第22話
――いやぁ。何度思い返してもあれは楽し……くは、なかったな……
全裸で駆けるゲス男が二人。そんなゲス男の姿など忘れてしまいたい俺は、慌てて
ぽよん。
――はぁ、いいわこれ……
「クロー? 疲れたような顔をしていますけど、どうかしましたの。それよりも、ほら見てください。やっとローエル領を抜けましたわ」
彼女が何もない平原を指差したが、俺にはその境目が分からなかった。
とりあえず、ここはもうトーナル男爵領に入っていると認識しとくに留め。
『ほう』
「このまましばらく進むと小さな町へと向かう別れ道があったはずよ。
でも騎士たちは面倒を避けたいようですし、まず立ち寄ることはないでしょうね」
『うむ。そうだろうな……』
それから彼女は、何か物思いにでも耽っているのだろう。何もない平原を黙って眺めている。
だから俺もしばらく鉄格子から外を眺めていた。
それからまた馬車に揺られていると彼女が言っていた別れ道に差し掛かったが、予想通りこれはスルーされた。
道中何度か休憩を挟んだが初日と同様、朝と昼、彼女に食事が届くことはなった。
まあ、そんなこと想定内というかあったとしても俺は、それ食べさせるつもりはなかった。俺が安全な食事を魔法で出せばいいのだから。
「クロー。どうやらこの馬車はゲスガス小国に向かっているようですわ」
外の風景を見ていた彼女が、目的地に当たりをつけたようで、笑みを浮かべている。
『それは、良かったんだな』
「ええ」
ケモール王国では種族自体違うからそれだけでも目立ってしまうし不興も買いやすい。
だからこそ、冒険者登録するにも人族である彼女が、ちゃんと対応して貰えるのかとても不安だったらしい。
その点、ゲスガス小国では紛争状態ではあるらしいが同じ人族。
治安は悪いかもしれないが、その分冒険者登録は容易だと考えていたらしい。
そこで俺は彼女の姿に目を向ける。
――さすがに靴もなくワンピース一枚で歩かせるわけにはいかないよな。
どちらにしても俺は国境を越えたら、彼女のために密かに準備した装備品を渡してやるつもりだ。ただ、
――彼女の下着はどうしようか。
この世界では不思議とブラがないようだが、女性用の防具の中にはそれに似た装備品はあるっぱい。胸当てとか。
パンツだってそう。彼女が履いてカボチャのパンツは嬉しくないが、探せばきっと普通にセクシーなパンツだってあるはずだ。
なければなかったで俺が出すからいいけど。
俺的には彼女にはセクシーなやつを履いてもらって、たまにはパンチラでもして欲しいのだ。
しかし彼女が下着を履いてないという今の状態も捨てがたい。
――ああ、俺はどうすれば……? チッ! 来たか。予想では明日あたりでまだ余裕があると思っていたんだが……
『エリザ。予定より早いが、おいでなすった』
「え?」
気配で分かる。四十人規模の集団が後方から広がりこの牢馬車を取り囲むように距離を詰めてきている。
――ふん。彼女一人に用意周到なこった。
このまま俺が何もしなければ三十分ほどで取り囲まれてしまうだろう。
その際に、周囲にいる護衛騎士たちとも合流するだろうから、これからは奴らの動きにも注意することを彼女に伝える。
「えっ、合流って! それじゃあ相手は五十人になってしまいますわ」
ショックを受けたのか、彼女が力なく馬車の壁に寄りかかり、そのまま床にペタンと腰を下した。
「いくらクローでも、五十人の騎士を相手にするなんて無理よ」
小さく呟いた彼女は目に涙を浮かべてから力なく首を振る。
