第55話

【契約者エリザから感情値1000カナ獲得した】

【契約者マリーから感情値1000カナ獲得した】


【第10位悪魔、本年の納値分に感情値が達しています10万カナ納値しますか? Y/N】


 いつもの悪魔の囁きが頭に響き目を覚ました。

 部屋の中はまだ暗い。朝の5時くらいだろうか? でも今日の俺はやけにスッキリしていて気分爽快なのだが、


 ――納値? ……ああ……そうだったな。悪魔の義務だったな。

 今日の俺は気分もいいし、ここはyesだな。納値しとこう。


【本年分の10万カナを納値しました】


 ――はいよ。


【では、第10位納値のお礼品は"使い魔の卵1コ"または"悪魔界産の蕩ける絶品お肉10キロ"のどちらかになります。ご選択ください】


 ――ぶっ!! お礼品なんてあるのか。ふるさと納税みたいだな……

 それで1つ目が、使い魔の卵か、そういえばラットから手が足りないって聞いていたな……

 今だってラットには薬師ギルドに置いてきた、幌馬車を見張ってもらっている……か。ふむ。

 2つ目が、蕩ける絶品お肉10キロ…………蕩ける絶品、なんて良い響きなんだ。食べてみたい……ん? 悪魔界産ってこれ、何の肉か分からないのか……そうなるとちょっと怖いな。これなら考えるまでもなく使い魔の卵だ。使い魔の卵を頼む。


【使い魔の卵ですね。ありがとうございます】


 ――……。


 そんな無機質な音声が響いたかと思えば、俺の手の平にピンポン玉サイズの黒い卵が出現した。


「!?」


 ――びっくりしたじゃねぇか。


【なお……】


 ――ん? まだ、何かあるのか?


【更に本年中に20万カナを追加納値しますと、第9位格悪魔へと昇格できます。納値しますか? Y/N】


 ――第9位格の悪魔にねぇ……


 そこで俺は第7位格の悪魔のだったキザ悪魔たちの最期の姿を思い浮かべた。


 ――ああはなりたくない、か。このままでいいわ。


 【……昇格を保留にしました】


 ――しかし、使い魔の卵か。何が生まれるんだっけな? 俺の記憶にはないが……

 まあ、俺が魔力を注げば2、3日で孵化するだろうことは分かるから……そうだ。せっかく珍しい使い魔の卵を手に入れたんだ。エリザとマリーにも見せてやろう。


「よっとっ……」


 思い立ったは吉日とばかりに、俺は上体を起こして両隣にいる妻たちに目を向け、


「ぇ!?」


 吃驚した。


 妻たちは全裸。これはいつものことなので別におかしくない。だが、二人の格好というな体勢が……


 ――ぁぁ……


 これは間違いなく俺のせいだろう。

 しかも時折、ぴくぴくと痙攣しているし、口も半開き(これ以上の説明はNG)。


 ――ぁぁぁ……うっ、嘘だろ……


 今回、俺の暴走は相当酷いものだったらしい。部屋中を見渡してもその凄さが分かる。


 ――まずい、まずい、まずいぞ……


「落ち着けぇ、落ち着け俺。はぁふぅぅ、はぁふぅぅ」


 ――と、とりあえずスキャン……


「……」


 ――うああぁぁぁ! ………やっぱりぃぃ、二人の健康状態が半壊に!!


