第72話

【契約者エリザから感情値を獲得した】

【契約者マリーから感情値を獲得した】

【契約者セリスから感情値を獲得した】


 そんな無機質な声、悪魔の囁きによつて完全に目を覚ました。


 目が覚めるのが早かったのか、まだ、外は夜明け前で少し薄暗い。


 ——セリスの夢を見ていたよ……?


 シュッ!


 ——ん??


 シュッ! シュッ!!


 ――やはり音が、何の音だ?


 俺の耳に気になる音が聞こえてきたので確認しようと身体を起した、ができない。


 ――?? ああ……


 でも何となくすぐに察した。ちょっとだけ身体をずらしてみる。


 むにゅん。


 ——おっ。


 予想通り柔らかなこの感触。俺はこれを知っている。

 そう、隣にはすやすやと寝息をたてるエリザがいた。


 そのエリザが俺の右腕をがっちりとしがみつき抱き枕にしていたのだ。

 エリザのおっぱいに挟まれた俺の右腕。とても気持ちがいいが、それと同時に不思議にお思う。


 ――おかしいな、俺は昨夜……チビスケとチビコロと寝た、よな……?


 涙で枕を濡らしながら寝た昨夜の事を思い出し嬉しくなる。


 ――そうか、そうか。エリザはやっぱり俺の傍がいいんだよな。うんうん。


 大人びて見えるエリザも寝顔は年相当に見えて可愛い。思わず左手で頭を撫で撫でしたくなったのだが、


 ――ん?


 左手も動かない。が、その代わりに左腕にも柔らかな感触がある。


 むに。


 ——このちっぱい感は……


 やはりというか左隣にはマリーがいた。そのマリーは身体が小さいからか、俺の左腕をちっぱいに抱きつつスラっとして引き締まった両膝までも絡めている。


 ——ほほ……


 マリーは口元をにまにましながら言葉にならない寝言を語る。


「あむゅ……ならゃ……りゅ……」


 何を言ってるのだろう。さすがの俺でも分からない。でも元々童顔であるマリーの寝顔はより幼さが際立っていた。


 ――ちっぱいだから余計にな。まあしかし、俺、悪魔なのに……二人に癒されてるわ……

 起きようと思っていたが……どうでもよくなった。このまま二度寝でも……


 二人の温かい体温に包まれ、ふわふわとして気持ちがいい。

 その感触に流されてうとうとも再び夢の世界へと旅立とうとしていたところに、頭から顔にかけて何か柔らかいものを押し当てられた。


 むににぃぃ。


 ――ななな、なんだ!!


 むにゅゅゅゅぅっ。


 それが俺の顔全体を覆う。


 ――く、苦しいっ!!


 身の危険を感じガバッ! と勢い良く上体を起こすと俺の顔を覆い被さった正体がわかった。


 ――ナナ! ……のおっぱい。


 ナナがいる。どうやらナナが寝返りをうった拍子に俺の頭を抱える形になり、そのまま俺の顔を抱き枕代わりにしようとしていたのだ。

 危うくパイ圧死するところだった。


「お前のおっぱいも素晴らしいが……鼻と口を塞ぐのはダメだ」


 ナナのせいでうとうとほんわか気分が台無しだ。

 眠気も完全にぶっ飛んでしまった俺は三人に気を遣いつつベッドから抜け出した。


 まあ抜け出す際、三人の身体を必要以上に触れてしまったが三人は俺の予想に反して反応がない。


 ――ふむ。反応がないとつまらんな……


 と思いつつ、まだまだ熟睡している三人の寝顔を見て、いったい何時に寝たのだろうかと思わずにいられないがまあいい。


 俺がベッドから抜け出すと、


——?

 

