第49話

「これで、よし」


 野営地を決めた俺はそこに馬車を停車させ、手際良く馬にエサと水を与えた。

 ただ単に、夫として仲間としてエリザとマリーに出来る俺を見せつけたかっただけなんだけど。


「はいっ! ボク夜番しますっ」


 俺が馬にエサをやり終えたタイミングで、ピシッと右手をまっすぐに挙げているマリーがそんなことを言う。


「夜番?」


 考えていなかったことを提案され俺は少し首を捻る。


「あれ? やだなクロー。夜の見張りだよ。野営する時は交代で夜通し見張りをするんだよ。これ旅の常識だよ」


 そう言ってマリーが可愛く首を傾げる。


「なるほど」


「野犬や盗賊が来たら危ないよね? そのための見張り番なんだ。あ、でも交代はいいよ、ボクは見張り番に慣れてるから一晩くらいどおってことないんだ。だから任せてよ」


 マリーが得意げに自分のちっぱいじゃなくて、胸をポフッと叩く。


 ――ふむ。揺れなくてもついついおっぱいの方に目がいくんだよな昔(前世の頃)から。ま、今の俺は悪魔だし気にせずガン見するんだけどな。


 男の性なのか悪魔の本能なのか知らんけど。


「あれ? 反応薄いけどボク何かまずいこと言ったかな?」


「いやすまん。ちょっと考え事をしていてな。んでなんだったかな。あ~夜の見張り番な……マリーそれ必要ないわ」


「え?」


「俺が結界を張る。だから大丈夫だろう。それにラットもいるしな」


『あるじ……戻ったよ』


「必要ないって……あれ、ラットちゃん? どっか行ってたの?」


 どこからか現れたラットは俺の目の前で、立ち上がる。どこか誇らしげに見えるが、不意にマリーから頭を撫でられ……固まった。


『ぁぅ……』


 ラットは俺以外から触れられるを異常に嫌っていたのだが、俺の命令には逆らえず、彼女たちの好意を素直に受け止めている……が。


 ——ラットは硬直するんだよな。ん? 少し涙目になっているように見えるが……大丈夫だよな。


「ラットにはちょっと調べてもらってたんだ。この辺り、周辺の偵察? ってやつかな」


「うわぁ、ラットちゃんそんなことできるの? すごい!」


 そうなのだ。町を出てからすぐに、怪しい輩が、俺たちの後をついてきていた。

 その動きは手慣れたもので、相手さんの目視できるギリギリの距離を保ってついてきていたのだ。


 そして、その輩は、町を出てすぐは2、3人だった。だが、徐々に数を増やし、今は20人の集団になっている。

 潜んでいるのも森の中。盗賊の類いだろうとら思っているが、念のため、ラットに様子を探ってもらったのだ。


『……あ、あるじ』


 ラットはマリーに撫でられ、ややぎこちない動きをしているものの、様子を探り見てきた映像思念を送ってきた。


 ――――

 ――


 ラットの映像思念により俺の頭の中に数人の男の姿が見えた。


「兄貴、上玉ですぜ上玉。いや、あれは特上と言っても過言じゃあねぇですぜ、それがなんと二人もいやした。くへへ」


「ああ、わかってる。俺もしっかりと見たからな。ぐへへ」


 汚ならしい身なりの男が卑猥なことを考えているのか、ペロリと舌舐めずりをした。


「へへへ。頭、今夜ヤるんですかい?」


「当然だ……資金はまだあるからな。あれほどの上玉だ。売るにはおしい、今回は売り物にじゃなく俺たちの愛玩にする……ちょうど前の女はぶっ壊れたからな。くっくっく」


「さすが頭。くへへ。しかし、あの男もバカだよな。ここらで昼過ぎに町を出る奴なんて居ねえのにな。それも、たったの3人で、ぶへへ」


「違いねぇ、野営しますよって言ってるようなもんだぜ。襲われても文句も言えねぇってことよ。ま、そういうバカがいるから、俺たちもこの仕事を止められねぇんだよな。ぐへへっ」


