尻尾をゆらゆら揺らし二人で何やら語っているのだ。

 その内容は、このチンチクリンの悪魔たちに何かしらがあって自信をなくしていたとかいないとかナナたちにはさっぱりの内容。先ほどの戦闘と何か関係があるのかも分からない。


「ニンジャ……だ」


「あ、あなたたちは誰。もしかして助けてくれたの?」


 グラッドが意味の分からない言葉を呟くが、今はどうでもいい。

 それだけナナは目の前の悪魔が気になっていた。いや、警戒していた。


 でも、戦闘行為が終わってから、なぜか二人の世界に入っていて、こちらに興味がなさそうなちっちゃいチンチクリ悪魔。

 果たして、目の前の悪魔は敵なのか、味方なのか……不安は尽きない。


 気配を探るが全く読めない。こんな悪魔は初めてだった。得体が知れない。

 ナナはまた違った恐怖に襲われていた。


「ねぇ?」


「あ」


「あぅ」


 チンチクリン悪魔がナナに気づき向き直る。

 ちっちゃいチンチクリ悪魔の口元は黒い布キレに覆われているので、大きな瞳しか見えないが、その瞳にも、動きが見えず感情が読めない。


「んと。たまたまガゥ」


「ミコは、飽きたからもう帰るところだったガウ」


「そう、なの?」


「そうガウ」


「ニコ、早く行くガゥよ」


 チンチクリン悪魔は淡々とした抑揚のない口調で感情が読み取りにくいが、敵意はなさそうに感じた。


「でも助かった。ありがとう」


 横からグラッドがチンチクリン悪魔に向かって頭を下げた。


「うん。あたしも何かお礼をと思ったけど、たまたまなら……」


「なら霜降り肉……もごもご」


 一体のチンチクリン悪魔が、もう一体のチンチクリン悪魔の口を慌てて塞いでいる。


「しもふり、にく?」


「な、なんでないガウ、ニコ行くガウ」


「ガゥ」


「ま、待って!!」


 ナナがそう叫んだ時には銀色の閃光が走り抜けた後で、チンチクリン悪魔の姿はもうどこにもなかった。


「やっぱりあれはニンジャだよ」


 紅潮した顔で興奮するグラッドがまた意味の分からない言葉を口走っていた。

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