彼女はそんなに俺が弱いと思っていたのだろうか。舐めないでほしい、俺はこれでも悪魔だ。
『エリザ、何をいっている。俺からすればたかだか五十人だ。大した数じゃない』
「それでも訓練された騎士なのよ。その騎士が五十人もいるのよ。無理に決まってるわ。
クローごめんなさい。わたくしが護衛を依頼したばかりに。ごめんなさい……」
彼女は肩を震わせ、俺をぎゅっと抱きしめてくる。彼女はまだ俺を信じきれていなかったらしい。解せん。
だから今度はしっかりと彼女の両目を見て強く言い聞かせる。
『エリザ、よく聞けっ。俺は五十人程度の騎士に殺られるわけないんだ』
「……」
彼女は何も言わずただ俺を見ている。俺の次の言葉を待っているようにも思える。ならば言おう。
『俺は悪魔だ。悪魔には普通の攻撃は効かないんだよ。だから奴らは俺には絶対勝てない。少しでも可能性があるとすれば、エリザ、お前が人質にでも捕らわれたとしたら、いや、それでも無理だろうな……
でも、不安な要素は潰しておくべき、か。うむ。予定より早いが、受け取ってくれ』
俺はそう言いつつ密かに準備していたベルト、ブーツ、ガントレットを。そして、小剣を彼女の前に出した。
「これは……何かしら?」
彼女が突然目の前に現れた物に驚き目をパチパチする。
『それは俺がエリザのために創った装備品だ』
「クローがわたくしのために?」
『そうだ。エリザにだ。そして、その装備はエリザだけのもの。誰にもそれは装備できない仕様にした』
「こんなわたくしのために……クローうれしい。うれしいわクローありがとう」
彼女の反応が少し大げさにも思えるが、それでも不安そうにしていた彼女に笑顔が戻ったのでよかったと思う。
「すごくキレイだわね」
『ふふ、俺がエリザに似合いそうなものを想像して創ったからな。
それにこれは、見た目だけじゃなく、それぞれに補助魔法が付与されている』
「付与? 付与とはなんですか?」
『えっと、なんて言えば分かるかな。エリザを助けるような能力を、その装備品に与えてる……そんな感じかな。
ちなみにブーツには俊足、回避、ベルトには認識阻害、身体強化、回復。ガントレットには金剛力、収納だな。
あとは、前にやった保護ネックレスが、防護、障壁、位置情報ってところだ』
俺が付与した魔法の内容を伝えてみるが、彼女からの反応は薄い。
それどころか彼女の頭には疑問符がいつくも浮かんでいるように見える。
『分からないか?』
「はい、ごめんなさい。正直よく分かりませんけど。クローがわたくしのために、何かしてくれていることは分かりましたわ」
彼女は元令嬢であって騎士じゃない。必要のない知識なのだ。知らなくてもしょうがないか。
『今はそれでいいさ。とりあえず、その装備品の前に……これを着てくれないか』
外にいる騎士たちを片付ければそのまま俺たちは逃亡することになる。
タイミング的には今がベストだろう。そう思い、駆け出し冒険者の女性よく着るらしいワンピースと下着を一枚ずつ所望した。
でもその冒険者のワンピースは、中でも特に胸元が大きく開いて、スカート丈が短いやつを選んでしまった。
けど、俺好みの服を着た彼女を他の男どもに見せるわけにはいかない。
だから俺はベルトの装備に認識阻害を付与している。俺に抜かりはないのだ。
「まあ、これをわたくしに……ですか」
少し心配だったが、まず初めに彼女が嬉しそうに手に取ったのはパンツだった。
俺の思考は一瞬にして彼女のパンツ一色になる。
「良かったわ。これは下着ですよね。しばらくは履けないと覚悟していたのですが……んん!?