「しかし、たまんねぇよ。今夜だよな今夜……頭〜、俺ぁ久々だからなぁ。待ちきれねぇよ。ぐふ、ぐふふ」


「おいっ、お前たち勘違いするなよ。先ずは俺がたっぷりと可愛がってからだ」


「わ、分かってますよ頭……ただ、二人居るんすから一人くらいヤらせてくれても……」


「ああんっ! 俺が可愛がってからだと今言ったばかりだろうがっ。それともなんだ、俺に文句でもあるのか?、おい」


「な、ななないですっ頭」


「ふんっ。お前たちはその間に男でも殺って楽しんでろ。分かったか?」


「わ、わあったよ。で、でもよ頭の次は俺でいいだろう……?」

「はぁ、何言ってやがるっ!」

「何でてめぇが、2番目なんだよっ! 俺だよ俺。俺が先に決まってる」


 数人の男たちから醜く言い争う声が聞こえる。


「うるせぇっ! 順番は俺に貢献した順だ。文句は言わせねぇ」


「くっ、分かったよ。ま、いいや、順番がきたら俺は枯れるまでヤってやるから」


「あぁん!! 何言ってやがる。今回は上玉だ、俺以外は一人1回ずつだ。長く楽しむんだよ」


「ええっ! そんなんじゃあ、俺たちは治まりがきかねぇよ」


「2人居るんだ、一人2回はできる。それで我慢しろっ!」


「ぐっ、わかったよ」


 その後も同じような下品な言葉が流れてくる。これで、はっきりした。あの輩は盗賊で間違いない。


 ――そんなところだろうと思ったわ。


 ――――

 ――


『ラット上出来だ。それから俺の魔法の使用を許可する。そいつらにラットの好きな悪因を埋め込んでこい。俺のエリザとマリーに手を出そうとしたんだ、それ相応の報いを与えてやれ』


