第81話

「ん? ナナ、ちょっと待ってくれ……ラットから念話がきた」


「ラット?」


 グラッドたちは俺の使い魔のことなんて知らないから首を傾げている。


「ん? ああ、俺の使い魔だ……」


 絡んできたグラッドから「使い魔か、俺にも昔はいたんだよな……」なんて呟き声が聞こえたと思えば、勝手に感傷に浸り出したので、こいつはもうほっといてもいいだろう。


『どうした、何かあったのかラット?』


『あるじ……』


 しばしラットからの念話に耳を傾ける。


『……ぬっ!? ……む……うむ……そういうことか……そうしてくれ……ああ、構わん……じゃあ、頼む……ん? まだ何かあったか? ……ほぉ……おお!! ……ラット分かってるじゃないか……よしよし、後で大チーズ二個な』


 ラットからの念話は状況が変わったことの報告と、おまけの思念映像。

 そのおまけの思念映像が大変すばらしくご褒美を与えることにした。これからも頼むと。

 報告が済んだラットから嬉しそうな思念が伝わるとラットからの念話が切れた。


「ねぇねぇ、ラットちゃんなんて?」


「ああ、それがな」


 その内容は街全体で起こった異変現象のことから、教団側が街全体に聖域魔法陣を展開したことについてのことだった。

 ただ注意しておかなけばならないのが、その聖域魔法陣を破壊を目論む悪魔たちを、俺の助けに少しでもなればいいな、と思った彼女たちは、その悪魔たちを逆に討伐してやろうと判断したらしい。しかもやる気満々なんだとか。


 セリスは元聖騎士だけあって悪魔と交戦した経験がある。

 聖剣がなくとも俺の与えた魔法剣をもってすれば相手が高位悪魔でなければ悪魔討伐も可能だろう。


 だがしかし、エリザとマリーは違う。一応、俺の付与魔法付きの装備品を身に付けているし、セリスと同じく魔法剣も持たせている。

 だが悪魔との戦闘経験はない。何かあったらどうするのだ、という思いが先にくる。


 だが、俺が妻たちを心配するだろうことを読んでいたらしいラットは、俺が頼む前に魔力使用の許可を求めてきた。妻たちのフォローは任せてほしいとね。


 さすがはラット、それなら俺も安心する。


 しかし、妻たちに想われて悪い気はしないが、できれば俺が傍にいる時にしてほしいものだと思ってしまうのは感情が人族だった頃の記憶に引っ張られているからなのだろうか。ま、それはそれで構わない。別に不愉快じゃないしな。


 最後にラットは彼女たちの揺れるおっぱいの思念映像を送ってきた。マリーは揺れてないけど、角度が下からのアングルだから下着が見えていたんだよな。みんな元気そうで良い。


 でも、こんな技術は持っていなかったはずだがさすが優秀ラット。俺のためになることなら好きにさせた方が面白そうだ。ということでラットにはそんな許可だした。


 元聖騎士のセリスもいるんだ無理はせんだろう。


 そんなことナナに伝えていると、


『あるじ……』


「ん? 今度はズックからだ……」


「あら、ズックちゃん?」


『ズック、どうした?』


 ズックもラットの真似をして念話をしてきた。


『ん? どうしたズック』


 ただ特に何か伝えたいことがあったわけではなく、ラットを追うズックの思念が延々と伝わってきた。要するにラットを慕うズックはラットの真似をただしたかっただけようだ。まだ生まれて間もないから仕方ない。


