第73話
クローが眠りに入った後の女子会。
「なんと、エリザ殿と、マリー殿にはそのような経緯があったのか!!」
セリスは寝ているクローに崇拝するかのように熱い眼差しを向けた。
「クローさま。変わってると思ったけど……やっぱり変わってた。
ぷっふふ、クローさま猫になったんだね、楽しそう」
エリザとマリーはケラケラ笑う悪魔ナナと、胸の前で両手を組み祈りを捧げている元聖騎士セリスが、敵対することなく同じ空間にいるという不思議な光景に顔を見合わせて笑う。
「ねぇねぇ、セリスの話も何か聞かせてよ。聖騎士ってどうだったの? どんな感じ?」
ナナは聖騎士について少し興味があったのか、急にセリスに見てそう言った。
「ん? 聖騎士か……聖騎士の話は話せぬようになってるからな。私個人のことなら大丈夫だが」
セリスはそう言って左腕に小さく刻まれた紋様を見せてくれた。
これは聖騎士や教団が不利になる情報が言葉にできなくなるというものだった。
そこでセリスは初めてクローに出会った頃の話を語り始めた。
不思議な人。いや悪魔、それがセリスが初めて会いクローに抱いた印象だったらしい。
そんな不思議だと感じる人に出会ったことがなかったセリスは、気になってつい縁結のスキルを使ってしまったらしい。
「縁結スキルって何?」
「ああ。それは……」
相手に触れると一度だけ小さな縁を作ってくれるセリスの所持する不思議スキル。
それは一度再会するとその効果は消えてしまうので、また相手に触れスキルを使う必要があるのだとか、職業がら怪しい人物に何度か使ったらしい。
セリスはそれをクローに二度使ったらしいが、それは怪しいと感じたのではなく、純粋にまた会いたいと思ったからだと照れくさそうに言う。
「そうだったのね」
「だから、握手してたんだ!」
「う、うむ。すまん」
その二度目の縁結スキルの結果、クローが強力な悪魔だったと知ってしまった事や、契約したが後悔はない事を淡々と語り、最後は他の聖騎士たちに契約されなくてホッとした、自分で良かったと照れながらもセリスは語る。
「良かったわ、私とマリーは心配したのよ。ね、マリー」
「う、うん。聖騎士って……ほら、クローの天敵だったから」
「さっきはクローが居たから、ね」
マリーはエリザは苦笑しつつお互いの顔を見合わせてから頷く。
「ふーん。あたしも聖騎士とまともな契約する悪魔って初めて聞いたなぁ……
クローさまってほんと変な悪魔なんだよね……あ〜、でも……もうダメだと思った時に助けに来てくれた王子さまなんだよね」
ナナが、何やら思い出したらしく赤くした顔を両手で覆い、一人ジタバタ、きゃーきゃー言いながら悶えだした。
ナナも十分、変な悪魔だよ、と思う三人だったが、あえて口にはしなかった。
「主殿は……他の聖騎士とでも契約を締結していただろう。
エリザ殿とマリー殿の話を聞いて余計にそう思う」
少ししょんぼりとした表情でセリスが言うと、
「クローって悪魔だけど、元々人間だから優しっ……「そうなのか!?」
「あっ」
マリーがしまったといった様子で口元を押さえて、気まずそうにエリザを見た。
エリザは眉尻を下げつつも、言ってしまったんだもの仕方ない、って顔をした後にセリスを見る。
「セリスさん、クローは何だかんだで優しいの」
「うん、でも夜の暴走は、困りますけど」
「そうよね。あれは……身体もたないものね」
「なるほど。私は色々な悪魔と対峙してきたが……やはり主殿は普通の悪魔ではなかったのだな。ふふ、私の目に狂いはなかった。
しかし、夜の暴走とは、身体がもたないとはどういう事だ?」
「あ……いえ。セリスさんも……その内に分かるよ」
「そうかしら。セリスさんは体力があるようですし……意外と」
「身体は鍛えているからな体力には自信があるが……
よく分からないが……今は分かったことにしとく方が良さそうだな」
「あはは、そうしてもらえるとうれしいかな。
それで、あの〜。少し気になったのですが、セリスさんには、聖騎士たちの中で親しい人は居なかったのですか? 言いにくいのですが、ほら……クローは悪魔ですし、契約期間は交流は難しいかな〜と、思ったので……」
マリーはクローのことなのに自分のことのように、申し訳なさそうにセリスの顔色を窺った。それはエリザも同じだった。