『まかせて……あるじ』


 俺がラットに命令すると、ラットはその場で嬉しそうにくるくる回った後、森の方へ盗賊が潜んでいる方に向かって駆けていった。


 使い魔のラットと俺はパスが繋がっているから、俺が許可すれば俺の魔法も使用できるのだ。


 他にも俺が使い魔を通して魔法を発動することもできる。非常に便利。だが魔力は俺の魔力が消費されることになる。


 ——しかし、エリザとマリーを上玉と言いやがったな。よく分かっているじゃないか。だがな。


 俺は俺のエリザとマリーを愛玩発言させて見逃してやるほど人間できちゃいないんだ。ん? 今は悪魔か。


 まだ被害を受けたわけでもないが報復は必要だと感じたからラットに任せることにしたのだけど。ん? 俺? 俺は忙しいんだ。


 ――ふふふ……


 もちろんエリザとハッスルするんだ。こっちの方が大事だろ。夫婦として。マリーには悪いが耳を塞いでいてもらうしかない。場合によっては睡眠魔法でもかけてやろう。


「あれれ? ラットちゃんまたどこかに行っちゃった」


「ラットにはやってもらうことがあるんだ。それに見張りもするって張り切ってた」


「うーん、ラットちゃんだけに押し付けたみたいで、ボク、何か悪い気が……」


「? ラットは喜んでいただろ?」


「……そういえば、そうだね」


 それからも俺は所望魔法を使って、野営の準備をどんどん進める。日がどんどん落ちてきているのだ。


 ——急がないと……


 まず出したのが、2ルームテント。これを幌馬車の前に出した。今日はこの中で寝る。


 このテントは中に部屋が2つある快適テントなのだ。


 ――ふむふむ。これはいい、中々の広さだ。


 次に、この中に仕切りを挟んで俺とエリザ用の布団とマリー用の布団を魔法で出す。寝心地最高のふかふかの布団だ。触って感触を確かめる。


ふわっふわっ。


 ——ふむ。これならヒザも痛くないはずだ。夫婦の営みは大事だからな。


「エリザ、マリー。今日はみんなこの中で寝るからな」


 ある程度形になったところで彼女たちに声をかける。


「? クローこれは何? 私初めてで、ごめんなさい」 


 エリザはマリーの影響なのか、平民の言葉遣いに慣れようと自分でそう意識しているのか分からないが、お嬢様言葉に平民の言葉遣いがちょくちょく混じる。


「えっとな、これはテントというんだ。野外で寝る時に便利なんだ。人目を避け、雨風を凌げる優れものだぞ」


「まあ、それはすごいっ」


 エリザは目をキラキラさせ興味深そうに中を覗き込む。

 一方のマリーはテントの前で立ち尽くし呆けているのか、口が開いたままになっている。


 せっかくの可愛い顔が台無しになってるので、顎を下から押さえて閉じてやった。


「口が開いてるぞ」


「あっ」


 マリーは恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてしまった。見なかったことにしてあげた方がよかったかもと少し反省しつつテントの中を興味深そうに覗いているエリザに視線を移す。


 ――んおっ!? な、なんと……


 前屈みでテントの中を覗いてるエリザの格好がエロい。パンツまでしっかりと見えてしまっている。


 ――ぐっ……ぬぬっ。


 男の性なのか悪魔の本能なのか、モヤモヤとした何かが、胸の奥から込み上がってくる。

 俺はその欲求をぐぐっと再び胸の奥に押さえ込むようにして何とか耐える。


 ——先ずは食事だ。


 たぷたぷ。


「あんっ」


 ――おおっと。いかんいかん。


 意識とは別に俺の手が勝手に、前屈みになり少し垂れているエリザおっぱいを横から触っていたみたいだ。


「もうっ、ふふ」


 そんな俺を、エリザは笑みを浮かべて応えてくれる。ほんとエリザは良い女だ。俺の妻だけどね。


 さて、次に簡易テーブルと、椅子を三脚、それとバーベキューセットを魔法で出し、テキパキ網と炭をセットする。


 せっかくの野営なのだ、ならばキャンプみたいに楽しんでも良いんじゃない。そう思ったのだ。


 盗賊? あんなのラットで十分。野犬? あいつら獣は本能で動いてるからな、己の立場をよく分かってる。


 俺がちょいと殺気を放てば近寄ったりしない。可愛いもんさ。それに結界魔法もある。


 そんなことよりも食材だ。食材には、有名どころの牛肉、豚肉、鶏肉、それにキャベツやかぼちゃニンジンなどの野菜やキノコ、ウインナー、それと色んな具の入ったおにぎりを出した。


