第13話
牢馬車に揺られること数時間、あの騎士以外は特に変化もなく、暇すぎて俺は彼女のおっぱいを枕がわりに寄りかかっていた。エリザ? 彼女は俺が魔法で出した知恵の輪に夢中。カチャカチャやっては首を捻っている。
「おかしいわね」
そんな彼女を眺めつつおっぱい枕を堪能していると、牢馬車の速度がゆっくりと落ちていく。
『? 休憩でもとるのか。そうか、馬には休憩が必要だったな』
――前世の記憶、車に乗っている感覚になってたわ……
「そうみたい。お日さまも真上の位置にあるものね」
彼女は見つめていた知恵の輪から視線を外し鉄格子から見える空、青空を眩しそうに眺めている。
『うむ。昼だな』
牢馬車は少し開けた場所に停車すると、隊列を組んでいた騎士たちも次々に下馬しては近くにある樹木に馬を繋いでいる。
その奥には湖も見えることからも馬を休憩させるにも良さそうな場所だ。
部隊長らしき人物が何やら指示を出し騎士たちは作業を始めた。
俺の中では評価の低いローエル領の騎士たちだが、意外にも手際がいい。あっと言う間に準備を済ませると、一ヶ所に集まり昼食を摂り始めた。
――む、こいつら……
だがしかし、彼女にその昼食を持ってくる気配がない。彼女に昼食を摂らせない気なのだろう。
しかも見ていて騒がしいから不愉快に感じる。本当に騎士なのかと疑ってしまうくらいガサツで品がなく見える。
まあ顔色が悪い騎士が一人いるが、そいつは食事どころではないようで、こそこそと湖の方へ向かったと思えばそのまま湖に腰まで浸かった。
それからは湖の中でごそごそやっている。まあ、短い休憩時間で色々と洗い流したいのだろう。馬も洗ってやらないとな。けど、また汚れるぞ……きっと。
――お気の毒に……でもそれ、あと数日は続くぞ。
「食事がこないわ」
昼食が届かないことを不思議に思った彼女は立ち上がると鉄格子から騎士たちの様子を窺っていた。
そんな彼女に気づいた騎士たちは、鼻で笑う者やニタニタと下品に笑ってみせる者、大袈裟に美味しそうに食べてみせる者、隠すきもない奴は指を指して嘲笑していたりする。
どうやら彼女に与える昼食はないってことだろう。
――そうきたか……
「……」
元貴族令嬢とはいえ彼女も鈍いわけじゃない。すぐに状況を察したのだろう。彼女はすぐに顔を背けてから無言で座り直す。
気丈に振る舞っているが、俺を抱く彼女の両手が小刻みに震えている。
そんな彼女の姿を見ていると、俺もなんだかもやもやイライラしてくる。
――奴らの嫌がらせなど、どおってことない。
そう俺は彼女の護衛なのだ。ご飯くらい俺が出してやればいい。
『エリザ。俺たちも食べよう』
奴らにはいずれそれ相応の報いを与えてやろうと決意し、今は彼女に奴らより美味しいものを食べさせてやろうと思った。
「いいえクロー。残念だけどわたくしにお昼はないの」
彼女は少し疲れたような顔で小さくそう呟く。
『俺がいるんだそんなことさせない。そうだな。よし、お昼は海老天うどんセットでも食べてみるか……?
コシのある麺を使った海老天うどんに、お稲荷さんを二つ。そして口直しには大根の漬物。こんな感じかな』
「うどんせっと? わたくしにはよくわかりませんけど、クローが、また魔法で出してくれるのね。でもそんなの悪いわ」
遠慮しようとする彼女の意見を聞き入れることなく、俺は魔法を使う。
『気にするな。我は所望する』
少し強引だが出してしまえば、彼女も素直に食べてくれるだろうと思いそうする。
「!?」
彼女の驚く顔は何度見てもいいもんだ。すぐに湯気を立てたあつあつの海老天うどんセットが現れた。
うどん特有のいい香りが馬車の中に広がった。
『ふふふ、どうだエリザ。奴らが食べている塩辛そうな干し肉と硬いパンより遥かに美味しそうだろう? でもアツアツだから気を付けて食べるがいい』
そう言って彼女の方を見上げれば、彼女の目尻には涙が浮かんでいた。
――……
女の涙はどうも苦手だ。何故だか分からないが、胸がぎゅっと締め付けられような嫌な感覚があるんだ。
俺は彼女の涙に気づかないフリをしてからうどんを食べるよう勧めた。
『えっと、本来なら箸と言うものを使って食べるのだが(エリザは箸は使えないだろうから……)。
今回はこのフォークを使って食べてみてくれ、少し食べ辛いと思うがそこは我慢してほしい』
「あなたって人は……何もないわたくしなのに、どうしてここまでしてくれるの……」
少し寂しげな表情の彼女は俺を見つめながらそんなことを尋ねてきた。少し心が弱ってきているように思える。
でも無理もない話でもある。彼女は気丈に振る舞っていてもなんの後ろ盾もない17歳の少女なのだ。気弱にもなる。
だが、そんな彼女は俺が望む姿じゃない。だから俺は、
『もちろんおっぱいのためだ。だから細かいことは考えなくていい遠慮もするな』
邪な心で優しくしているんだと、俺の行為は対価があるからやっている、そう思わせることにした。
「う、うん……分かったわ」
彼女なりに納得したのかは分からないが、少し笑みを浮かべた彼女は素直に頷いていた。
――今はそれでいい……
『では食べ方になるが、これは湯気がたっているアツアツの今が一番美味しい。
だが熱い。すごく熱い。けどな冷まそうとして、少しの間放置するとうどんが伸びて味が落ちてしまう。
まあ何が言いたいのかと言うと、要は熱いけど美味しいから気をつけて食べてくれってことだ』
「分かりました」
目尻に浮かんだ涙を指で払った彼女が、またもや素直に頷く。ちょっと素直すぎると思うが、ここは食べてもらいたい思っているので気にしないでおく。
「じゃあクローも一緒に食べましょう」
そう言うことか。彼女が素直だったのは俺も一緒に食べさせるためだったのだ。
『俺のことはいいから』
「それはダメよ」
何度か断ったがすべて否定される。先ほどまでの素直さはどこに行った。
仕方なく俺は小さなお椀を一つ出した。残念ながら猫の俺ではすすることができないのだ。そしてうどんの麺は長すぎる。彼女にそう伝えると――
「分かったわ。小さくすれば食べれるのね」
『……ああ』
そらから彼女はハンバーガーを食べた時と同じ姿勢になる。両ひざを立てて座るやつ。その太ももの位置に仰向け状態の俺がのせられる。お腹丸出しの恥ずかしい格好である。
だが、それ以上にかなりのメリットがある。そうこの位置はすぐ目の前に彼女のおっぱいが迫ってくるのだ。目に優しく眼福なのだ。たまにおっぱいが当たるというラッキーな展開だってある。
そんなことを思い浮かべてはほくそ笑む俺。俺の心は自然と昂るのだった。
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