第8話

【契約者エリザから感情値100カナを獲得した】


 ――ふぁぁ……えりざ? 感情値……?


 俺は頭の中で響いた無機質な声で目が覚めたのだが部屋の中はまだ薄暗い。


 ――そうかあれは夢、だったのか……


 すやすや。


 すぐ傍から寝息が聞こえてくるのは契約者のエリザだ。たぶんエリザと契約したからあんな夢をみたんだろう。


 ――しかし、感情値ってこんなにもらえるもんだったか? 


 睡眠学習で得た知識と少し違う気がした。

悪魔は成人の儀式を終えると自由に人界で活動できるようになる。けれどそれは良いことばりじゃない。悪魔にはノルマがあるんだ。


 そのノルマというのが、今獲得した感情値を納めるというもの。


 もう少し詳しく説明すると、悪魔は一年に一度、人界で活動して得た感情値を自分の悪魔格(悪魔界での地位)に応じて感情値を納めなければならない。


 近いもので例えるならば前世の知識にある納税のようなものだと思っていればいい。


 これは悪魔なら当然の義務で違反すれば処罰がある。どんな処罰になるのかは分からないが、俺はキチンと納めるつもりだからここは深く考えないでいいだろう。


 そして、その感情値なのだが、手っ取り早く感情値を得る方法が人族との契約だ。契約中は毎日感情値が得られる。


 他にも地位や立場によっても獲得方法に違いがあるらしいが、成人の儀式すら終えていない俺には関係ない話だろう。なにせまだ納値義務がないのだから。


 まだ義務が発生してないのになぜ感情値が得られているのかというと、儀式を終えて自由を手にした後に備えるための猶予期間。


 契約がすぐに取れなくてもしばらくはやっていけるように設けられたものだ。こんなところは割と親切なのかもしれないな。悪魔社会って。


 このまま彼女の護衛を完遂せずだらだら過ごせたのならとても楽しいスローライフが送れそうな気がするけど、悪魔社会はそんな甘いもんじゃないんだこれが。ちゃんとペナルティーってものが準備してあるらしい。

 ただそこのところのちゃんとした知識がないから恐怖しかない。まあ、なるようにしかならないだろうけど。


 もぞもぞ。


 ――ん?


 なんとなく考え込んでいたらいつの間にか、窓際辺りが薄らと明るくなっている。


 ――あれ……?


 そこで俺は疑問に思う。真夜中、彼女のおっぱいの谷間に潜り込んだはずなのに、いつの間にかベッドの片隅まで追いやられているではないか。


 ――ぐぬぬ……


 夜目の効く俺は、部屋の中が多少暗くてもよく見える。

 彼女は俺の方に、横向きに寝ていて、薄手のタオルケットをお腹に掛けているだけなので谷間がバッチリ見えている。


 ――……ほほう。


 しかも彼女はワンピースに似た寝間着を着ている。前世の知識でいうところのネグリジェに近いものだが、そのネグリジェの肩紐が少しはだけていることに気がついた。


 鎖骨から左肩にかけて白くて綺麗な肌を晒している彼女は実に色っぽい。はだけた肩紐がなお俺の気持ちを昂らせる。


 ――……にやり。


 俺は思う。その肩紐を少しずらせば、片方のおっぱいぐらいは拝めるのではないかと。


 俺はゆっくりと起き上がり右前脚の爪を僅かに光らせる。


 ――エリザくん。ちょっと失礼しますよ……


 そろりそろりと匍匐前進に近い忍び足。俺の目標は彼女の肩紐。俺はゆっくりと近づき右前脚を目一杯伸ばす。


 ――ぐぬぬ……よっ。


 そして彼女の肩紐に爪のひとつをちょびっと引っ掛ける。


 ――……ふふ、もらった。


 あとは、そのままゆっくりと下にずらしていくだけだ。


 するする、するする……


 少しずつゆっくり慎重にずらす。プルプルして腕がつりそうになるがそこは我慢だ。


 するする、するする……


「ん、んん……」


 ――おわっ、と!


 彼女が身じろぎすれば、サッと肩紐から爪を引く。悪魔だからこその反射神経。音速を超えてそうだ。


 ――せ、セーフ。危なかった。


 そして、また爪のひとつをちょっと引っ掛けてから、焦らずゆっくりとずらしていく、続きから始めてあともう少し。


 ――……もう少しだ。


 そして、とうとうその時がきた。


 ぺろん。


 ――おおっ……ま、眩しい。


 彼女の片方のおっぱいがおはようと顔を出す。何度見ても大きくてきれいなおっぱいだ。


 ――素晴らしい。


 俺は頭を動かして色々な角度から眺めておっぱいを楽しむ。


 ――実に素晴らしい。


 しばらく観察していて理解する。悪魔の俺が見ているだけ満足するはずがなかったのだ。


 ――触りたい。触りたいぞ。


 見れば見るほど、大きくて柔らかそうな彼女のおっぱいに触りたくてしょうがない。


 ――契約したんだし、ちょっとくらい、いいよね。


 誰に説明するでもなく、心の中でそう呟くと、右前脚の爪を収めてから、彼女のおっぱいに前脚を伸ばしゆっくりと押し込む。


 むにゅ〜。


 ――うぉぉ。


 俺の右前脚が四分の一ほど沈んだ。力なんて入れていないのに軽く沈んだ。想像以上の柔らかさ。彼女のおっぱいは至宝と呼ぶにふさわしいおっぱい。


 ――素晴らしい。


 前脚を引くと、弾力のあるおっぱいはぷるんと元の形にもどったので、再びおっぱいに前脚を押し込む。


 ぷにゅ〜。

 ぷるん。


 ぷにゅ〜。

 ぷるん


 ――おお……


 俺は何度かそれを繰り返すと、またまた、それだけじゃ物足りない俺の行動も少し大胆になる。


 ――ふふ。そこっ!


俺は丘の上の先っぽを目標補足する。


躊躇なく右前脚を伸ばした俺は超振動高速猫パンチを放つ、いや放とうとしたのだが、


 ガシッ。


 不意に俺の首根っこが誰かしらに掴まれる。


 ――ふえ!?


 エリザだ。寝息をたていたはずの彼女が、顔を赤くして上体を起こし、俺の首根っこを掴み持ち上げる。


 不覚にもぷらーんとぶら下がる俺。寝起きら歳彼女と目が合った。


「あ、あなたね……もう、目が覚めたじゃないの」


『すまない。お前の、エリザのおっぱいが目の前にあって、それがすごく魅力的でちょっと我慢できなかった』


 夢中で気がつかなかったが、薄暗かった部屋もすでに明るくなっている。彼女も気がつくはずだ。


「け、契約をしているから構わない、のだけど……」


 彼女が真っ赤な顔でそう言うが、最後のほうはごにょごにょと声が小さくてよく聞き取れなかった。俺の悪魔の耳をしても聞き取れなかったからたぶん言葉にもなってなかったのかも。


 しかし、彼女は、俺との契約内容をちゃんと理解していて、おっぱいに触っても問題ないことがわかった。これはいい。


 コンコンコンッ!


 それからすぐに部屋のトビラをノックする音が聞こえた。

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