第61話

「クロー何見てるの……地図?」


 エリザが俺にピタリと寄り添い横から覗き込んできた。エリザが触れた部分が柔らかくて気持ちいい。


「エリザか」


 ――ふぉ!?


 それだけじゃない、その声に視線を横に、エリザの方に移してみれば、これまた絶妙な角度だった。

 エリザの片方のおっぱいは俺の腕に押し付けられ形を変えて盛り上がり、もう片方は開けた胸元から今にも飛び出しそう。


 思わず手が伸びそうになるが、後方からナナの視線を感じたのでここは大人しくしておくことにした……のだが……


「え~なになに? 何か面白いものでも見てるの~?」


 ぽよん


 そんなナナの元気な声と共に俺の頭の上に柔らかい感触が……

 ナナは男の性をよく理解し利用する(そう思っている)女悪魔だ。それが何か何となく予想はつく。


 ――ぐっ、こいつ……


 そう、振り返らなくても分かる。これはナナが後方の荷台から俺の頭におっぱいを乗せてきたのだ。


 ――俺をからかいやがって……


「見せて、見せて~」


 俺が手に待つ紙へとナナが手を伸ばしてくる。当然ナナおっぱいが俺の頭に押し付けられている。ものすごく気持ちいいがこんな誘惑に負ける訳にはいかない。


「そこからでも見えてるだろ?」


 あえて何でもないように振る舞い続けるのだ。


「よく見えないんだもん、いいじゃない~」


 俺のいう事など基本的に聞くことのないナナは今の姿はどこから見ても人族そのもの。

 俺の指示で人化させショートパンツにタンクトップのような服を魔力具現化して纏っている。


 この魔力具現化とはデビルシリーズに含まれるスキルで悪魔なら誰でも使える。俺も勿論使えるが、本来は武器などを具現化するたのスキルだろう。


 そして、このタンクトップにショートパンツスタイルは女ハンターが活動するうえでオーソドックスなスタイルらしく「これが無難だよ」とマリーが教えてくれた。この服装に胸当てやら肘当て、腰当てなんかの防具を身につけるのだとか。なるほどね。


 でもナナのタンクトップ姿ははっきり言って凶器だ。ピチピチで今にもはちきれんばかりのおっぱい……けしからん奴め。

 ショートパンツも普通じゃない。ナナが好きに具現化しているからなのかかなり短い。

 そのため、むっちりとした美脚が男の性を程よく刺激し、何度も目が奪われそうになる。実にけしからん。


 そんな誘惑をスルーしつつ俺たちは王都を目指し幌馬車を進めているのだが、人数が増えたせいで一人は後ろの荷台の方に乗らないといけない。


 まあ、これは特に話し合う必要などない。御者席の左右(俺の両隣)には妻たちを乗せる。これは今後も変える予定はない。


 というわけで必然的に荷台に乗るのはナナ。


 でも俺も鬼じゃない、ナナをちゃんと部下として扱おうではないかと、荷台にもゆったりと寛いで座れるようにソファーを設置してやった。あとクッションやら何やら細々と。

 ちょっとした小部屋の感覚。なかなかの快適空間になった。


 ナナも細かいことは気にしないようで「ありがとね〜」と軽い感じでそのソファーに横になった。


 しばらくはごろごろ楽しそうに転がっていたのだが飽きたのだろう。


 後から「つまらない、つまらないよ〜」と念仏のように聞こえていたが俺はこれをずっと無視していた。


「こら、いい加減そのおっぱいを退けろ」


「またまた~嬉しいくせに~。あたし分かってるんだよ~。今だってエリザのおっぱいを触ろうとしてたでしょ~。おっぱいが好きなんでしょ、ほれほれ白状しなさい……うりうり~」


 ナナが楽しそうにおっぱいをぐりぐり俺の後頭部に押し当ててくる。むにゅむにゅ。


 こいつは隙があれば、何かと絡んでくる、移動中、無視していたから腹いせか。かなりしつこい。


「うぐっ……ああぁぁもうっ!! うっとおしい~。おっぱいを押し付けるな」


 ――おっぱいは癒しで気持ちがいいから大好きだ。そのことを否定するつもりはない。

 だが、ナナのおっぱいはダメだ。本能が手を出すなと訴えてくるのだ。気持ちがいいのに本能が拒否してくるとか意味が分からん。


「もう、あっちに……」


 むにゅ


 いい加減鬱陶しいのでナナ自身を軽く押し後方へと追い払おうとした……のだが……俺の手に柔らかいな感触が……


「い、け……っ!?」


 ナナのマシュマロみたいなおっぱいが俺の手を優しく包み込んだのだ。ブラなんてしていないからむにゅと埋まってしまったのだ。


「きゃん。クローさまは口でなんだか言ってもあたしのおっぱいを触りたかったんだね〜」


 ナナが両手でおっぱいを隠しつつ荷台に戻り、困るわ〜とでもいいだけな、わざとらしい態度を取る。その表情はイタズラが成功した子供のような顔。にやにやしていて実に楽しそう。