「エリザァァァ!! マリィィィ~!! 誰がこんな目に~」


 ――って俺だ……


 いかん、深呼吸して落ち着いていたはずなのに。かなり動揺している……


 俺は慌てて妻たちに向け回復魔法ではなく、所望魔法を施し身体の状態を正常となるまで巻き戻した。

 ほら、二人に後遺症でも残っていたら泣くに泣けない。


「すぅぅ~」

「すやすや」


 所望魔法のあと、二人は弱々しい息づかいから、気持ちよさそうな息づかいへと変わり、今は気持ち良さげに寝息を立て始めた。


「よかった」


 俺はホッとしつつ、部屋中にクリーン魔法を掛ける。これは証拠隠滅だ。

 こんなひどい状況を妻たちに見られでもしたらドン引きどころか、冷ややかな目で見られ、一気に夫婦仲が冷え込むかもしれない。そんなこと俺は望んでいないのだ。


「これでよしっと、しかし、危なかった。もう少し自重せねば……」


 安心した俺は妻たちが起きるまでゆっくり横になることにした。


「んっん~」

「ふわぁ~」


 窓から日の光が差し込み始めた時間、前世の感覚では8時くらいだろう。妻たちが目を覚ました。二人にしてはかなり遅めの起床だ。理由は言うまでもないが。


 そんな妻たち、エリザとマリーは目を擦りつつ上体を起こし、ゆっくり両手と背筋を伸ばした。


ぷるん。


 当然、全裸なので妻たちはおっぱいをぷるぷる揺らしている。


 俺にとって非常に喜ばしい光景なのだが、今はちょっと気まずさが上回っている。


「や、やあ。エリザ、マリーお、おはよう。よく眠れたかな……?」


 俺は何事もなかったように上体を起こし二人に朝の挨拶をした。でも俺の心臓はバクバクとすごい音を立てている。

 こんなにバクバクしたのは何時ぶりだろ。いや、悪魔になってからは初めてかもしれん。


「「ああぁ! クゥゥロォォォォ!!」」


 その後、俺は妻たちにみっちりとお叱り受けた。


 死にそうになったそうだ。すまん分かってる。健康状態が半壊になっていたもんな。ここは素直に反省しておこう。

 今、二人に何かあったら多分俺は立ち直れない。それくらい二人のことが愛おしいのだ。


 とりあえず誠意を見せて正座をしておこう。えっ、ハッスルの時間が長すぎ? ……身体が壊れる? ふははは、そこは笑って誤魔化した。


「もう」

「めっだよ」


 腕を組んで頬を膨らませる妻たちが可愛い。

 でも二人とも理解しているのかな? 二人はまだ全裸だってことに。正座している俺の目の前に立つんだもの。大事なところ丸見えなんだぜ。


 ふふ。眼福。


 妻たちがみじろぎする度におっぱいだって揺れてる。


 ――ふむ。妻たちは今日も元気そうだ……


「次からは気をつけてね。ところで、さっきからクローが手に持っている、その黒くて丸い物は何かな?」


 俺の手の平に乗る卵に気づいたらしいマリーが、少し前屈みの姿勢になり覗き込んでくる。ついでだからマリーのおっぱいに触っておこう。


ぷに。


「ひゃわ」


「あはは。マリーナイスちっぱい。んで、これは卵だ」


「もう……っえ? 卵?」


「卵なの?」


 二人が何故か自分のお腹に手を当てて眺め始めた。


 ――おいおい。


「えっとな……これは、使い魔の卵だ。悪魔界から届いたんだ」


「そ、そうなんだ」

「そ、そうなのね」


 ――何故、そこで肩を落とす。二人とも卵は産めないぞ。


「2、3日もすれば孵化すると思うから楽しみにしてるといいぞ」


「う、うん。分かった」

「う、うん。そうね」


 まだ、妻たちは肩を落としているが、卵は無理だぞ。分かってるのかね?


「それより、今日は薬師ギルドの前に繋いだ幌馬車を回収してギルドに向かうぞ。依頼の報告済ませよう」


「あ、そうか。じゃあ早く行かなきゃ」


早速部屋から出ようとするマリーを、


「マリー、まずは服を着ましょう」


エリザが慌ててマリーの腕を引く。


「あっ。あはは、ボク忘れてたよ」


 それから妻たちが着替える姿を眺めつつ、所望魔法で朝食を出し、すませると、俺たちは薬師ギルドに向かった。


「あれれ、男の人がボクたちの馬車の前で倒れてるね?」


「ああ、そうだな」


 ――どういうことだ?


「何かあったのでしょうか?」


「うむ。分からんな」


 俺は少し警戒しつつ幌馬車の側まで歩くと、さらにその周りにはガラの悪い男たちが倒れていた。その数5人。


「なんだこいつら」


 息をしてるので、死んでるわけではなさそうだ。

 不思議に思い御者席を見ればラットが丸まってコロコロ一人遊びをしていた。


 ――ふむ。


『ん? 主』


 俺に気付いたラットは俺を見上げながら、スックと二足立ちしたかと思うと短い右手を額に運ぶ。


 ――ふむ敬礼? どこで覚えたのだろう? 俺の記憶か?


 別に気にすることでもないので俺はラットの好きにさせておくことにした。それよりも、


『何かあったのか?』


 俺は視線を倒れている男たちに向ける。


『ん、そいつら、主の物(幌馬車)盗もうとしたから魔法で眠らせた』


『なるほどね。そういうことか、偉いぞラット。よく守ってくれた』


 ようやく状況を理解できた俺は、頑張ってくれたラットの頭を優しく撫でてやった。


 ラットは嬉しそうに目を細めている。


『そうそうラット。使い魔の卵が1コだけだが手に入ったぞ。これで使い魔が増えるだろう。

 2、3日で生まれるだろうからその時は、お前は先輩として面倒を見てやってくれ、頼むぞ』


『主、任せる。ラット先輩になる……嬉しい』


 ラットは本当に嬉しそうにくるくる、コロコロ回っていた。

 その反応からも、どうやら俺はラットに相当無理をさせていたのだろう。


 そう思うとラットが少し不憫に思え少し大きめのチーズで労ってやる。


『ラットもう良いぞ。用がある時にはまた呼ぶから休んでろ』


『わかった』


 ラットは自分よりも大きなチーズを幸せそうに頬ずりしたあと、ずるずると引きずりながら幌馬車の後ろへと入っていった。


「エリザ、マリーも乗った乗った。そいつらはこの馬車を盗もうとしてラットに眠らされたバカらしい。ラットのお陰で被害はないし、そいつらはそのまま放置して行こう」


「盗人だったのね。どうりで人相が悪いと思ったわ」


 エリザが倒れている男性の顔を、しかめ顔で見ていた。


「この幌馬車は使い勝手のいいサイズだもんね。守ってくれたラットちゃんはえらいな」


 それから妻たちが俺の隣に腰掛けるのを確してから、俺はハンターギルドに向け馬車を走らせたのだが……


 ――ん?


