第47話

〈Aランクハンター、カイル一行のその後〉


「おいおい! お前たち、ちゃんと洗ったのか? もの凄く臭いぞ」


「カイルこそ臭いわよ。スラムのガキより臭いわよ。ニナも、サラもよ」


「アルマこそ、クセーぞ。スラムの臭い、いや腐った汚水よりまだ酷い」


 カイルたちは、クローたちが前日に泊まった風呂付きの宿部屋を借りていた。何の因果か? と思うだろうが、ただ風呂付きの宿が他に無かっただけのこと。


「みんな臭い。カイルも臭い。ほんと臭い」


「そんなことねぇだろ、俺はしっかりと洗ったんだ!」


 カイルは身体を捻り両手や両腕、肩など自身の身体の匂いを嗅いでみる。


「ニナ、自分の体臭が臭いからって嘘つくなよ、俺のはドロドロが流れて何も臭ってないだろ」


「いや、カイル臭いぞ。凄くクセー」


「臭うわね。汚水の臭い」


 そう、この4人は一緒にお風呂に入っていたのだ。


 いつもだったら、このままハッスルしていたるはずなのだが、今日は違う。

 お互いが臭すぎて盛り上がることができず、カイル自慢のやるきスイッチも萎えたままだった。


 そう、このカイルたちの身に、今起こっている現象こそがネズミ悪魔が最期に放った悪因:悪臭の効果だった。


 この悪因は、質が悪いことに自分自身の異臭に全く気づくこともなく、また感じることもできない。


 そして、今まで築き上げたきた4人の仲に亀裂が入る瞬間でもあった。


「はあ、お前たち……さては、俺が聖騎士を惚れさせようとしたからヤキモチを妬いているのか?」


「違う、本当に臭い、酷く臭う」


「はあ? バカじゃねぇの。俺じゃなくて、お前たち自身が臭いと何故理解できん! 汚水の臭いよりもっと酷い。とっとと洗い流せよ!」


 カイルたちの不毛な争いが続いてると、何度もドアを激しくノックする音が聴こえた。


 それは、お風呂場で騒いでいる4人が聞こえるほど激しい。


「おいっ誰だ! ドアが壊れるだろ! もし壊れても俺たちの責任じゃないからな!」


 さすがに裸の彼女たちに行かせるわけにもいかず、カイルは面倒だと思いつつも、布切れを一枚腰に巻きつけ、今もなお激しく叩かれているそのドアを開けた。


「!? うっ、ぐっ、え、Aランク冒険者、カイル一行の部屋で間違いないか?」


 そこには顰めっ面をした中年のギルド職員が立っていた。基本的に女性の姿しか視界に入れないカイルは当然見たこともない。


「ああ、そうだ。俺がAランク冒険者のカイルだ」


 冒険者カードを提示させ、本人だと確認したギルド職員が用件を言う。


「ギルド長がお呼びだ。至急出頭するようにとな」


 口早にそう言と、ギルド職員は鼻を摘まみながら、そそくさと部屋を出ていった。


「「「誰?」」」


 後方から聞こえる声にカイルが振り返れば、服を着込んだ3人がそれぞれ一定の間隔を空けてカイルに視線を向けていた。


 もちろんお互いがお互いに臭いと思っている彼女たちだ、カイルにも近寄ってくることはない。


 彼女たちのその態度にカチンと頭にきて怒鳴ろうとしたカイルだが——こんな臭い女たちは、もう用済みだ、さっさと別れてしまえばいい。と、彼女たちをいとも簡単に切り捨てることを考えついたカイルは思い止まる。


 それに今は、それ以上にギルド長からの呼び出しの方が気になったのだ。


「ギルド長からの呼び出しだった」


「「「ええっ!!」」それって……」


「ああ、間違いなく、悪魔討伐の件だろう」


 カイルは口角を上げて気持ちの悪い笑みを浮かべる。


「いよいよ私たちもSランクってことよね?」


「それに報酬だな! かなり期待できるだろうさ」


「そうか、やったぜ。早く行こうぜカイル!」


「ああ、直ぐに着替えるからちょっと待ってろ」


 カイルたち一行は直ぐにギルドに向かった。


「ほう」

「なかなかやるじゃん」


 ギルド内は何事も無かったように再開されていた。


 心の中では——俺のお陰だ、感謝しろよ……と思いつつも、カイルはいつものように爽やかな笑顔で受付嬢に声をかけた。


「やあ! 君はいつ見ても可愛いね! ところでギルド長はいるかい?」


「うっ……か、カイル様ですね。お待ちしておりました、こちらへどうぞ」


 顔を合わせた受付嬢の顔はなぜか顰めっ面だった。いつもなら頬を紅く染めて潤んだ瞳で見つめ返してくれるというのに。


 ——?