「ぐぬっ」


 ――うれしいのにうれしくない……


 俺の苦虫を噛み潰したような顔を見て満足したのか、ナナは鼻歌を歌いながらソファーへと戻り横になった。


「はあ……たくっ」


「賑やかになりましたね」


 そんな俺を見て、エリザが隣でくすくす笑う。


「だな」


 ――しかし、おっぱいたゆん率は上がったな……ナナも眺める分には保養になるし。


 先ほどは悔し思いはしたが、女という生物はいるだけでも癒しになる。そう思えばこんな環境でも案外悪くない。ナナだって手をなさなきゃいいのだ。


「そういえば、マリーがやけに大人しいが……」


 マリーは隣で黒フクロウのズックを膝の上で抱きこくりこくりと船をこいでいた。


「なんだ寝てるのか……」


 俺がそんなマリーよ頭を優しく撫でていると、


「ねぇねぇ、クロー」


 俺の手元の地図を覗き込んでいたエリザが俺の裾を引っ張る。


――しかしああ、そう言えば途中だったな。


「これはこの国、ゲスガス小国の地図だ」


 もちろんこの地図はクリーン魔法でキレイして復元している。

 エリザと一緒に地図を見ようとラットに手綱を任せるとラットは嬉しそうに俺の膝の上で器用に手綱を引く。優秀なラットはなんでもできるのだ。


「ゲスガス小国ってのは山脈に囲まれた国なんだな。なるほど盆地か。ほれ、エリザもよく見てみるといい」


「はい」


 エリザに地図を渡すると、エリザは地図を見ながら指を指す。


「あ、私たちが通ってきたテイサイ王国側がここですね。西側にですね」


「ああ、そして俺たちが向かっているクルーリ帝国がここだな。東、けっこう遠いな」


「そうですね。でも、こうして見るとゲスガス小国も広いのですね」


「そうだな、今は王都に向かってるが帝国まではまだ半分も来てないか……んっ、これは?」


「さあ? 何でしょうね?」


 地図には小さく☆印が何ヵ所か書き加えられていた。


「ここから近い所にもある……」


 ――はっ!? これはもしかして迷宮か? 田舎村からも近い……

 なるほどここがダゴスケが話していた迷宮かもしれんな。


「これは多分だが、迷宮の印だろう……」


「迷宮ですか……」


「ああ。今は別に用事もないし行く必要はないけどな……」


「そうですね。今は……」


 エリザが歯切れ悪くそう言った。


「何だエリザは行ってみたいのか?」


「いえ、今はまだ。でも興味はあります」


「そういえばエリザは今、剣術を頑張っているもんな」


 俺はエリザから自分が何をしたいのか聞いていない。

 帝国に向かっているのも、ただ住みやすそうだと思ったから。まあ貴族令嬢として生きてきたんだ。自分の意見なんてほぼないようなもの。無理もない。でもそんなエリザがやり甲斐を見つけた? そう考えると、これはこれで良い傾向ではないだろうか。


