第17話

 騎士が立ち去ってからしばらくすると横になっていたはずの彼女から寝息が聞こえてくる。

 彼女にとって今日は朝から慌しく環境も劇的に変化した、慣れないことだらけで心身ともに疲れていたのだろう。

 力の抜けた彼女の腕は俺から離れだらんと床のほうに伸び、抱かれていた俺は解放された。


 俺は猫の姿で伸びをする。


 ――ふああ……ふむ。ヤツらの様子でも見てみるか。


 そんなことを思いつつ牢馬車にある小窓の淵に軽く飛び乗りしばらく眺めていると、


「ん、んん……」


 彼女の艶やかな声が聞こえてくる。


 ――?


 俺の目は自然に外でなく中で寝ている彼女の方へと移る。


 ――なんだ、体勢を変えただけか。


 俺が向いたその先、そこには身体を横向きから仰向けの体勢に変えた彼女の姿があった。だがしかし、


 ぷるん。


 よく見れば彼女の大きなおっぱいが震えるように揺れてこっちにおいでと俺を呼んでいる。


 ――な、なんと! ではその期待に応えねばな。


 外は十分に見た。特に問題ない。騎士たちがまだ騒いでいるだけのこと。


 まあ、一人ほど、げっそりとコケた顔で、木に寄りかかっているヤツがいるが。気にするまでもあるまい。


 ――よっと。


 俺は再び彼女の下に舞い戻る。それから彼女のお腹の上に寝転がりそこから彼女のおっぱいでも眺めてやろうと思ったのだが、


 ――ふふふ……?


 その矢先、もぞもぞと身動ぎしたあとに再び身体を横に倒した彼女は、膝を抱えるように丸くなった。


 ――んん?


 さらによく見れていれば、彼女が小刻みに震えていることに気がつく。


 悪魔の俺には気にならないが、人族である彼女に今の気温は少し寒いのかもしれない。


 たしかに日中はぽかぽか陽気で快適だったが今は日が沈み、少し冷え込んできた感じがする。


 ――? すきま風……


 さらにこの牢馬車、きっちりと床板が張ってあるようでいて所々に隙間が結構ある。

 さらに小窓は開いたままだから、その小窓から入ってきた冷えた空気が床の隙間へと通り抜けている。


 ――なるほど。


 悪魔の俺は平気だが、ワンピース一枚の彼女には少し寒いのかもそれない。


 ――ふふ、ここは俺の力の見せ所だな……まあ、エリザは寝てるけど。


『我は所望する』


 俺は所望魔法を使った。牢馬車の中が俺の所望した通りの快適空間に変わっていく。


 ――これでどうだ?


 寒かった牢馬車の中が寝るに適した快適温度になり隙間風がピタリと止んだ。


 それだけじゃない。


 固かった床は絨毯並にクッション性があり、このまま仰向けに寝たとしても背中は痛くない。むしろ心地良くなるようにしてみたのだ。


 俺がその結果に満足していると、


「クロー……ありがとう……」


 寝ているはずの彼女からそんな声が聞こえてきた。


『エリザ。起きていたのか』


「ごめんなさい。寒かったので、寝ようとしても寝付けませんでした」


『そうだったのか。ならもう休んでくれ。疲れているだろ』


「……はい」


 仰向けになった彼女の手が自然と伸びてきて俺を再び抱きしめるが、


 ――おお……?