 少し不思議に思ったカイルだが、やはり今はギルド長のことが気になり、深く考えることはなかった。何せSランク冒険者という言葉が頭にチラついているのだから。カイルの口元はにまにまと緩んだままだった。


 受付嬢は、そんなカイルを見て少しのけぞりながら立ち上がると、カイルから早々と距離を取り逃げるようにギルド長室へと案内を始めた。


「しかし、俺の笑顔を無視したり、俺たちを置いてさっさと前を歩いたり……なんて非常識な受付嬢だ」


 一度は気にせずに思い止まったカイルだったが、女性にチヤホヤされてきたカイルは、そんな受付嬢を少し面白くないと思い、当然のように口から不満が溢れる。


「また……ほら、さっさと行くわよカイル」


 いつもならそんなカイルでも好ましく感じてアルマだが、一度入った亀裂に拍車をかける悪臭。もう元に戻るどころかアルマは彼に対して嫌悪感を抱くばかりだった。


「カイルっ」


 なぜこんな男がよかったのか苛立ちで顔をしかめるアルマ自身も、時が来たらカイルたちを切り捨てる方向で考えていた。


 だが、自分のことしか考えていないカイルがそのことに気づくことはない。口うるさいと思ったカイルはアルマを睨みつける。


「チッ、聞こえてる(ふん、まあいいあの受付嬢も、そのうち落として貢がせてやるさ)」


 カイルが少し遅れて後を追うと受付嬢はカイルたちを待つことなくギルド長室へ入って行った。


「あのくそ女っ」


 Aランク冒険者である自分を待つことなくギルド長室に入った受付嬢に苛立つカイル。

 だがしかし、カイルの怒りをぶつけたい相手の受付嬢はすでにギルド長室に入ってしまった。


「ちっ」


 やり場のない苛立ちで舌打ちしたカイルは、すぐに受付嬢の後を追ってギルド長室に入室した。


 ギルド長室へ入ると、つるっパゲのムチマッチョの中年の男性が机に向かい腰掛けたままこちらを睨んでいた。


 そのつるっパゲの後ろには先ほどカイルたちを呼びに来た、中年の男も立っている。


 カイルはいきなりギルド長に睨まれイラッとするも、俺の活躍に嫉妬したのだろうと都合よく考えた。


「お前たちがAランク冒険者のカイル一行か?」


「はい、そうです」


 カイルが軽く礼をして一歩前に足を踏み出そうとすると――


「お前たちはそれより前に来るな」


「なっ!!」


 カイルはギルド長の失礼な物言いに思わず睨み付けるが、ギルド長は素知らぬ顔で話を続けた。


「何で呼ばれたか分かるか?」


「悪魔討伐の件でしょうか?」


「そうだ、そのことを知っているのいうことは間違いないな」


「間違いも何も俺たちが悪魔を自爆に追い込み倒しましたからね。

 いよいよ俺たちもSランクですかね? 俺、なってあげてもいいですよ。

 冒険者が悪魔討伐したって聞いたことないですからね。

 そうなると俺たちと二つ名はデビルキラーかな。そんな冒険者を出した、このギルドもさぞ鼻が高いだろ……」


「うるさい、黙れ!! お前たちの行動についてはクルセイド教会支部から抗議の文書が届いている」


「はあ? 抗議?」


「冒険者たちに最低限度の常識を身に付けさせるようにとな……」


「はあ。意味が分かりませんが? そもそも俺たちに関係あるのか?」


「詳細が事細かに書かれている……今から説明する」


「はん、どうせ俺たちに手柄を盗られたあの女聖騎士の妬み……」


「うるせぇ!! お前はさっきからペラペラと人の話を黙って聞けんのかっ!