「マリー殿。それは気にしなくていいぞ。私にはそんな繋がりはない。親しい人もいないのだ……」
少し寂しそうな表情をしたセリスは、顔を上げてから何処か遠くを見つめるようにポツリポツリと語りだす。
セリスは孤児だった。運良く魔力があったために教会に引き取られ、聖騎士となった。
その時は、これで飢えなくて済む。食べていけると、魔力があったことに感謝した。周りの皆も優しかった。
ただ虚実眼スキル発現した15歳からは皆の態度が一変した。皆がセリスにヨソヨソしくなったのだ。
それはどんどんエスカレートしていき、会話もなくなり、仲間はずれに。
それは聖騎士になってからも続き、分隊での行動が多い聖騎士隊なのに、セリスだけは同行を嫌がられ単独行動の任務が増えていったそうだ。
その任務も明らかに単独では難しい任務が多く、何度も死にかけたそうだ。
そして、その難しい任務を完遂したとして扱いは変わることなく、常に単独行動。
与えられる任務も減らない、そのせいもあり気づけばSランク聖騎士を名乗っていた。
だが周りは孤児であったセリスが、出世する事が面白くなく、よけいに孤立してしまった。
セリスは別に出世して権力が欲しいと望んでいたわけではない。
お腹一杯食べていければいい。そう思っていただけ……
セリスには死んでも困る親族が居ない孤児だから……
便利なコマとして利用できると判断されていたのだ。
それだけではない、セリスを道具のように扱う上層部だが、そのやりとりを、周りは勝手に気に入られていると勘違いし酷い嫌がらせも受けていたのだとか。
「だから私は、任務を支部で受け取り本部には戻らぬようにしていたのだ」
「それは……」
セリスのあんまりな扱いに、エリザとマリーは何も言えなかったが、そんな二人のことを気にせずセリスは話をつづける。
「私はそんな毎日に疲れていたのだろう。だが、私には力がある。
救える命は救いたいと思う自分もいた。それが聖騎士としての義務だから……
人が困っているとつい首を突っ込んでしまうのだ」
「習慣とは恐ろしいものだ」とセリスは苦笑する。
「そんな時、私を正面から受け止めてくれたのが主殿だった」
セリスは先程のやり取りを思い出しているのか少し照れくさそうに頬を掻いた。
「そう、なのですね。それを聞いて少し安心しました」
「ああ、正直、契約という縛りではあるが、今の私にはこの胸の奥に感じる繋がりが嬉しい……
私は……思ってる以上に孤独を感じ、誰かとの繋がりを求めていたようだ」
「今が一番心地よく心が落ち着く」とセリスは胸に手を当てゆっくりと瞳を閉じた。
「それ分かります」
「ええ、セリスさんも私たちと似てますね」
「だから、私はこの繋がりをずっと……」
エリザとマリーはセリスが最後に発した言葉を聞き嬉しそうに受け止めた。
ただ一人だけは、床下をゴロゴロと転がりながら悶えていたが。
「くろーさま〜」
「「「……」」」
「それはそうと、皆の話を聞いている時から思っていたのだが、私も皆と一緒のハンターになりたいと思うのだ。
それならば私も力になれるし、装備も……確かこの袋に入れあったはず……だが……」
セリスが何やら見せたいものがあるようで、ズタ袋の一つをゴソゴソと漁りだした。
「あったあった。これだ」
セリスが袋から取り出したモノに反応したのは意外にもマリーだった。
「ええ!? セリスさん!! セリスさんがどうしてそれを……」
マリーが驚き、セリスが取り出したモノを食い入るように見た。
「ん? これは昔、迷宮に逃げ込んだ悪魔が持っていたのだ。
聖騎士の鎧を着ていた私としては必要ない代物だと思い、今の今までその存在を忘れていたが、ハンターと聞いて思い出したのだ」
「セリスさん! セリスさんっ!! それって美姫シリーズの一つ“美姫の鎧・美綺弍型”ですよね!?」
マリーが興奮し前のめりになるものだからセリスは咄嗟に仰け反るようにしながら首を振る。
「そ、そうなのか? それはよく知らんが……ちょうど手に入れた時に、その近くにいた男性ハンターが親切な奴で、これはレア装備で、性能が良いから是非身につけてくれ、と言っていたことは覚えている」
「セリスさん!! これは間違いなく美綺弍型ですよ。
このシリーズは意中の異性に癒しを与える効果と、自分自身にも魅力アップ、更に物理や魔法に対する障壁、物魔障壁が付与されているはずなのです!!