「そのうち行ってみるか?」


 だから俺はそんなエリザの気持ちを尊重してあげたい。


「えっ? いいのですか?」


「当たり前だ。いいに決まってるだろ。エリザはもっと俺に甘えていいんだ」


「じゃあ、はい! お願いします。うれしいわクロー。みんなで迷宮に潜れたら楽しそうだと思ったの、ふふ」


 気分をよくしたエリザが俺の方に身体を詰めてくるので腕を回して抱き寄せる。

 やっぱりエリザは色々と柔らかい。ナナから遠慮のない視線がひしひしと伝わってくるが、今は無視。

 これは夫婦として大事な大事なコミニュケーションの一つなのだから。



 ――――

 ――


 田舎村を出てから3日目の朝。


「やった、王都だよ! 王都が見えてきたよ」


 マリーがうっすらと見え始めた王都の街を眺めて元気よく叫ぶ。


「ほんとだわ~。街が大きいですね」


 エリザもそんなマリーに元気よく応えていた。そう妻たちは元気一杯だった。


「むぅ」


 だが俺は非常に不機嫌。というのも……


「おい。チビスケ、チビコロ。お前たちは何で俺の邪魔をする?」


 今日も御者をラットに任せ、俺は幌馬車の後ろでチビスケたちを前にしゃがみこんでいた。


「聞いてるのか?」


 俺はチビスケの口に指を入れると横に引っ張った。


「アウ、アウ……」


 その指をカチカチと、チビスケは俺の手を咬もうとするがそんなこと許すはずなく、さらに指を奥に入れて咬めないようにする。


 子狼(チビスケとはニコのこと、チビコロとはミコのこと)を俺が勝手にそう呼んでいる。


「ふははは。どうしたチビスケ、チビコロ」


 チビスケは前足の肉球で俺の片手を挟み、後ろ足で猫キックじゃない、子狼キックで応戦してくる。


 一方チビコロの方は俺の隙をついたつもりなのだろう、左腕に爪を立てようとしている。


「ほほお。なかなかやるようになってきたな。だがまだまだ甘い」


 俺はそれをあっさりと払い除けてやる。


「これは野生の本能って奴だろうな」


 この子狼たち、もふもふしてて可愛らしい姿をしてなかなか面倒な奴だったのだ。


 俺が夫婦の営みに励んでいると、ナナが面白半分で乱入してくる。もちろん全裸で。本能は拒否をしてるのだが、営み中故に身体は暴走手前、止まることなんてできない。


 欲望のままナナを引き込みまとめてヤってやろうと手を伸ばしたところで、この子狼たちが乱入してくるのだ。それも一度や二度ではない。何度もだ。

 ナナが来なくてもこいつらは来る。何故だ。嫌がらせか。


「大事な大事な夫婦の営みなんだ。次はもう邪魔するなよ、分かったか?」


 お陰で、この二日間のハッスルは両手で数えるほどしか行えていない。足りない。エリザとマリー成分が足りなくて大いに不満なのだ。


 ただ妻たちはいつも以上に、つやつやてかてかで元気なのが……解せん。


「ったく、ほら肉だ……」


 俺は最高級肉を両手に一枚ずつ取り出した。エサで買収する作戦だ。エサをやる俺が一番偉いのだと教え込むのだ。


「分かったなら食っていいぞ。ほら返事は?」


 子狼たちはプイッと俺から顔を背けた。でもその瞳は肉を捉えて離さない。


「そうかいやないか……ふーん、いいのかな~。肉あげないぞ~」


 子狼たちの口からは滝のようにヨダレが滴れている。

 ふさふさもふもふの柔らかそうな尻尾はパタパタぶんぶんと忙しなく動いている。


「んん? いらないのか、いらないんだな~。ほれほれ、ほーれ、俺が食っちまお……うおっ!!」


「ねぇねぇ。クローさま。ぷりん頂戴~」


 むにゅ


 とても大事な時にナナが背中にピタッと張り付いてきた。

 もちろんこいつはおっぱいをわざと押し付けている。何度もやられているからな。誰でも分かる。


「あれは美味だよね〜。甘くて冷たくてぷるぷるかわいいの。思い出したらまた食べたくなっちゃった。ねえねぇ」


 二日前に食後のデザートとして妻たちに出したプリンをこいつは大層気に入ってしまった。


 もちろんそれはナナを喜ばせるためじゃなく、妻たちを喜ばせるために出したもの。それなのにこいつは自分のために出されたモノだと勘違いしている節がある。


「ナナは悪魔なんだ。別に食べなくてもいいだろ」


「ええ、いいじゃないの。あたし食べたい」


「いやいや、一度ならまあ、そんなおねだりも可愛いもんだが、もう二十回目だぞ。二十回。そう何度も欲しがるなよ、太るぞ」


 ナナは人差し指を立ててちっちっちと細かく振る。


「だいじょ〜ぶ。あたしは太りません、ずっとクローさまの理想の身体でいますから主思いの良い配下ですよ〜、あっ、もしかしてあたしのこと心配してくれてるんですか~」


 そう言ってから何度も体重を預けてくるナナ。おっぱいむにゅんと何度も形を変える。


「違うわ。いいから離れ……あっ!?」


 肉がない。隙をつかれた俺はチビスケと、チビコロにあっという間に肉を盗られ凄い勢いで食べられていた。

 一丁前に俺に取られまいと威嚇までしてきやがる。


「ぐぬぬっ」


「ねぇねぇクローこっち来て~。もうすぐ街だよ。ラットちゃんと代わってあげないと、他の人に見られちゃうよ」


 御者席から身体ごと向けたマリーがこちらを覗き込んでいた。


 ――ちっ仕方ない。今日の調教はここまでか。


 肉さえ与えていればその内理解するだろうと思い今日のところは諦める。


「分かった。すぐに行く」


「クローがすぐ来るって、ラットちゃんお疲れだったね」


 マリーは前に向き直ると隣で手綱を引くラットの頭を撫で撫でしていた。


「……と、言うわけだから……ってナナその手は何だ?」


「ぷりん」


「くっ、今日はこれで最後だからな」


「はーい」


 可愛らしく笑みを浮かべて手を差し出しているナナに仕方なくプリンを出してやる俺だった。


【契約者エリザとマリーから感情値4000カナ獲得した】



 ――デビルスキャン――

 所属 悪魔大事典第01号 

 格 ランク第10位 クローの配下

 【悪魔】ナンバー07

 【名前】ナナ

 【性別】女性

 【年齢】不明 

 【種族】悪魔女妖艶族=デビルリーリス

 【血統魔法】権力 ※※ ※※

 【固有魔法】 幻術魔法 

 【所持魔法】 悪魔法(誘惑・昏睡)

 攻撃魔法 防御魔法 補助魔法

 回復魔法 移動魔法 など

 【固有スキル】不老 変身 超直感 理想

 【所持スキル】デビルシリーズ

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