第56話

「エリザもマリーもよく似合ってるぞ」


 妻たちの姿に満足した俺がそう伝えると、エリザとマリーが照れくさそうにしながらも、嬉しそうに笑みで返してくる。


「よかったわ」


 聞けばエリザもマリーも色ちがいを四着ずつ、下着も五着ずつ俺の好みそうなものを二人で話し合って買ってみたそうだが、残念なことに下着についてはまだ「秘密です」と顔を赤くして見せてくれない。


 ――ぐぬ、気になる。すごく気になる。


 見せてくれないと余計に見てみたくなるのが男の性ではないだろうか。


 ――あ〜モヤモヤするぞ。


 そして次の目的地も決まりそうだ。この国の王都にはこの店(女性服専門店)の本店があるそうで、ここよりも店舗も大きく種類も豊富。そんなことを店員に聞いたものだからその店に妻たちは寄ってみたいと口にした。


 俺としても、もっと際どい服をたくさん買ってもらって俺を楽しませてほしいので大賛成。


 でもそうなると認識阻害だけでは不安だな。気配遮断もついでに付与するかな……ふむむ。


「ク……ー」


「クロー!!」


「ん、あ!? なんだどうしたんだ二人とも?」


 気づけば二人が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。どうも俺は考えすぎると周りが見えなくなることがあるようだ。いかんいかん。


「クローが急に黙るから……どうしたのかなって心配になって……」


「エリザとマリーが色っぽい服を買ってくれて楽しみが増えた。でももっと買ってもらいたいとも思っていたんだ」


「そうだったのね」


 ほんと今回は大満足だ。俺が視線を向けるたびにエリザとマリーはなんだかうれしそう。そんな妻たちの反応もまたぐっとくるんだ。


 しかし、妻たちの着る服が足りてなかった、いや無かったと言い方が正解か。なんて最低な夫だ。恥ずかしい……悪魔なんだけど。


 俺は再び妻たちの姿をじっと見る。


 ――これはたまらんな……


「く、クロー? 何かな……」


 何かを察したエリザが一歩後退りする。


「エ、リ、ザ。俺、その色っぽい服を脱がせたいんだよ」


「えっ!? ままだお昼ですから……その……」


「う、うん。お昼からはさすがに早ぃ……」


 エリザに続きマリーまで一歩後退りする。これはちょっとショック。今回は諦めよう。


「あはは……そうだよな。まだお昼だしな。冗談だ冗談」


「そそうよね」


「うんうん、クローも人が悪い」


 俺は悪魔だけどね。しかし妻たちが明らかにホッとした顔をしてる。


 ――冗談じゃなかったんだが、やはり昨日は……と言うか今朝? ヤり過ぎたようだな。


 俺は今朝の惨劇を思い出すけど、こんな可愛らしい姿で身を包んだ妻たちが悪い。今夜も激しくなりそうな気がする。気をつけよう。


 そんななんでもない会話をしていると、目的のハンターギルドにたどり着いていた。


「ここがギルドだな」


 ――……ふむ。


 ギルドに入ると中はガラガラ、ハンターらしい人物は一人もいない。


 そして受付カウンターには暇そうな剥げたおっさんが一人。ここの受付もおっさんなのか、と少しがっかりする。


 すぐに受付、依頼達成の報告して報酬をもらった。その報酬は三人でやるにはかなり安かったがお金には困っていないで、別にいい。


「初の依頼だったが無事に達成できたな」


「ええ。なんだか嬉しいわ」


「そうだね」


 エリザはギルドカードにチェックが1つ入ったのが嬉しそうだ。俺やマリーのにも入った。これはチェック10個で次のランクなのかね? 説明を聞き流していたから分からないわ。