あ、そうです、思い出しました。美姫シリーズの証は確か……ほら、やっぱり美綺弍型でしたよ、ここに! 左肩に小さく美姫って文字が刻まれています!」
「ん? ……ほう、確かにあるな」
「すごい。凄いです!」
興奮してテンションの高いマリーの勢いに、セリスが少し引き気味にこくこくと頷く。
「そうか。そんなに凄い物だったのか……」
「はい! 凄いです。かなり凄いのです!! これはハンター業界でも有名な偉人、装飾鍛治職人ビッキーさんが手がけた物の一つなのですからね。
その性能の凄さを巡って女性たちの争いが絶えなかったと言い伝えられているほどに……
ある女性はそれを身につけたことで王族に見初められ王妃にまでなった者までいたとか、いないとか……そんな話もあります。
ただ、そのせいでとんでもない値段がつけられ、末端のハンターでも気軽に買えていた代物でも、とても手が出せない代物へとなってしまったんです」
マリーがテンション高く拳を作って力説する。
その姿はとても珍しいが、その勢いを向けられているセリスはたじたじである。
「は、はあ」
「それで、ここからが重要なことなんです……」
マリーはピシッと右手の人差し指を立てて「良く聞いてくださいね」と話を続けた。
「ふふふ。そのビッキーさんは、高値が付けられるほど有名になった作品(防具)を、末端のハンターでもその防具を手にする機会を与えようと世界各地にある迷宮に自分の作品を隠していったのです……見つけた者にプレゼントするとね。はぁ、夢がありますよね〜。
こんな行動は、ビッキーさんが生きてる間に度々あり、亡くなった今でも、見つかってない美姫シリーズが数多く存在すると言われています」
「ほ、ほう。ビッキー殿は生涯を賭けて成されたのだな」
「はい!! セリスさん分かってくれましたか。わたし嬉しいです。
そして、セリスのそれが美綺シリーズの一つなんです。凄い事です!! ……ささ! どうぞセリスさん装備してみせてください」
「あ、ああ。わかった……」
「ああ感動です。実際にこの目で美綺の鎧を拝める日がくるなんて……素敵です」
うっとりと頬を紅潮させるマリーをよそにセリスはごそごそ、もぞもぞ、とその美姫の鎧・美綺弍型を身につけた。
「ど、どうだろう?」
「うわぁ!! セリスさんスラーと背が高いのに女性らしいから凄く似合います。これならクローも大喜びですよ……羨ましい……ですね」
「ほ、本当か?」
「とても似合ってます。ね、エリザ。セリスさん似合ってるよね?」
「ええ。良く似合ってるわ。これなら間違いなくクローは癒されるって大喜びするはずだわ……
でも、私知らなかったわ。ハンター業界も奥が深いのね。
身を守る装備品でも美しさを兼ね揃えた防具があるなんて……」
「エリザも分かってくれたんだ。美姫シリーズの美しさは最高峰なのです」
「そうね、白に銀縁がまた神秘的で美しいわ……正直羨ましいくらいよ」
「ふふふ。エリザ、安心して。美姫シリーズは数多くあり、発見されていないモノがまだまだ迷宮に残っていると伝えられているのです」
「そうなの?」
「そうなのです。わたしもハンターとして活動をしていた身ですからね。美姫シリーズの情報はちょこちょこ入るのです」
「ほう」
そこで少しマリーのテンションが少し下がった。
「実はわたし、情報を掴んでいてもセリスさんの美姫シリーズを目の当たりにするまでは、ハンター協会がハンターのなり手を増やすために流した偽の情報かもって疑っていたんですよね。
美綺シリーズは全て回収されていて迷宮にはもう残ってないって。夢物語だろうと思って探すこともしませんでした……
でも、今は違います。これは機会があれば探すべきです。
特に美姫シリーズの一つ美姫の鎧・灰暮型。わたしこの鎧の情報を持っているんですよ……とは言っても情報源は前のパーティーのアルマですけど……あははは」
マリーは途中から恥ずかしくなって頭を掻いた。
「情報源なんて気にすることじゃないわ。でもそうね、機会があったら探してみたいわね」
