第40話
一頻り喜び抱き合っていた妻とマリー。その目には涙だろうか、少し潤んでいるようにも見える。喜びの涙ってやつだろう。妻は初めからマリーのことを心配していたしな。
「ねぇクロー」
その涙を指で軽く払った妻が嬉しそうに俺に顔を向け、笑みを浮かべた。
「せっかくマリーが仲間になって三人になったんだもの、何か依頼を受けてみたいわ」
妻にしては珍しく、ちょっと落ち着きがないというか、楽しみでしかたないといった様子が窺える。
大人っぽく見えても妻は17歳、年相応といったところだろう。
まあ、妻が可愛らしいということにかわりはないのだが……
「そうだな。ギルドに行って手頃な依頼がないか見てみるか」
「はい」
「マリーもそれでいいか?」
「もちろんだよ」
「それじゃあ、と言いたいところだが、マリーの戦闘スタイルはどんな感じだ。見たところ素早そうにはみえるが……」
俺はデビルスキャンを使ったからなんとなく分かる。本当なら尋ねる必要はないんだが、妻はマリーの能力を知らない。だからあえて尋ねてみた形だ。
「えっと自慢できるほどの腕じゃないんだけど……
ボクは弓と短剣を使って魔物や獣を狩っていたんだ。
一人での活動が長かったのもあるけど。遠くから射て、仕留め損ねた獣なんかに短剣を突き刺し止めを刺すって感じだね。
ただ……今はカイルたちに武器と防具を全て売却されてしまったから、しばらくは小石を投擲して牽制したり、体術で頑張ろうと思ってます」
マリーは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
マリーは冒険者ならば必要になる物を何一つ持っていなかった。
俺はなんとなくそうじゃないかとは思ってたが、元貴族令嬢である妻は、そんなこと微塵にも考えてなかったのだろう驚き口元を両手で隠している。
「……今はお金がないので……あっ! でも、こう見えてボクは体術なんかも得意なんだよ。
小枝を拾って魔物や獣の目を狙ったりもね。
小石だってうまく使えば武器にもなるし、あ、ボクの体術少しだけみせますね。ほら、どう?」
そう言ったマリーは俺の目の前でシュッ、シュッとパンチやキックを繰り出して見せてくれた。
「ほう」
マリーが言うように、パンチやケリにはキレがありなかなか様になっている。
だがしかし、俺にはマリーが蹴り上げる度に見える白いパンツと、小さいながらも俺に見てくれと言わんばかりに必死に揺れてみせる、マリーのちっぱいの方が気になった。
「ほほう」
――これは……ふむ。なかなか……悪くない。
でも、しかしだ。不思議とこの状態のマリーを他の男にみせたいとは思わないんだよな俺は……この感じはなんだろう。独占欲か?
まあマリーは俺と契約してまで仲間になることを望んだ大事な仲間だ…… 大事な仲間は俺が守ってやらねばならんさ。
「ふむ」
「ダメ……でしたか?」
一応、妻が目の前にいるので無表情を決め込んでいた俺の反応に、マリーは不安を感じたらしい。彼女は少し肩を落としている。
――これは少し悪いことをしたな。
そう思い俺はすぐに否定してやる。
「悪くない。マリーの体術はなかなかのものだ。ただそう心配しなくてもいいぞ。マリーの武器と防具ならここにある」
そうあるのだ。マリーも俺の契約者だ。これくらいは与えてやるのが普通だろう。
「へっ?」
意味が分からないと首を傾げたマリーの目の前に、俺は妻とは色違いのすこしデザインを変えた武器や防具の装備品をどんどん出していった。
「え、え、ええ……!?」
その装備品を食い入るように見ているマリーは驚き目をパチパチさせている。
でも少し身を乗り出して見ているその姿がなんとも可愛らしい。
「ふふ、これはな……」
俺はマリーに装備品と、それに付与されている能力を一つずつ伝えていく。
「……とまあこんな感じだ。マリーは大事な仲間だ。ケガでもしたら大変だしな。まあ、その時はその時で俺がすぐに治してやるけどな」
「ふふ。よかったわねマリー」
妻もマリーの反応に楽しそうに笑っているが……
「え、あ、う、うん」
マリーは一応冒険者として活動していた常識人。通常ではあり得ない規格外の装備品の数々に、どう反応していいのか分からず戸惑っていたままだったのだが、そんなこととは知らない俺は。
「あ、一応言っとくが、それはマリー専用だからな、他の誰にも身につけることはできない唯一無二の物。ほら、早く装備するといい……あ、それと忘れるところだったわ。
そのガントレットには収納機能が付与されているんだが、その収納に矢を数千本入れておいたぞ。荷物にならないし、そのほうが便利だろ?」
そう言ってからマリーの手にどんどん装備品を渡していく。
「う、うん。あ、ありがとう……?」
――――
――
それから俺たち三人は朝食を摂り宿を出ると、マリーの荷物を取りに行った。