 ――まあ、エリザやマリーが楽しそうだから気にする必要はないか。


「ねぇねぇマリー。次はどうしましょうか?」


「エリザちょっと、あれ、掲示板を見てみようよ」


「そうね。クロー、わたくしちょっと掲示板を見てくるわ」


「ああ、いいぞ」


 エリザがまだお嬢様言葉になっていたが別に指摘するまでもない。俺的には偶にでるお嬢様言葉も可愛らく感じるからだ。


 マリーが先に声をかけていたが、今はエリザがマリーの手を引き嬉しそうに依頼掲示板の方に歩いていった。


 ――くくくっ。無邪気なエリザも、小さいけど、お姉さんぶりたいマリーも可愛いな。うむうむ。


 俺も二人の後をゆっくりと着いていき依頼貼ってある掲示板を眺めるが、ロクな依頼がない。


 ――ふむ。これならもう何も受けずに王都を目指すか。そこで二人の服を買えば……ふふ、それがいいな。俺の楽しみも増える……


 俺は依頼書を楽しく眺めている二人に目を向ける。


 ――おお。


 エリザがちょうどすこし前屈みなっていて、おっぱいが溢れんばかりに揺らめいている。あともう少しで屈めば先っぽが見えそう。


 ――ふむ。これはいい。


 もちろん認識阻害がいい働きをしているので、カウンターにいるおっさんは気づきもしない。手元を見ながら何やら書類整理をしている。


 次にマリーだが、ショートパンツから伸びる健康的な美脚がなかなかいい。でも贅沢を言えば少しチラリズムがほしいところ。次はミニスカートでも履いてもらうとしよう。


 あ、でもその分ぴっちりTシャツがいい働きをしていて、よく見てるとちっぱいの膨らみの先がどこにあるのか分かる。


 ――マリーもなかなかやるではないか。


「ねぇねぇ、クロー?」


「ぬぉ!? ど、どうしたマリー?」


「ん?」


 マリーは不思議そうに首を傾けにこりと笑った。どうやらマリーは、俺がマリーのちっぱいを凝視していたことに気付いてなかったようだ。あ、エリザが自分のおっぱいを見て少し不安な顔をしている。


 俺はエリザのおっぱいを見て親指を立ててやる。エリザのおっぱいはいいぱいなのだと。するとエリザに笑顔が戻った。よかった。今度から平等に見るとしよう。


「クロー、エリザの方を見てないで、ほらほら、カウンターのさっきのおじさんが呼んでるよ」


「ん? ギルドのおっさんが? 俺を?」


 先ほどまで手元の書類の整理をしていたはずのおっさんが誰かを呼んでいる。


 周りを見たが、今、ギルド内には俺たちしか居ない。


 おっさんと視線が合った。これは間違いない。だがしかし、こういう時って厄介事の方が多いんだよな。勘だけど。


「さっきからずっと呼んでますよ。あのおじさん」


「ほらクロー。行ってあげないとあのおじさん泣きそうよ」


「ふむ。面倒そうだったからな。エリザが言うなら仕方ないな……」


 俺が近づくとおっさんは嬉しそうに微笑んだ。そんなおっさんの微笑みなど誰も求めていない。


「いやぁ、旦那なら来てくれると信じてましたよ」


「信じるな……おっさんが呼んだんだろ?」


「はい、そうなのですが……私が頼もうとする依頼はみんな警戒をするというか……嫌がるというか、はい……」


 それはよっぽど変な依頼を振ってきたからではないだろうか。おっさんの歯切れが悪いから尚更そう思う。やはり嫌な予感しかしない。


 ギルド内がガラガラなのもこのおっさんのせいなのでは? とつい疑いたくなる。


「最近は話すらできなくて、逃げられるのです」


 おっさんに声をかけられたハンターたちは、みんな逃げるようにギルドを出ていくそうだ。これは間違いない。


 そう呟いたおっさんは肩を落とし手元にある複数の依頼書を見てさらに深いため息を吐いた。


「旨味のない無理な依頼ばかり回したのではないか……」


「はぁぁ、はい。分かっているのです。それでも私は、塩漬けになりそうな依頼を処理しないと減給になってしまうのですよ。酷いですよね。塩漬け案件が増える度に私の基本給が……あぁ。今月もかなりピンチなんです」