お、おかしいですわね。な、なんだか布の面積が少し狭い気がしますけど……これを履くのです、よね」
そのパンツを広げた彼女が顔を真っ赤にした。
彼女が思っていた以上に布面積が狭かったのだろう。
――ふふふ……
『そうだ』
俺は堂々とそう伝える。彼女にはぜひともそれを履いてほしいのだ。
「……」
彼女は仕方ないとでも思ったのか、着ていたワンピースの丈を少し捲り上げると、そのパンツに足を通していく。
――おお。
彼女のそんな動作もまた色っぽい。しかしなんだ、そんな彼女を見てると気持ちが昂っていけない。
――落ち着け、落ち着けぇ俺、ふぅ、ふぅ……
俺が深呼吸をしてから落ち着きを取り戻していると、彼女はパンツを履き終えていた。履き終えて少し不思議そうな顔をしている。
「その、はじめは布の面積が狭くて変わった下着だと思ったのですが、これが不思議と履いていて心地いいのです。こんなの初めてだわ」
そりゃそうだろう。そのパンツの素材はシルクなのだから。
彼女曰く、パンツは普通にあるがボクサーパンツに近いものが多いらしい。
カボチャのパンツを履いていたのはお腹を冷やさないため、だそうだが、ゴワゴワして履き心地は決していいものではなかったらしい。
『ふふふ、そうか、それならよかった』
気をよくした彼女は、すぐに着ていたワンピースを脱ぎはじめた。
ぽよーん。
ぽよーん。
――おおっ。
急いで脱いでいるため、脱いだ瞬間彼女の大きなおっぱいが暴れている。暴れるおっぱいはかなりの破壊力だ。
それに俺の選んだパンツ姿が重なるのだ俺の目は彼女に釘付けだ。
――こ、これはけしからんな。
しかしそんなうれしい時間はすぐに終わりを告げる。
それは彼女が俺の出した新品のワンピースを頭から通していたからだ。
「ど、どうかしら。かなりスカート丈が短いように思うのですけど……」
そのワンピースは冒険者が着る仕様なだけあって見た目はカッコいい。
ただ胸元が開きすぎておっぱいが溢れ出しそうになっているのだが、彼女には、それよりも膝上までしかないスカート丈の方が気になっているようだ。
『うむ。よく似合ってるぞ』
俺は、それをなんでもないように言う。
「で、でもこれだと見えそうですけど……」
彼女がスカート部分を下に引っ張りつつ顔を赤くする。
動いたらパンツが見えそうだと心配しているのだろう。彼女はずっと丈の長いものしか履いてなかったから余計に。
『そこは心配しなくてもいいぞ』
俺はベルトについてる認識阻害の効果を説明した。彼女が認識してほしくないところを阻害するということを。
「そう、なのですか。そんなこともできるのですねクローは。それならいいのですが……」
彼女が渋々といった感じて頷き、早速、認識阻害の効果を試しているようだが、残念だけど俺には効かないんだよね。
一応そのことを伝えてみたが、彼女の返事は「分かったわ」とえらく軽い。
――俺ってそんなに異性として見られてないってことか……? いやいや俺は悪魔だ。何変なことを考えているだよ俺は……
悪魔なのに、変なことを考えていた自分を忘れたくて周囲の気配を探る。
――あと十五分、くらいか……
『それじゃあ、時間もないことだし、ほかの装備品も身につけてくれ』
「はい。分かりました」
早口で返事をした彼女が床に置いていた装備品を一つ一つ身に着けていった。
心なしか嬉しそうに見えるのは装備品が彼女の好みにあったってことだろう。
『そして最後がこれ、小剣だ。これには防御不可を付与してある。
そのベルトに帯剣できる様にしているから下げててくれ』
「うん。ありがとう」
彼女が小剣を嬉しそうに腰から下げた。これでようやく、彼女の見た目は活発そうな冒険者になった。
――どうにか間に合ったな。
俺は牢馬車に迫りつつある四十人ほどの騎士の気配と十人の護衛騎士たちに意識を向けた。
――――デビルスキャン――――――
名前 エリザ
性別 女性
年齢 17歳
体形 ボンッ、キュッ、ボン
装備品と能力
クローの小剣 防御不可、
クローのガントレット 金剛力、収納
クローのベルト 認識阻害、身体強化、回復
クローのブーツ 俊足、回避
保護ネックレス 防護、障壁、位置情報
冒険者のワンピース 胸元が大きく開き丈が短い
セクシーなパンツ 布面積が狭い
クローへの信用 すでにMAX
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