 銀色の小さなもふもふの塊が二つ俺の視界の隅に入った。


 ――お、お前たち……


 それは昨夜は俺の心の友になってくれたチビスケとチビコロだった。

 二匹は、寝相が悪くてベッドから転げ落ちたのかは分からないが、二匹は寄り添い床下で丸まり眠っていた。


「大丈夫か……」


 二匹の身体にあまっていた布団を被せてやったところで背後からセリスの声がした。


「おおっ主殿! 主殿も起きたのだな」


「ん!? その声はセリスか、早いな。もう起きてぇえっ? ……ぶほっ!!」


 俺はセリスの声に振り向きその姿を見て思わず吹き出した。


「どうした? 私は朝の日課の素振りをしていたのだ。

 他の三人はまだ起きれぬか。うむ。まあ、無理もないな……今朝方までついつい四人で話し込んでしまったからな」


「そうなのか。そ、それでセリスは平気なのか?」


「私は聖騎士時代の習慣で、何時に寝ようとこの時間になると自然と目が醒めてしまうのだ。

 目が醒めるとどうも、身体を動かさないと落ち着かぬ……習慣とは恐ろしいものだな」


 言葉通りセリスは俺と話している間もずっと素振りをしていた。


 シュッ! たゆ〜ん。

 シュッ! たゆ〜ん。

 シュッ! たゆ〜ん。


 セリスが木刀を振り下ろす度におっぱいが上下にものすごく揺れている。


 ――揺れてるなぁ……


 しかも今のセリスの姿は露出が多く、見ていて飽きない。いや違うな。俺はその姿に釘付けになっていた。


「なあ。セリス?」


「なんだ主殿」


「主?」


「ん? そうかまだ言ってなかったな。私は君を主と呼ぶことにしたのだ」


「そうか……まあ別に、セリスが俺のことをどう呼ぼうが構わないが……

何にか理由でもあるのか?」


 ――俺、セリスに主と呼ばれるようなことしたか? まあ契約の主といえば主だけど……ちょっと違う気がするな。


 セリスは素振りをやめると額の汗を軽く払い。俺の方を見る。


「そ、その……」


 セリスは言いづらいのか少し照れたように頬を掻き俺から視線を晒し……


「……」


 そして何も言わない。


 ――はて? 


 そうなるとセリスを正面からまともに見てしまうのだが、


 ――ほほ。しかし、セリスにしては大胆というか、意外だな。


 その姿はどう考えても、地味めのシャツにストレートパンツを着ていた同一人物とは思えないほどだった。

 

 ——どうすれば進化すると、このような姿になるのか気になるわ。


 そんなことをセリスの姿を眺めつつ考えているとセリスがようやく口を開いた。


「エリザ殿とマリー殿から、エリザ殿とマリー殿が主殿の契約者になった経緯を聞いた」


「ああ」


「今までの行いも全て……」


「そうか」


「だから主殿と呼ぶ事にしたのだ」


「なるほどな……って、ちょっと待て」


「どうした主殿?」


 セリスが不思議そうに首を傾げた。


「だから何故そうなる……」


「まあ……いいではないか主殿」


 セリスはそう言葉を濁すと俺から身体ごと背け再び素振りを始めた。でもそんなセリスの耳は少し赤くなっていた。


 ――ふむ。


 これは俺に聞いて欲しくないってことだろうな。しょうがないので俺も何も聞かずにセリスの素振りを眺めることにする。


 ――うむ。うむ。


 これが実に素晴らしい。


 そうセリスの姿は、白に銀縁の金属のブラ? だろうか、そんなブラを身につけているのだが、その金属ブラが変に重量があるためか、セリスのおっぱいをたゆ〜ん、たゆ〜ん、と大きく揺らす。


 その揺れ具合ときたら絶妙で眺めているだけで非常に心地よい。癒される。

 この感覚を例えるならば、そう、光りに反応して気持ち良さげに揺ら揺ら揺れている小さな置物。首を振ってる物もある。


 あれと一緒だ。見ているだけで癒されるあの感じ。ずっと眺めていても不思議と飽きがこないあの置物。


 ——うむ。


 シュッ! たゆ〜ん。

 シュッ! たゆ〜ん。


 ――でもな、気になる……


 シュッ! たゆ〜ん。


 とうとう我慢できなくなった俺は唐突に口を開く。


「なあセリス。さっきから一つ気になっているんだが……」


 シュッ! たゆ〜ん。


「何だ主殿?」


「その格好は何なんだ? いや似合わないとかじゃないんだが、むしろセリスによく似合っているんだが、ちょっと気になってな」


 視線を下に落とせば床下には、セリスの身につけている金属ブラと同じような、白色を基調とした銀縁の籠手、ブーツ、ショルダーの金属パーツが置いているから敢えて外しているのだろうと思われる。


 今、セリスが唯一身につけているのが胸と股のパーツのみ。その胸の金属ブラの面積もちょっとおかしく少し小さい。

 ふとした拍子におっぱいがボロンと溢れそうで俺の方が気にしそう。


 それにパンツも少しおかしい。ローライズタイプで布生地っぽく見えるが同じ種類の金属のようだし、痛くないのか少し心配する。


 いや、もしかしなくても裏にはちゃんと布生地が当てられている。たぶんそうに違いない。

 じゃないと動く度に痛いはず。


 しかし、ローライズで浅く前は見えそうで見えないギリギリを攻めているしお尻は半分見えている。

 ずれて落ちていかないのが不思議。


 そんな姿になっているからこそ、露出とはほど遠そうなセリスに一体何があったのか非常に気になっているのだ。


「ああこれか。これはな――」


 少し考える素ぶり見せたセリスは素振りをしながら昨夜の事を語り出した。


 ――――

 ――

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