「やはり、そんなことか……」


「それで旦那に……」


 おっさんが期待した眼差しを向けてくる。いや、おっさんからそんな眼差しを向けられてもうれしくないぞ。


「ん〜、他をあたるといいぞ」


「え? いやいやいやいや、旦那待ってください。今回は手紙を届けるだけなんですよ。隣の田舎村に……」


「手紙ねぇ」


「そうです。手紙を隣の田舎村まで届けるだけの簡単な依頼なのです」


「ほう、そんな簡単な依頼が塩漬けにね。理由は?」


 俺が疑りの視線を向けてやると、おっさんは目を泳がせながらも話を続けた。


「ははい。これが、そその。かなりの田舎村のため誰も行きたがらないんです。それで、この案件も塩漬けに……正直困ってます」


「田舎村には……行く予定はないな。俺たちが次に目指す先はこの国の王都なんだよ」


 ――ふふふ。そして、エリザとマリーに際どい服をいや、いっそのことエッチな服なんかを買ってやって、そして……ふっふっふっ。


「おお、王都ですか! それならちょうど良いですよ! この田舎村は王都に行く途中に、ほんの2日いや、3日くらい寄り道してもらえば辿り着く距離なのです。ほら、簡単でしょ? ね、ね、ね」


 おっさんが身を乗り出し必死に俺の両手を掴もうとしている。

 悪いが俺にそんな趣味はないので軽く躱しておく。


「……あのな。3日って結構な距離じゃねぇか。なにサラッと言ってるんだ、しかもその手は何だ? 俺にそんな趣味はねぇ……」


「ううっ私だってそんな趣味はないのですが、ただ、旦那、お願いしますよ。この依頼は王都にある女性専門店の店長からの依頼なんですよ。

 恐ろしいことに……今月末までに処理しないとこの町の支店を撤収するって催促がきたんですよ。

 あの店がなくなったら私はこの町全ての女性を敵に回すことになるんです。お願いします、お願いしますよぉぉ旦那」


 ギルドのおっさんは広い額を何度もカウンターに擦り付け懇願してくる。

 男の頼みなど正直うっとおしいのだが――


「ん?」


「クロー。その店さっきの店ですわ」


「ああ、そのようだな」


「私たち急ぎじゃないから受けてあげてもいいんじゃないかしら?」


「うん。わたしもクローが良ければ受けてもいいよ。あの店凄く丁寧で良かったんだよ」


 後ろで黙って聞いていた妻たちが、俺の上着をちょいちょいと引っ張り見上げてくる。


「ふむ」


 二人が、着ている服を見れば分かるが、俺でもあの店の品は良いものだと思えた。それに、際どい服も陳列させ男にも夢を与えてくれる、素晴らしい店でもある。


「ほら、旦那。お嬢様方もそうおっしゃってますし、報酬は淑女服セットが二着です。お連れ様も二人。これはもう旦那のための依頼みたいなものでしょう」


 ――ほう、報酬が淑女服セットとは……悪くないな。

 ん? なるほど、男のハンターに淑女服セットなどいらないから塩漬け案件になりそうなのか。


「分かった。王都に向かうついでに受けてやるが条件がある」


「じょ、条件ですか? な何でしょう?」


 おっさんはいつの間にか取り出した布きれで額の汗を拭っている。俺が無茶な要求でもするのではと警戒しているのだろう。


「なあに簡単なことだ。俺たちはこのまま王都に行くんだ。ここには戻ってこない」


「はい」


「つまり、報酬は本店で受け取れるようにしてほしいんだ、これくらいならば可能だろ?」


 おっさんは明らかにホッとした表情を浮かべると――


「よかったです。そんなことでしたらお安い御用です。そんなこともあろうかと既に許可は貰ってますから届け先から完了のサインを貰った依頼書を直接本店に持っていってください」


 ――なんと、仕事のできるおっさんだったのか……やるな。


「そうか。それならいいんだ。んで俺はその手紙を届ければいいだけなのだな?」


「はい、その田舎村にタゴスケという人物がおりまして、そのタゴスケさんにこの手紙を渡すだけなのです。タゴスケさんの家は、大きな木の隣にあるらしいのですぐに分かるらしいです。

 もし分からなければ村長を訪ねるといいですよ、村長の家は一番大きな家なのでそちらはすぐに分かると思いますから」


「分かった。渡すだけだよな」


「はい、渡すだけです。よろしくお願いします」


 そう言って頭を深々と下げたおっさんから俺はえらく分厚い手紙が入っているらしい封筒と依頼書を受け取った。

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