「こ、ここなんだ」
「へ?」
「え?」
なんとマリーは馬小屋の一角(畳一枚分くらい)借りて、生活していたらしい。
「こ、ここは屋根もあるし、慣れれば気にならないんだよ……」
そうは言うが、やはり二十歳の乙女。マリーは恥ずかしいのか、顔を真っ赤に染めたまま手早く布製で少し大きめのズックを一つ、ガントレットに収納していた。
そうマリーの荷物はそれだけだった。
「忘れ物なーし。じゃ、行こうよ。今日は次の町にも向かうかもしれないんだよね」
マリーが明るくそう言うが、その顔はまだ赤い。
「ほら、行こうよ、ね、ね」
「お、おう」
そんなマリーが、俺と妻の背中を押して馬小屋の外へと押し出した。
「そ、そうね」
妻はマリーに何か言いたそうだったが、それ以上は何も口にしなかった。
かくいう俺もマリーには妻のエリザほどではないが、それに負けないくらい優しくしてあげた方がいいのかもしれないと、なぜかそう思ってしまった。悪魔なのに。
「次の町に向かうような都合のいい依頼があるといいんだが」
「そうよね」
朝食時、俺たちはこの町から離れ次の町に向かうことを決めていたのだ。
というのも、再度確認したがマリーは本当に復讐を望んでいなかった。
俺としてはあいつらのことを考えるだけで胸くそ悪く、さっさと報復してしまいたいってのが本音だが、マリーはそれを望んでいないのだ。
ならばヤツらのいるこんな町には居ない方がいい。そう思い俺たちは次の町に向かうことに決めた。
だからそのついでに消化できる依頼があれば、受けてみようと思っていた。
まあなければさっさと次の町に向かへばいい。
「でも、このクローがくれた装備品ってすごいね。収納もそうだけど、身体がすごく軽くなったもん」
ギルドに向かって歩いていると装備品を確かめるようにぴょんぴょんと軽く跳ねるマリーが、楽しそうに妻に語りかけている。
「マリーもやっぱりそう思います?」
「うん、全然違うよ。ほら見てて」
マリーはエリザにそう答えると、少し腰を少し落として構えをとる。
「マリー?」
突然足を止めて腰を落としたマリーを、妻が不思議そうに見る。
俺も釣られて足を止めてマリーに目を向ける。
「いくよ」
それからすぐに構えをとったマリーが、パンチやキックを繰り返した。
「はっ!」
マリーの手や足が霞みシュシュシュッと空を切る音が聴こえてくる。
まあ俺の目にはハッキリと見えているんだけどね。
「やっぱり思った以上に身体が動く。すごい!! すごいよ」
「本当にすごいわマリー。私、マリーの手足の動きがほとんど見えなかったわ」
「そう。でも、まだまだいけるよ」
妻が褒めると、調子に乗ったマリーが更にその速度を上げていく。
シュシュシュ!
シュシュシュ!
身体強化された身体から繰り出させるマリーのパンチやキックは先ほどの比ではなかった。
――ほう。
マリーは体術スキルを保有していないが、これならば体術スキル持ちをも軽く圧倒できるできるのではと思わせるほどのスピードとキレを発揮させていた。
だが悪魔の俺からすればまだまだ物足りなさを感じる。
「ほら、ほらクローも見てよ」
「ふむ」
――言われなくてももう見てるぞ。そのちっぱいを……
「ふむむ」
ここで俺はチラチラと見えている白いパンツを眺めつつ思案する。
本来なら、今マリーが繰り出したパンチやキックを肉眼で捉えれる人族は数少ないのだが、自分を基準に考えているクローは、この癒しを他人に見せていいのかと悩んでいた。
――ダメだな……
結論はすぐに出た。悪魔とは本来欲望に忠実なのである。
クローは前世が人族であった故に記憶が邪魔をして悪魔の本能よりも理性が勝る時が度々ある。
だがしかし、こと、契約者に関しては別の感情に目覚めていた……
それは、契約しているのだから、契約者は己のものだという強い独占欲。
――これは二人に付与した認識阻害をもう少し強めとくべきだな……
考えていた問題が解決するとなぜかスッキリした。もう悩む必要はない。
「マリーよい動きだった。その動きなら戦闘でもかなり使えるだろう。期待しているぞ」
「本当っ! やった」
俺に褒められたことがよほど嬉しかったのかマリーは子供みたいに跳び跳ね妻に抱きつき俺にも抱きついてきた。
むに。
マリーのちっぱいはやはり小さい。けど柔らかいから悪くない。
そんなことを思っていると。
「マリー。ありがとうね」
なぜかマリーにお礼を言う妻。俺が不思議に思っていると妻が俺の右腕に抱きついてくる。
ぷにゅん。
「エリザ、どうした?」
「クローの顔色が少し悪い気がしましたので癒したいのです」
――な、なんと。
少ないとはいえ人目があるところなのにエリザが、そんな嬉しいことを言ってくれる。
……まあ、実際は自業自得なんだ。
願い声のフィルターをしてから人族からの願い声が全く聞こえなくなっていたから、能力が消えたのかと心配になった俺は、先ほど試しにそのフィルターを少し外した。