 ――後は……


 おおっと、焼肉のタレと塩コショウ、レモン汁、それににんにくなどの薬味を忘れてはいけない。


 飲み物にはアルコールをと思ったが、まだエリザにはアルコールを飲ませたくない。


 ――ふむ……みんなお冷にするか……


「エリザ、マリー、せっかくの野営だ。今夜はバーベキューにしたぞ」


 立ち尽くし黙って俺の側から動かなかったマリーがやっと起動した。


「ば、ばーべきゅう? って何ですか? それに、何かの肉だとは分かりますが……こんな食材……見たことない……よ?」


「私も初めて見るものばかりだわ?」


「そうなのか? これは俺のいた世界の食べ方なんだ。まあ、騙されたと思って食べてみてくれ」


 そうしている間にも俺は、油を軽く塗った網に肉と野菜をどんどんのせて焼いていく。

 バーベキューは簡単なようで結構手間が掛かるのだ。もう辺りは真っ暗だ。急ぐべし。


 焼き始めるとジュウジュウと肉の焼けるいい音が聞こえ、それと共に辺り一帯には食欲を掻き立てる香ばしい匂いが漂い始めた。


「クローがいた世界って悪魔のせか……ふわぁ、いい匂いっ!」


 マリーがゴクリと生唾を飲み込み。その音が俺の耳まで届き。少し嬉しくなる。


 ——ふふふ……食べると頬っぺた落ちるかもな。


 そんなマリーは網の上でいい色に変わっていく特上カルビを見てから、その目を爛々とさせていた。


「ほんとね。これは何のお肉かしら?」


 でもそれはエリザも同じだったようで、色が変わり段々と焼けていく特上カルビに釘付けになっていた。


 ——ふふふ。


「これは特上カルビだ。牛肉な。こっちがロースとタン。それぞれ味も食感も違う。よしっ! そろそろいいだろう……」


 俺は焼肉用のトングを忙しなく動かし、エリザとマリーの取り皿にほどよく焼けた特上カルビをのせてやった。


 彼女たちの皿は焼肉用の取り皿で焼肉のタレや塩を分けて入れてある。だから好きな味で楽しめるようにしている。


「これをこっちに付けて食べるのね……、んっ! んんっ!! 美味しいわっ!」


「んんっ! おいしい〜……美味しいっ!!」


 彼女たちは口に入れる度に、おいしいを連呼する。でもそれでいい。俺は彼女たちが美味しく食べている姿に大満足。


「そうだろ、そうだろ」


「ふぁ〜何ですかこれっ! 口に入れた肉が溶けちゃうよ」


 皿にのせてやった特上カルビやロースをしっかりと平らげたマリーがやっと美味しいと言う言葉以外を口にする。


 ――ふふふ、まだまだこれからだ……


「じゃあ次はこっちの牛タンも食べてみてくれ。これはこっちのネギ塩タレか、レモン汁がおすすめだ。まあ、決まりはないから好きなのをつけて食べてればいい」


「うん……え! 弾力があるのに、固くなくて不思議、でもこれも凄く美味しいね!」


「私はこっちの方があっさりして好きですわっ! いくらでも食べれそう」 


「次は……」


 その後も、ドンドン肉や野菜を焼いていき俺は彼女たちがお腹一杯になるまで焼いてやった。


 彼女たちが嬉しそうに笑顔で食べているその姿が、とても心地良かった。俺は悪魔なのにな。


 ――――

 ――


「はふ……お腹一杯です。ばーべきゅうって美味しいですね」


「結局クローに全部焼いてもらっちゃった。クローごめんなさい」


「気にするな。俺がそうしたかったんだから」


 俺たちが食べ終わった頃、時間の感覚でいうと21時くらいだろう。


 片付けは簡単に済ませた。油汚れもクリーン魔法で、簡単に落ちていく。それをささっと収納。たったこれだけ。ほんの数秒で終えた。


 残った食材も全て収納。俺の収納魔法は時間が経過しないので、生肉でも傷む心配もない新鮮なままだ。


 ついでにみんなの服についた匂いと、身体の汚れをクリーン魔法で落としてやる。

 ほんとクリーン魔法様様だ。でもたまにはお風呂に入りたい。


「ねぇクロー。ほんとにいいの? 見張りをしなくて……」


 マリーがきょろきょろと辺りを見渡し、そう尋ねてきた。


「大丈夫だ。もし何かあっても俺が守ってやるさ……」


「う、うん。クローがそう言ってくれるなら、ありがとう」


「気にするな。それよりもマリー……夜はしっかり寝るんだぞ。睡眠不足は肌にも悪い」


 そんなことを言いつつも俺とエリザは夜更かしするだろうけど。


「うん。分かった」


 俺はささっと仕切りのチャックを閉める。そう俺たちはすでにテントの中に移動しているのだ。


 ――ふおっ!


 視線をエリザの方に向ければ裸になったエリザが横になり俺を待っていた。俺は直ぐに半暴走状態になる。


 というのも今日は色々とあったから色々と溜まっている。


「エリザ」


 ――きれいだ……


 俺のボルテージが急上昇。


「クロー……」


 エリザが照れくさそうに顔を赤らめた……そんな妻の顔を見てしまえば……。


 ――も、もう、我慢でき……


ぶちん。


 俺はエリザの身体の負担になるからと封印していたはずの暴走モードに突入していた。

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