「はい! みんなで探しましょう」
「ええ。でも、こうしてセリスさんを見てると、私とマリーもハンターらしく、しっかりとした鎧を身につけた方が良いのかしら?」
「うん……そうだね」
二人はお互いの服装を見比べた。
これはクローの好みを優先して取り入れた服装だが、今のセリスの鎧姿を見ても、クローの好みに充分応えれると、二人はそう思った。
「エリザ殿、マリー殿、考えるのも良いが、そろそろ寝た方が良いのではないか?」
「うわぁ!! ほんとだ大変」
――――
――
「……と、まあこんな感じだったんだ」
セリスは美姫シリーズについて話してくれた。
全て装備すれば薄い透明な障壁が展開されるので防御面も問題なく、そして何より、エリザとマリーが俺の癒しになるとも言ってくれたのだと……うむうむ、二人は俺がおっぱいが好きって知ってるからな。
セリスは俺の反応を確認するかのようにチラチラ見てくる。
――ふむ。これはやっぱりビキニアーマーなよな……
しかしTシャツ、ストレートパンツだったセリスが、いくら俺の癒しのためとはいえ、ここまで露出の多いモノを装備してくれるとは……
エリザとマリーにも感謝だが、セリスにも何かしてやりたくなったな……ふむふむ。
「よく分かった。よし、あまりゆっくりはできないがセリスのハンター登録は今日の内にしてしまおう」
「おお!! 主殿。それは有難い……して、こ、これはどうだろうか?」
セリスは急にしおらしくなり、チラチラと俺の反応を気にしている。
ビキニタイプの装備だから全体的に露出面積が多いから、おっぱいが両腕に挟まり形を変えているのがよく見える。素晴らしい。
「ああ。いいと思うが……」
――しかし、これを他の男に……見せるわけには行かないよな。
俺はセリスのこの姿を他の男には見せたくないと思った。
そして、それは契約者だし当然だよなと勝手に自己完結する。
「に、似合わなかったか!?」
セリスの顔色がみるみる青くなっていく。
「あ〜違うぞ、まてまてセリス違う!! 違うから」
今にも脱ぎ捨てようとするセリスの行動を必死に止める。
「よく似合ってる。俺の好みでもある。ただよく似合ってるだけに注目を浴びそうだと思ってな。そこで、俺はどうしたものかと、少し考えていたのだ……なのにセリスが早とちりするか。よし、セリス。お前にはこれをやる」
俺はエリザと、マリーにやった装備品(付与付き)をセリス専用として所望してやった。
ただし、ベルトのみ、この装備には合いそうにないのでマントに変更。
「セリス武器はこれな」
「な!? これは魔法剣ではないのか!?」
「ああ。魔法剣だ。魔法剣は悪魔にも効くしな、聖剣の代わりになればと思ってな。魔力もあるし問題ないだろう。
あと、そろそろエリザとマリーにも持たせたいと思っていた。使い方を教えてやってくれると有り難い」
本当は聖騎士にもなんだが、そこは言わなくていいだろう。
それに今回はナナだけが狙われたが、エリザやマリーが狙われないとも思えない。魔法剣ならば悪魔や聖剣相手でも粘れる。粘ってくれればあとは俺がなんとかする。
「分かった。しかし、これを本当に私に、良いのか!!」
所望し右手に持っていたその魔法剣をセリスに手渡した。
「な、なんて素晴らしいんだ」
セリスはうっとりとしながら魔法剣に魔力を注ぎ、剣身を何度も発現させては消してを繰り返す。
「す、少し振ってみても……」
「それはセリスのものだ、好きにしたらいい」
「主殿……では!!」
その魔法剣の扱いに慣れたセリスは、素振りをしたくてうずうずしていたのだろう。
俺の言葉を聞き、待ってましたとばかりに喜びの表情を浮かべたセリスは再び素振りを始める。
「はっ!」シュッ!! たゆ〜ん。
「はっ!」シュッ!! たゆ〜ん。
俺はそんなセリスの姿をベッドに腰掛けてから皆が起きるまで眺めた。
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