 いいか! お前たちの行動は、聖騎士の戦闘行為を妨げるだけでなく、再三の制止の呼び掛け、命令にも応じなかったとある。

 今回は悪魔自身が自爆する結果となり、たまたま被害なく収まった形となったらしいが、これが、もし自爆ではなく、憑依されでもさればお前たちの命は無かっただろうと、ほかにも手負いの悪魔の行動は読めず、下手をすれば町全体を巻き込む最悪な状態に陥っていた可能性すらあったのだとな」


「いやいや、ギルド長、それは間違ってます。俺たちの剣術で悪魔を自爆に追い込んだんですって」


 カイルはわざとらしく肩をすぼめて首を振った。


「お前は何を言ってる? お前たちはAランク冒険者にもなって何も知らんのか?

 これは冒険者の登録時に説明を受けたはずだ。

 悪魔には普通の剣が通用しない。

 聖剣もしくは魔法剣しかダメージを与えることができない。

 だから冒険者は悪魔の噂を聞いたり、発見した場合は速やかにギルドへ報告する義務がある。遭遇した場合もそうだ。どうにか逃亡しその情報をギルドに報告するよう義務付けられているのだ」


「効かない? 義務?」


「そうだ! むろんギルドはその情報を持ち帰った冒険者には破格の報酬を払っている。

 それを我々ギルドの者が取りまとめて国に報告していた。

 あとは国の判断で、国で討伐隊を派遣するか、教会へ討伐依頼を要請するのかを判断している。

 今回の場合は、急を要するやむなき事態だった。その場合は、ギルドの判断で対処する。

 だから我々は町のクルセイド教会に緊急依頼を出す形を取った。少しは分かったか」


「へっ? でも俺たちは……」


「くっ、まだお前は……もういい。お前たちは3日間の冒険者活動禁止と3ランク降格とする。下がれ」


「3ランク降格って……」


「我々はこれから国や教会にも顛末を伝えねばならんのだ。あー、言っとくが、今回に限り不服申し立ては認めんぞ。不服なら冒険者カードを返却しろ! 甘い処分をすれば冒険者ギルド自体が活動禁止となるのだからな」


「ぐっ……か、畏まりました」


 カイル一行はランクアップどころか、降格処分となった。ギルドの外に出ると案の定、口論となった。


「ちょっと、カイルこんなの聞いてないわよ!」


「何で、おかしい」


「おいおい、納得できねぇぞカイル!」


「うるせぇ! うるせぇ! こんなの俺だって知るかよ!! 