 よほど彼女は疲れていたらしく、柔らかな彼女のおっぱいが俺を全身を包む頃には彼女からすやすやと寝息が聞こえてきた。


『寝てる』


 ――――

 ――



 ――むっ。


 闇が深くなり誰もが寝静まった時刻、俺は近寄ってくる二つの気配を感知した。


「……」

「……って」


 耳を澄ませば男たちのゲス声が聞こえてくる。


「おいおい、いいのかよ」


「いいに決まってるだろ。お前、あのおっぱい見てなんとも思わないのか?」


「あ、ああ、あれはいい。すごい唆られる」


「そうだろ。どうせ消すように命令されているんだ。なら消す前にヤらねえともったいねぇだろ」


 ――なるほど。まあ、そんなことだろうとは思っていたがな。


「確かにそうだ。最期に気持ちよくしてやるんだから、逆に感謝されてもいいくらいか?」


「おう、分かってるじゃねぇか。男を知らずに消されるのもかわいそうだろ。そんなかわいそうな女に男を教えてやろうぜ。たっぷりとくっくっくっ」


「そうだな。それに明日以降になれば、他の奴もきっと動き出すぜ。先を越される前にヤらねえと、あんな上玉、二度と味わえねぇぞ」


「おうよ。それよりちゃんとカギは持ってきているんだろうな?」


「ああ。今日は俺が当番だったからな。ほらみろ、バッチリだぜ」


「睡眠薬はどうだ? 確認したか?」


「それも大丈夫だ。ほかの奴らは薬が効いて朝までぐっすりだろうよ。くへへへ」


「おお、やるじゃねぇか。だな分かってるだろうな。賭けで勝った以上俺が先にヤる。だからお前は両手を押さえとくんだ」


「ちっ分かってるよ。賭けなんてするんじゃなかったぜ」


「お前が先に言い出したんだろうが」


「はいはい。出したらすぐに交代しろよ。俺も溜まってんだからな」


「おうよ。タップリ中に出してやるぜ」


「くっ、お前の後ってのが気に入らねぇが、この際、しかたねぇか。まあ俺も中に出してやるつもりだし。出して出して、出しまくって溜まってた分全部出してやるぜ。ぐへへ」


 そんなゲス男たちの気配は牢馬車の後方で止まると、何やらガチャガチャと金属音が聞こえてきた。


 恐らく金属のチェーンを外す音なのだろう。ただしーんと静まり返っている深夜に、その金属音は大きく馬車内にも響いていた。


「……ん? な、に? 何か音がしなかったかしら」


 その音に眠っていた彼女が目を擦りながら上体を起こす。もちろん俺が落ちないよう抱きしめたままだが、その瞳は開ききっておらず半目。まだかなり眠そうだ。


『騎士の二人だ。エリザの身体を狙ってこの馬車内に侵入しようしている』


 俺の言葉に眠そうだった彼女も驚き目を大きくする。


「う、嘘ですよね。ローエル領の騎士にそんな卑しい者なんているはずが……」


『嘘じゃない、ほら』


 ちょうどその時、外のチェーンがガジャーンと音を立てて地面に落ちた。


「バ、バカ! お前もう少し静かにできねぇのかよ!」


「すまん。つい焦っちまった。あの身体を今から味わうと思ったら、うれしくて手が震えたんだよ」


「けっ、まあいい。悪女だが身体は悪くねぇからな」


 ガチンッ!


「うへへ。カギが開いたぞ」


「やべぇ、想像しただけで垂れてきた」


「おいおい、ヤル前に終わるなよ」


 それから二人の騎士が牢馬車のドアを静かに開けたあと、馬車内をそろっと覗き込んできた。


「ちょっとあなたたち、こんな時間に何の用ですの?」


 怖いだろうにそんな素振りを笑微塵にも感じさせないよう彼女が精一杯の声を張り上げる。


「ちっ、起きてやがる」


「お前が大きな音を立てるから起きちまってるじゃねぇか!」


「まあいいじゃねえか。起きていようが、寝てようがヤルことにはかわらねぇんだ。

 おい! 悪女さんよ。何の用はないよな。分かるだろ、今からお前のその身体を頂くのよ。おい」


「ああ」


 一人の騎士がそう言うと、もう一人の騎士から返事が聞こえる。


 そして、その後にはカチャカチャと金属ベルトを外す音が二つ聞こえはじめた。


「ね、寝言は寝てからいいなさいっ」


 彼女も必死だが、女だと舐められている彼女の言葉には何の効力もないようだ。

 いや、それどころか騎士たちは彼女の声にさらに興奮している様子。


「ふひゃあ、なんとでも言えよ。最期に俺たちが気が狂うほど、気持ちよくしてやるからよ。

 男がどんなもんかその身体にたっぷり教えてやるよ」


「お、お断りよ! 帰ってくださるっ」


「ふへへへ、いいぜ帰ってやるさ。ただし、ヤることヤってからな。げへへ」


「こ、この、ケダモノ。あなたたちそれでもローエル領の騎士なの!」


「ああそうだよ。俺たちはこれでも歴としたローエル領の騎士だぜ。それが何だ? お前は消すよう命令されているんだ。ここで犯したところで誰にも分からねぇんだよ」


「ぐっ」


 彼女の顔色がさらに悪くなる。彼女なりに覚悟はしていたようだが、やはり騎士たちから真実を聞いくと相当堪えるらしい。


「さすがに堪えたか? ひゃはは、だがお前に助けはこねぇぞ、ざまぁねぇな。

 だからそれを知ったお前は俺たちに媚びるしかねぇのさ。少しでも長く生きたいだろう? ほら、早くそれを脱いで俺たちをたっぷりもてなしてくれよ。ぐへへ」


「だ、誰が、あなたたちなんかにっ!」


「はん、悪女がまだ自分の置かれた立場をわきまえてねぇな」


「ぐへへ、強がったところで、お前はその卑猥な身体を見せつけ媚びてきた悪女と呼ばれるようになるんだからな。まあ俺たちがそう広めるんだけどな、げはは」


「なに勝手なことを!」


「くっくっくっ。口ではそう言うが、お前は見逃してほしくて俺たちを誘うつもりだったのだろう? ほらほら、腰を振って俺たちを誘いなって」


「バ、バカじゃないの誰があなたちなんかをっ」


「分かってる。分かってるぜ。そう言ったって本音じゃ男を求めているんだろ。

 だから優しい俺たちがその誘いに乗ってやろうってんだよ。俺たちは優しいんだ。

 まあ、ヤることやったら消すけどな。俺たちローエル騎士は職務に忠実だからな。くっくっくっ」


「……っ」


「おっ、否定しないってことは認めたな。くくく。でもなぁちゃんと感謝してもらわんと困るなぁ。平民以下の卑しいお前を、わざわざ俺たち騎士様が抱いてやるんだからよ。くくく」


「まあ。飽きるまではタップリ可愛がってやるぜ悪女さんよ。いや、もう薄汚い娼婦とでもいえばいいかな。なぁ、そうだろう?」


「誰が娼婦に……」


「おっと、話はここまでだ、時間を引き伸ばそうったってそうはいかねぇよ。

 だが安心しろ後でちゃんと聞いてやるよ何度だってな。まあ口を開く元気が残ってればの話しだがな。ぐへへ」


「そうそう。ぐへへ」


 騎士の二人はすでに、着てきた服をすべて脱ぎ捨てていた。

 そして、小さなドアから男のブツを彼女にわざと見せつけてくる。


「げへへ」

「ぐへへ。どうだ欲しいだろ」


「……っ」


 ゲスたちは興奮し彼女が身を震わせるのを確認して満足したのか。


「おい」


「おおよ、けへへ」


 見せていた男のブツを一度引っ込める。

 それから一人の騎士が、牢馬車の中に入ろうと小さなドアから頭を突っ込んできた。


「くっ、相変わらず狭めぇな」


 入ってきたそのゲス顔が彼女のほうに向く。


「ぐふふ、たまんねぇぜその身体」

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