 すぐに、ある看板が目に入りなぜか気になる。


「これって……」


 そこは、わりとお洒落な感じのする服屋だった。女性専門店と看板には書いている。


 ――服屋……はっ!?


 そこでなぜ俺が気になったのか気づいた。


 そう俺は妻たちに服どころか下着の一枚すら買ってやってなかったのだ。


 ――これは夫として最低なのでは? 


 俺は悪魔だが良い夫を目指していた。それなのに基本的なことを見落としていた。俺はショクのあまり意識が飛びそうになる。


 でも言い訳をするとすれば、俺は悪魔大事典の中ではずっとジャージ姿だった。着替えたことは一度もない。要するにズボラで服装に無頓着だったのだ。


 今でこそジャージから、旅人の服装へ変えているが、いつもクリーン魔法でキレイにしていたので、着替えを必要とせず、何とも思わなかったのだ。


 だが妻たちは違う。年頃の女性だ。女性なのだ。エリザに至っては元貴族。着たい服だってたくさんあるんじゃないかと考えだすと焦りが出てくる。


「あれ!? クローどうしたの顔色悪いよ? 調子が悪い?」


「もしかして、私たちが朝に怒ったから?」


 妻たちはそんな俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。

 マリーは俺の額に、エリザは俺の首に手を当て体温を測ろうとさえしてくる。


「い、いや。身体はいたって元気だ。そ、その、なんだ……

 エリザッ、マリーッ、……よし、二人の服を買おう」


「えっ? 突然どうしたの?」


「ボクたちの服?」


「ああ、ほら丁度そこに女性用の服屋が見える。好きなものを買っていい」


「クロー、急にどうしちゃったの?」


「ん、まあ、二人はいつも俺を癒してくれてるだろ。そのお陰で今日はいつも以上に体調がいいんだ。だからその感謝の意味を込めて、な」


「えっ、でも……それは妻として当たり前のことで……」


「うん、クローにはいつまでも元気でいてほしいから」


 うーん。今日も俺の妻たちが可愛い。妻たちは大丈夫と言うけど、俺の気が治らない。


「いいからいいから。行ってきな。お金ならそのガントレットに入れている。それでも足りなければ外で待っている俺に声を掛けてくれ」


 エリザとマリーはお互いチラチラと服屋の方を見ているが、なかなか店に行こうとしない。

 興味があるはずなのだが何故だ?


「……でも、クローはこの服が眼福って……言ってくれました」


 エリザが丈を掴みもじもじして、嬉しいことを言ってくれているが……エリザよ。スカートの丈を掴むとパンツ丸見えになっているぞ。


「それは、たしかに眼福だったな。でも、俺は他の服を着たエリザの姿も見てみたいんだ。マリーもだ。

 二人が着飾ってくれると俺はもっと癒される。と思う。だから……な?」


「クローが見てみたい……」


「ボクもクローの癒しに……」


「「分かった(わ)(よ)」」


 その後、気合いの入った二人は服屋からなかなか出てこなくて俺はお昼まで待ち惚けとなる。


 だが、店から出てきた二人の姿を見て、買いに行かせて正解だったと口元を緩めつつ妻たちに向け手を振った。


 エリザは似たような膝上10㎝のワンピースとブーツだった。すらっと長くてキレイな脚がよく見える。

 生地はサラサラで手触りが良い物になり、襟ぐりが深く谷間がより強調されていた。


 どうやらエリザは元貴族で胸元の深いドレスばかりを着ていたらしいからその名残りだろう。

 走ったらおっぱいがポロリと溢れそうである。


 ――すごくいい。


 マリーは元気一杯という感じのショートパンツに可愛らしいシャツっぽい服を着ている。多分動きやすさで選んだのだろう。

 ショートパンツを履いたマリーは背は高く無いはずなんだけど、スラッとした脚が伸びていて背の低さを感じない。それに生脚が見ていてグッとくるものがある。


 それに可愛らしいTシャツっぽい服はぴっちりしていて、マリーはちっぱいなのに、俺に見てくれてと言わんばかりにツンと立ったものがしっかりとアピールしている。

 マリーよ、安心してほしい。俺の悪魔の目ならばちっぱいでもしっかりとその揺れまでも捉えることができるからな。


 ――ふむ。これもいい。


 【感情値 2千カナ増】

 【納値して感情値10万カナ減】

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