 元々はお前たちが悪魔討伐できたらSランクだって言ったんだろが!!」


「そんなこと言ってない」


「いいや、お前たちのせいだ! このクソ女どもが!! クセーんだよ」


「あなただって汚水臭いわよ! そうとう酷いわ!」


「それはお前たちがクセーから俺に臭いが移ったんじゃねぇか。それを俺のせいにするなっ」


「違う、カイルたちの臭いが私に移った……」


 ギルドの前でカイルたちの醜い争いが続いていたが、


「おやおや……む!? その臭い、あなた方はもしや、何かしらの呪いでもかけられたのでは?」


 どこから現れたのか、いかにもキナ臭そうな男がカイルたちに声をかけてきた。


「「「「呪い?」」」」


 そんな男の声に、言い争ってカイルたちはすぐに反応して思わず声の方を一斉に振り向く。


「ほう、何か心当たりでも?」


「「「ある。悪魔だ!」」」


「あのドロドロを浴びてからおかしい」


「やはり、そうですか……くはぁ! これは酷い臭いですね。よろしければ私がその呪いを祓ってあげますが……その……」


 キナ臭い男が親指と人差し指で丸を作りカイルたちへと向ける。


「はぁ……分かった、分かった、それでいくらだ」


「いやはや非常に強力な呪いのようで……これぐらいは……」


 キナ臭い男が片手を広げカイルたちに聞こえるくらいの小さな声でボソボソ呟いた。


「なっ! そんなに必要なのか!!」


 その金額はカイルたちの全財産を出したとしても、少し届かない金額だった。回復魔法での治療が高いことなど誰でも知っている。カイルたちももちろん知っている。


 ちょっとしたケガでも瞬時に回復でき、跡形もなく治療できる魔法を利用しようものなら莫大な金額が必要なのだ。

 そのため、呪いを祓う治療に高い金額を提示されたとしてもなんの疑問にも思わなかった。

 だがやはり――


「た、高い……もう少し何とかならないか?」


「いえいえ、これだって4人分ですので、破格の金額なんですよ。解呪には聖水も必要になるのです。準備しないといけません……」


 カイルたちはキナ臭い男のもっともな意見に押し黙ることしかできなかった。


「……う、ぬぬ」


「はあ、仕方ありませんね、私もこれ以上は無理ですので、ここはご縁がなかったと……」


 キナ臭い男は軽く頭を下げると踵を返しスタスタと歩き出しカイルたちから離れていく。


「ちょっとカイル!! 行っちゃうよ!」


「「カイル!」」


 思わずアルマ、サラ、ニナ、彼女たちの3人はカイルの裾を背中の衣服を強く引いた。

 3人はお金よりも臭いの問題を解決する方が先だと判断していた。

 臭いさえなくなればまた男を騙して稼げると――


「くっ!!」


 カイルは俯き歯を食いしばっていた顔を上げるとキナ臭い男に向かって叫んだ。


「待て! 待ってくれ!! それでいい。それでいいから……頼む」


 キナ臭い男は背中越しに聞こえたカイルの声を聞いて少し口角を上げる。


 だがそれは一瞬のことで振り向き、カイルたちと向き合った時には、商人然とした低姿勢でカイルたちにペコペコと頭を下げた。


「ありがとうございます。いやぁしかし、本当に酷い臭いですね。これは強力過ぎて、ここでは無理そうですね」


「どういうことだ?」


「解呪の過程で呪いを体内から外に出さないといけないのです。

 その場合、間違いなくこの悪臭が数倍の濃さとなり辺りに広がってしまうのですよ」


「この臭いが数倍。なるほど……分かった」


 カイルは彼女たちを向き、その臭いの臭さに顔をしかめる。


「では明日、町外れのこちらの小屋に来てください」


 キナ臭い男は町外れの小屋の場所を示した地図をくれた。


「もちろんその際には……」


「金だろ! 分かってる!」


「はい。では、お待ちしてますよ」


「ああ」


 キナ臭い男は深く頭を下げると、カイルたちから離れていった。


「良かったわ、この臭いさえ無くなれば、また、Aランクにだってすぐに戻れるわよ」


「ああ、そうだな。これが呪いとは知らずさっきは怒鳴ってすまなかった。また4人で頑張ろうな」


「ああ、頑張ろう」


「うん」


 一見、ヨリを戻したように見えるカイル一行だが、その心の奥ではお互いに、利用できるうちは利用し邪魔になったら捨てればいいという邪な感情が渦巻いていた。


 翌日、カイルたちは約束の金額を準備して、町外れの小屋に向かった。


 足りない分は装備品を売った。身体の臭いが染み付いていると店主に大分買い叩かれ、身に着けていた装備品のほとんどを手放した形になったが背に腹は変えられない。


 今のカイル一行は駆け出しの冒険者が身に着けるような粗末な装備品を身に付けていた。


 小屋に着くと約束通りキナ臭い男が出迎えてくれた。


「お待ちしてました。さあ、こちらに掛けて下さい」


 すぐに中へと通されたカイルたちは部屋の中に解呪のために必要な道具の準備がされていたことにホッとする。


「ああ、ほらよ。約束の金だ。早く解呪しろ」


 カイルたちはお金をテーブルに置くと勧められた椅子に腰かけた。


「む! これは昨日よりも酷くなってますね。かなり臭います」


「それはもう分かったから早くしろ!」


「はい、では、早速始めましょう。まずはこちらの聖水を全て飲み干してください。

 これは身体の中から浄化して呪いを浮かせ、解呪しやすい身体へとする作用があるのです」


「分かった、これを飲めばいいのだな」


 カイル一行は臭い臭いと言われ続けることにうんざりしていた。


 そのため、何の疑いもなく、その聖水と言われ差し出された飲み物を一気に飲み干した。


 だが、飲み干してすぐにカイルたちは身体に違和感を覚えた。


「おい……これは……本当に……せい……」


 だがしかし、気づくのが遅すぎたのだ。カイルがおかしいと思った時には、強烈な眠さに襲われ意識が遠退いていく時だった。


 それはもちろんカイルだけではない。彼女たちも同じように強烈な眠さから上体をふらふらさせている。


「ねむい……わ……」

「だめ……ねむ……」

「くぁ……」


 カイルたちはとうとうテーブルに突っ伏全て形で深い眠りについた。


「そろそろだな……」


 カイルたちが深く眠っていることを確認すると、男は自身が身に付けていた物を剥ぎ取り黒装束の姿になった。


「依頼完了っと。いや、こんなに簡単に行くとは、Aランクの冒険者だと聞いていたから、もっと警戒すると思ったが……」


 この男、闇ギルドに雇われた男だった。カイルたちに騙された女たちからの依頼を請け負っていたのだ。


 直接的ではなく、間接的にだ。正確にはその女の中に貴族と繋がりのある女性がいて、その貴族からの依頼だった。


 依頼を受けたこの男は一月ほど前からカイルに張り付いていた。


 闇ギルドに属する者は悪魔が何らかの形で呪いを掛けることも掴んでいる。


 今回はそれを上手く利用したのが、この男は、これは本当に呪いなのではないだろうかとも思っている。それだけカイル一行から放たれる臭いが異常だった。


 だが、それは己の知る所ではない。一月彼らを張り付いていて同情する気持ちすら失せたのだ。


 この一月だけでも騙された女は10人はいた。特にあのマリーとかいう女が酷かった。


 この依頼を終えたら闇ギルドで保護しようと思っていたほどだったが、いつの間にか見失ってしまった。


 ——あの状態だ既に……くっ。


 男は一度だけ瞳を閉じて首を振る。


「しかしよ。ほんとクセーぜ、お前たちは……ま、自業自得だろうがな」


 男はテーブルにあるお金を手に取り確認すると、スッと姿を消した。


 しばらくして目覚めたカイルたちの顔は蒼白となった。金はない、臭いもとれていない。騙されたと直ぐに分かった。


「くそぉぉぉっっ……!」


 その後、4人の仲は更に険悪なものとなり、パーティーはその日のうちに解散した。


 その時、カイルたちは冒険者ランクDからはパーティー必須の依頼が多いということを失念していた。


 今までソロ(1人)になったことがないので気が付かなかったのだ。


 それでも、直ぐに新しいパーティーメンバーなんて募集をかければすぐに見つかるだろうと高を括っていた。


 だが、待てども待てども、誰一人として集まらない。


 これはカイルだけではない。他の3人もそうだった。


 今のカイルの見た目は質素な装備品でみすぼらしいうえに臭い。猛烈に臭い。誰が好き好んでそんな冒険者と一緒に行動したいと思うだろうか? きっといない。


 カイルのお得意の、騙して貢がせよう計画も猛烈な臭いに、会話をすることなく逃げられてしまう始末。


 そうなると、いよいよパーティーの組めない、カイルは依頼を受けることすら困難となっていく。


 元Aランクだったツテで何とかこじつけ受けた護衛の依頼でも、依頼主から拒否されることも度々あった。


 それは半年、一年経っても状況はかわらない。


 結局カイルは依頼もまともにこなせない冒険者だとギルドから判断され、さらにランクを一つ下げた。


 この時点でカイルの冒険者ランクはEである。


 その後もカイルたちは皆から臭いと陰口を叩かれ続け、心をすり減らす日々。もうAランクだった頃の面影は一切なく、仕舞いには人から隠れるようにして生活を送ることになった。因果応報であった。


 一つ良くなったことといえば、この町のギルド内で騙され被害に遭う女性冒険者が居なくなり、女性冒険者が増え、それに群がるように男性の冒険者も増えた。

 

 そうなると必然的に森で獣を狩ってくるパーティーが増え町の食事事情が少し改善されるのだった。

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