するとどうだ。どうでもいいような人族の願い声がガンガン頭に響いてきて慌ててフィルターを元に戻した経緯があった。
その時の疲労が少し顔に出ていたのだろう。
「ありがとうなエリザ」
「はい」
そう言って笑みを返してくれた。
「あ、じゃあボクもいいかな」
マリーが飛び跳ねながら俺の左腕にしがみついてきた。
むに。
ちっちゃいけど確かに柔らかい。
「マリーもありがとう」
「へへへ」
やはり彼女たちの認識阻害は早めに強めるべきだと思った。
――――
――
「残念ね。次の町に行くような依頼がないわ」
初めて三人で依頼を受けようとハリキリ楽しみにしていた妻がしょんぼりと肩を落とす。
あいつらとの遭遇を避けるため、あえて時間をずらし遅めに来たのが裏目に出てしまった。
「そうだな、そもそも俺とエリザのランクが低いのが不味いのか? ランクが低いといい依頼とかなさそうだよな」
「そこは大丈夫だよ。ボクがCランクだから、Cランクの依頼までは受けれるよ」
「そうなのか?」
「うん。でも自己責任だから普通は受けないね。
その理由もちゃんとあって、低いランクの冒険者がCランクの依頼を受けても一気にランクが上がることがないの。
成果もFランクの依頼を受けたのと同じで、やるメリットもないんだよ。あ、報酬はそのランクに該当した報酬額だから高くなるけどね」
――ギルドのランクって依頼を達成した回数で上がるんだったな。でもまあ、悪魔の俺にはあまり関係ない話か。
「なるほどね……?」
妻が簡単そうだわっと俺の袖を引きその依頼書を指差した。
「じゃあ、これなんてどうかしら……Dランクの依頼になるようね。
薬師ギルドのポーション20本を次の町の薬師ギルドに届けるだけみたいよ」
「マリーこの依頼でいいか?」
「うん。ボクもそれで構わないよ」
そう言ったマリーは自身のガントレットに目を向けた。
ガントレットには収納が付与されている。これなら道中で盗難される心配はない。だから大丈夫だろうと思ったのだろう。
「そうだな、その依頼なら目的地も次の町でちょうどいい。エリザよく見つけた」
俺がエリザの肩を軽くポンっと叩くと、エリザが嬉しそうな笑顔になる。
「?」
俺がその依頼書を取ろうと手を伸ばしたところでカウンターの方から必死に懇願する声が聞こえてきた。
「お願いします!! 俺たちの清掃区域に魔物が紛れ込んでるんだ、少ないがこれで何とかしてくれ!! してください」
「お願い……」
汚ならしい身なりの少年少女の二人がジャランとカウンターにお金を出した。
「その金額じゃ無理よ。あの魔物は一匹いるとその10倍はいるのよ。諦めなさい」
カウンターの受付嬢は眉間にシワを寄せ嫌そうな顔でその少年少女に断りをいれている。
「頼むよ!! 俺たちこのままじゃあ生活ができなくなる」
「お願い……します」
二人は必死に何かの討伐依頼を扱ってもらおうと頭を下げている。
「だから何度も言わせないで、無理なものは無理なの……仕事の邪魔だからさっさと帰りなさい」
だが、受付嬢は取りつく島もなく少年たちから顔を背けた。追い出したくてたまらないといった様子だ。
「そこをなんとかお願いします。お願いします」
それでも少年は受付嬢に頭を下げ続けた。カウンターに何度も頭を打ちつけながら。
「だから無理なものはむ……」
そんな時だ。ギルド内にガラの悪そうな三人組の冒険者が入ってきた。
「おっ! クセーと思ったら、スラムのガキがいるぜ!!」
「ちげぇねぇ、クセーぞ、鼻がひん曲がりそうだ。へへへ」
「チッ! ここはスラムのガキが来る所じゃねぇぞ」
少年少女にもその入ってきた冒険者たちの声が耳に入ったらしく、カウンターに置いていたお金を慌てて搔き集めるとさっさとギルドから出ていこうとしたのだが――
「おいおい、もう帰るのか……」
ニタニタと汚らしい笑みを浮かべた三人組に出入口を塞がれていた。
――――――――――――――――――
名前 マリー
性別 女性
年齢 20歳
体形 チマ、キュッ、ボン
固有スキル キョウ運(強運)
弓術 短剣術 狙い
装備品と能力
クローの弓・矢 防御不可
クローの短剣 防御不可
クローのガントレット 金剛力、収納
クローのベルト 認識阻害、身体強化、回復
クローのブーツ 俊足、回避
保護ネックレス 防護、障壁、位置情報
ハンター女服上 既製品のため身体の小さなマリーには襟ぐりが少し広い。前屈みになるとみえる。気をつけよう。
ハンター女服下 動きやすさ重視のため、少しスリットが入っていてかなり短い。
白いパンツ 使い古され生地が薄くなっているように見えるけど、きっと気のせい。
クローへの信用 MAX
――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます