第14話

 やはりというか、この位置はすぐ目の前に彼女のおっぱいがあるので非常に楽しい気分になる。眼福。


 それに、なんといっても彼女は無防備だ。元貴族のお嬢様だからなのだろうか。


 今も彼女は食べやすいように、身体の横までうどんを引き寄せようと両手を伸ばしている。


 ――うはぁ。


 案の定、彼女の大きなおっぱいの側面が俺の顔に当る。ラッキースケベな展開に俺は思わずにんまりする。


 しかもこんなにもおいしい展開なのにまだ終わりじゃなかった。

 フォークを使ってうどんの麺の長さを確認した彼女が、


「確かに猫の姿のクローには長くて食べにくそうね」


 そう言うと、そのうどん麺を少し小さなお椀に移した。


「少し細かくするわね」


 それから彼女はうどん麺をフォークで細かくしようと必死だ。


 そう、今も必死にうどん麺を細かくしている彼女なのだが、必死になればなるほど身体は自然と前傾姿勢をとる。

 

 前傾姿勢になれば彼女の太ももで仰向けになっている俺の顔面に彼女のおっぱいが近くのは必至。


ぱふ。


 ――むはっ!


 俺の顔面が柔らかいおっぱいに包まれる。


 ――サイコーです。エリザ、グッジョブ。


 しかしそう思えたのはここまでだった。至福の時間なんて意外と短い。

 必死になり過ぎた彼女のおっぱいがぐいぐいと押し付けられるようになったのだ。


 ――う、こ、これは予想外……


 俺は顔面に押しつけられたおっぱいに口と鼻を圧迫されて苦しくなったのだ。


 むぎゅ。


 さらに彼女のおっぱいが俺の顔を押しつぶす。うどんではなく俺の顔を……


 むぎゅぅぅぅ。


 ――ふもっ、こ、こんなオチなんていらない。おっぱいは好きだが……こ、これはちょっと違う、苦しい。


『おーいエリザ。埋もれてる、俺おっぱいに埋もれてるから』


「もう少し待ってて、まだ少し大きいと思うの」


 俺が呼びかけても彼女はうどんの麺に夢中で軽く流されてしまう。


 それからも緩むことなく、逆にじわじわとおっぱい圧が増した。


 むぎゅゅゅう。


『ふもぉぉ』


 ――か、顔が潰れる。いや、これはもう身体全体か……ぐぬぬ。


 そう彼女のおっぱいは大きいので小さな猫の姿の俺は顔だけでは済まず身体全体にまでおっぱい圧をかけられていた。


 しばらくの間、俺がふがふがもがもがバタバタ足掻きおっぱい圧に耐えていると、


「お待たせいたしましたわ。たくさん細かくできたのよ。これでどうかしら」


 彼女からそんな希望の声が届くとともにおっぱい圧がスッと消え失せた。俺はおっぱい圧から解放されたのだ。


『……お、おう』


 耐えきったばかりの俺にはそう返すのがやっとだったが、すでに満足げな顔をした彼女が笑みを浮かべてフォークを差し出している。


 ――うどん……


 当然、そのフォークには小さくしたうどんがのっかっておりその麺を俺の口へと運んでくれた。


 疲弊していた俺は、差し出されたうどんがアツアツだということすら頭になく口に入れる――


『ぅあちっ!?』


 猫舌になっていたので当然である。俺の変身は完璧なのである。であるが今はそれが仇となっている。熱すぎて全身の体毛がブワッと逆立った。


 それでも、吐き出すような間抜けなことはしない。俺にもプライドがある。俺は味わうことは二の次にして、なんとかそのうどんを飲み込んだ。だが熱に弱くなっていた俺の舌がヒリつく。


「あら、ごめんなさい。そんなに熱かったのかしら……」


 少し不安そうな表情を浮かべた彼女が自分も食べてみる言ってうどんを口にした。


「あら、すごく美味しいわ」


 彼女にはちょうどいい熱さだったらしく、おいしそうに何度も咀嚼している。


 やはり俺の変身は完璧なのだ。焼けた石を口に含んだかように熱く感じた俺は完璧な猫舌。


 悪魔大事典の中でも二日に一食はかならず食べていた、うどん好きの俺。アツアツのうどんが食べれないショックはかなり大きい。


『どうやら俺は猫舌になってるから無理そうだ』


 猫でいる間だけは、今回はうどんを諦めよう。

 俺の食事はもう終わったとばかりに俺は全身の力を抜き彼女の太ももに寄りかかる。せめて背中だけでも彼女の柔らかさを堪能しようと思ったのだ。


『残りは食べてくれ』


「もう。そんなのダメにきまってるでしょ」


 彼女は少し頬を膨らませたあと、イタズラを思いついた子どものように楽しげな笑みを浮かべた。


「うん。そうよ」


 そしからひとり小さく頷いたかと思えば、小さくしたうどんの麺にふぅふぅっと息を吹きかけはじめた。


 ――? 冷ましてる……のか?


 それをどうするのだろうと思いつつも彼女の動作に目を向けていれば、その冷ました麺を彼女の口のほうに運んでいる。自分で食べるらしい。


 ――ぶっ、なんだよ。期待して損した。


 そう健康優良児ならドキドキ期待してもおかしくないシュチュエーションだった。まあ俺は悪魔だけど。

 麺を冷ました彼女が俺にくれると期待してしまっていたのだ。なんと痛いこと。


 こうなると俺の興味がうどんから薄れ、彼女のおっぱいへと向かうのは自然の流れ、だがしかし俺の視界の隅にそれは入った。


 彼女が息を吹きかけ冷ました麺を一度自分の唇に当ててから確かめ、俺に差し出してくるその動きが。


 彼女は冷ました麺を自分で食べようとしたわけじゃなく熱さ具合を確認しただけだったのだ。そんな彼女の行動を見て衝撃が走る。


 なんだろう。突如胸の奥に沸いたこの違和感。前にあったモヤモヤとは違う。


「もう大丈夫だと思うけど、どうかしら」


 俺が何も言わず惚けていたからか、彼女は少し照れた様子で、


「あ、これは昔、わたくしの乳母がこうやって食べさせてくれたことがあるの」


 そんなことを教えてくれ、うどんを載せたフォークを俺の口元に近づけてくる。


 その瞬間、フラッシュバックが起こり前世の記憶が駆け巡った。


 ――な、なんだ……これ。


 その記憶は断片的だったが、それからは胸の奥から更に何か得体の知れないモノ、熱いモノが沸き上がる。


 ――この胸の高鳴りは、俺はうれしい、のか……?


 いや、もともとうれしいと言う気持ちは知っている。ただそれが人族に対して向いていなかっただけ……? 理由は分からないが、悪魔に転生してしまった弊害とでもいうのか。


 ただそれだけじゃない気もする、けどまだよく分からない。

 でも俺は悪くない気分だった。


『はむ』


 だから俺は差し出されていたうどんに勢いよくかぶりついた。


「まあ、クローったら、そんなにお腹が空いていたの?」


 嬉しそうに微笑む彼女を見てるとなんだろう。今度はムラムラもやもやしてきた。

 更になんだかよく分からないボルテージまでぐんぐん上がっていっている気がする。


 気持ちとしては、じっとなんてしていられない。そんな気分。そわそわと落ち着かない。


「ね、ねえ大丈夫なの。そんなに焦って食べなくてもいいのよ。まだいっぱいあるのだから」


 そう、この時の俺は前世の感情に振り回されて暴走寸前だった。昂ぶった欲求が俺を支配していく。


『エリザっ』


 ついにその欲求を抑えきれなくなった俺は、口に入れたうどんを素早く飲み込むと、本能の赴くまま彼女のおっぱいにダイブしていた。


 ぱふっ。


 といってもすぐ目の前にそのおっぱいがあるのだから、ただ手を伸ばしてしがみついただけもいうなんとも少しお間抜け。


 ただ、しがみついた、しがみついたでおっぱいが愛おしくて堪らない。おっぱい愛が膨れ上がっている。


「ちょっとクロー。突然どうしたの。ん〜」


 遠慮なく俺は彼女のおっぱいに顔を埋めて左右に首を振ってすりすりする。


 ぱふぱふ。


『エリザ……俺は、俺は……』


 ぱふぱふ。


 もはや、この感情をどう抑えればいいのか自分でも分からなくなっていた。


「ま、まだ食べてる途中なのよ。は、はしたないわよ」


 そんな声が聞こえるが、本能に抗うことのできなくなった俺には、それがどこか遠くに聞こえた。


「もう……」


 彼女の呆れたような声。彼女は手に持っていたフォークをゆっくり器の上に置いた気がする。

 その後俺はどうしたのだろう。意識がない。ただすごく柔らかくて心地が良かったことだけは分かった。

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