第29話 その後

★王太子とおまけ男爵令嬢のその後の話です。

興味ない方はスルーでお願いしますm(__)m



 ——王太子——


 気絶した王太子が目を覚ましたのは王城のベッドの上、クローに蹴られ折れた鼻と前歯は王宮魔術師の回復魔法によって、どうにか元に戻した。

 だが、王太子が知らぬところで発症クローの悪魔法、悪因した、欲情すると失禁するという原因不明の病は治療できなかった。当然である。悪因は病ではないのだから。


 はじめこそ王太子はその症状を必死になって隠蔽しようとした。だが俺様気質、目立つことが大好き、我欲の強い王太子に、それを隠し通せることなど無理な話だった。


 新たな婚約者に逢おうとして鼻の穴を大きく広げて心躍らせただけで大事なところに激痛が走り失禁したのだ。


 仮に婚約者にどうにか逢えたとしても王太子の大好きな年頃の女性、その姿をその目に捉えただけでも欲情してしまい失禁した。


 それでもどうにかなると諦めの悪い王太子は無理に婚約者の手を取り盛大に失禁する。


 元々、我慢するという言葉も知らない、忍耐力、なにそれ精神の王太子は持て余す性欲を好き勝手に発散していた。

 だがそれが全く発散できない身体となった王太子、欲求不満に陥るにはそう時間がかからなかった。


 王太子の症状は悪化の一途を辿り、女性の匂いを嗅いだだけでも欲情して失禁。


 酷い時は楽しげに談笑する令嬢を視界に入れるだけでも失禁。

 頭を下げている使用人や侍女の前を通り過ぎるだけでも欲情し失禁していた。


 そう、王太子はもう、行為に至る以前の問題にまでなっていたのだ。


 そんな王太子には更なる悲劇が、そうそれは王太子の望まぬ形で悪評が広り初めていたのだ。


 だがそうなっても至極当然の話だった。王太子は、女性に近づくだけで股間を押えもがき苦しみ失禁するのだ。

 実は恐ろしい病気を患っている。もしくは不能者だったということを隠しているでは? はたまた男色家なのか? と様々な憶測が飛び交い、それは面白おかしく尾ひれまでついて王国中に知れ渡るまでになっていた。女性に疎まれる、疎まれ王子、もしくは失禁王子として……


 この頃になると、王太子は色々な女性と婚約をしては婚約破棄を繰り返し、自身の威厳や武力誇示のために設立していた黒騎士団も解体され、次期国王の地位までもが危ぶまれはじめていた。


 後がないと焦る王太子はどうにかして地位の挽回を図ろうと画策し、あること実行した。


 そう、それは汚職している貴族たちの取り締まりの強化を。

 すでに後のない王太子はかなり強引に取り締りを進めた。それは自身の派閥、第一王子派だった貴族までも「俺様の糧になるのだ、有り難く思え」と……笑いながら己の糧にしていった。


 ちなみにローエル侯爵もここに入る。元々隙のなかった現ローエル侯爵だったが、ローエル領の騎士(ローエル領の騎士に扮したクロー)が王太子を殺そうとしたとし、突然、国家反逆罪を突きつけ屋敷を取り囲み捜査した。

 だが本来、王太子のこの行為は高位貴族、侯爵の地位にあるものに向けて取るべき行動ではなかった。常識外れの行動だった。

 これで証拠が出なければ王太子自身が地位を失うのだが、元々王太子とローエル侯爵は腹黒い取り引きをしていた間柄。証拠など簡単に出せると、王太子は強行する。


 王太子の常識外れのこの行動、隙をつかれた形のローエル侯爵はなす術もなく、出るは出るはの汚職した数々の証拠。

 これを皮切りにローエル侯爵に繋がる貴族までもがその餌食となった。


 当然、現当主は責任を取らせて断首刑、領地はほとんど王家に取り上げられ一族は降格処分。その後は次第に力を削がれていき、エリザが知らぬところでローエル家は没落することになるのだがそれはまだ先の話。


 王太子の策は、結果的には王国中の膿を出しきることになるのだが、自分自身の首までも締めてしまう。


 そう王太子自身、元々素行が悪かったのだ。叩けば埃だらけ、そこに気づかない王太子、いや王家に仕える貴族ならば王太子自身の糧となることが誉れだとでも思っていたのだろう。

 だが、そうはならない、その証拠が恨みを買った貴族から次々と突きつけられ(ここにローエル侯爵も入る)驚き戸惑う王太子は、なす術もなく次期国王の地位からすごい勢いで転げ落ちた。


 もうここまで落ちる頃には、世継ぎの望めない身体であり、王国にとって悪害にしかならない王太子だと知れ渡っている。


 当然、現国王からは一族に不要だと切り捨てられ、王位継承権は永久に剥奪され、王位継承第一位の座は第二王子のジキルに移ることになっていた。


 ここまで落ちると、王位継承権のない王子など邪魔な存在。

 第一王子の扱いは雑なもので、病気療養中だと王宮の離れに住まいを移されるが、付き人は誰一人いない。

 一人で何もできない第一王子がその後どうなったのか……


 ただ、若い使用人たちの間では王宮の奥には野人がいると、若い女性の使用人は決して近づくなと、恐れられていたとか、いないとか。


 ――――

 ――


 ——どこぞの男爵令嬢——


 その男爵令嬢は、王太子が失禁する男性に成り下がったと分かるとすぐに手のひらを返し、ターゲットを第二王子に移していた。


 まあ、そこだけ見れば先見の明はあったようだが、相手が悪かった。


 その男爵令嬢は第二王子からは軽くあしらわれ、それどころか婚約者のいる第二王子を誑かし誘惑したことを皮切りに、第二王子の取り巻きから探りを入れられ他にも多くの高い地位にある上級貴族の子息を篭絡していた事実が明るみになった。


 調べれば調べるほど、骨抜きにされた男たち、被害にあった男たちが露見していく。


 さらにはとんでもない数の男たちとの肉体関係までもが明るみになり、事態を重く見た現国王は、王国始まって以来の悪女であるとその令嬢を断罪したことで王国中に知れ渡ったのだ。


 それは王太子の謀略によって、先に悪女として名を馳せていたエリザベスが、悪女ははじめからこの男爵令嬢だったのだと誤認されるほどに。


 そのため調べれば記録は残っているが、民衆の間でエリザベスのことを悪く言う者はいなくなっていたのだとか。


 当然に、その男爵家は取り潰され、その令嬢は今後一切男との接触ができないよう、男の修道士が一人もいない、男と無縁の修道院に送られた。


 ただ、その元男爵令嬢の送られた先の修道院は、表の顔は規律に厳しく会規を遵守する最も格式の高い修道院として有名な院であったが、その実、裏では一味違う変わり者が集まる修道院だった。


 顔だけは可愛らしかった元男爵令嬢は、変態気質のお局様たちに気に入られ新たな世界への扉を開いていく。


 それはもう男など忘れてしまうほどの何か……


 数年後でもそれは変わらずお局様のお気に入りとして常にその隣にお人形のように座らされていて、それはそれは幸せそうだったとか。そうじゃないとか、修道院を訪れた旅人たちが話していた。

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