『うむ。ズックもラットばかり見てないで、俺の妻たちを頼むな。

 後でズックにも大チーズ二個あげるから頑張るんだぞ』


 ズックの嬉しそうな思念が伝わり念話が切れた。


「ということでナナッ。予定変更する。ゲートに向かって少しばかり廃棄悪魔を狩ってしまおう」


「そう言うと思ったよ……」


 ナナがやれやれといった感じで首を振る。


「ナナは俺の側から離れるなよ」


「はーい」


「ちょ、お前。急にどうしたんだよ。何もしないんじゃ……」


 グラッドが驚き俺の肩を掴んでくる。いや男から触られても嬉しくないんだが。


「彼女たちが俺のために戦うからな、俺も少しは働かんと示しがつかんのだ」


 グラッドの問いに応えつつその手を払い除ける。さっさと行かなければ。


「彼女たち?」


「クローさまの契約者だよ」


「それって女?」


「ん〜ちょっと違う。クローさまの女はあたしで、契約者はクローさまの妻だよ。クローさまがそう呼んでる」


「はぁ、つ、妻だと!? しかもお前はあいつの女なのか……くっ羨ましくなんてないぞ」


 ——ちっ、俺の側にいろと言ったのなナナのヤツ。


 グラッドに捕まり話し込んでいるナナにちょっとばかり苛立ちを感じ、


「ほら、ナナ! 何してる、行くぞ!!」


「はーい」


 口調がちょっと強くなったが、ナナは気にした感じはなく、低空飛行で側まで飛んでくる。


「よし、行くぞ」


 ナナが側に来たのを確認してから俺も飛び上がったところで、


「お、おい!! 待ってくれ!! 俺もだ。俺も行くっ!!」


 立ち呆けていたグラッドも慌てて飛び上がりこちらに向かってくる。そして、


「あたいたちも連れてってくれっ!!」


 無言で俺たちの様子を窺っていた彼女たちからもそんな声が。


「ん? お前たちは……」


 足手まといになる、そう口にしようとしたが、彼女たちの必死な表情を見て、その言葉を飲み込んだ。だが忠告はしておこう。


「悪魔の数も減るだろうから、ここに居れば安全だと思うが?」


 それでも彼女たちは首を振った後に頭を下げる。


「何もしなければどうせ消される、あたいは最期まで好きに生きたい」


「お願いします」


 ここで断れば彼女たちは勝手に突貫して勝手に自滅しそうな勢いだ。


 ――なんでそう死にたがるかね……


 俺は一度地上に降り彼女たちの前に立つ。


「……はぁ、お前たち、名前は?」


「あたいは」


 彼女は獣系の悪魔牝虎人族=デビルティグリス族の彼女は815号だと名乗った。


「私は」


 俺と同系統の悪魔女人間族=デビルウーマン族の彼女は107号だと名乗った。


 やはり彼女たちにも名前はなかった。俺と同じく番号のみだった。悪魔社会はこういうもんなんだろう。


「お前たち呼びにくいな、よしっ。815号はライコ、107号はイオナ、と呼んでもいいか?」


「クローさまのばかぁ! 名付けは……」


 ナナが慌てて降りてきたが、何か不味かったのだろうか。と疑問に思っている間にも、


「わかった!」

「はい!」


 彼女たちが承諾した途端、魔力が少し抜ける感覚がした。


 ——ん?


【第D10位↓悪魔ライコが配下(仮)になった】

【第D10位↓悪魔イオナが配下(仮)になった】


 ――はあ!?


「ちょ、ちょっと待て! なんか変な囁きが、って、なんでそうなるんだ!」


「名付けは配下契約の基本だよ。知ってるでしょう?」


 ナナが頬を膨らませながら俺の背中に抱きついてくる。


「うぐっ!」


 ――そうだった。確かに意識すればそんな知識がある。

 これはやってしまったな……くそぉ、何故か、相手のことを数字で呼ぶことに抵抗があったんだよな。物みたいでさぁ……


「でもでも、廃棄悪魔は管理悪魔の決裁が必要だったはずだから正式な配下にはなっていないはずですよ、ね? クロー・さ・ま?」


 背中から俺の顔を覗き込んでくるナナ。おっぱいは気持ちいいが、その表情は珍しくちょっと怒ってるっぽい。


「なってないですよね?」


 ナナはさらに腕を俺の首に回して、抱きつく力をぎゅっと強める。もちろんおっぱいは気持ちい。


「あ、ああ。大丈夫、なってない。なってないぞ」


 しれっと脇腹を摘みシッポをぺちぺちと俺の脚に当ててくるナナ。


 ナナは笑みを浮かべてるのに、その笑みが初めて怖いと思った。


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