第5話

「へぇ。姿を変えられるなんて、あなたはやっぱり悪魔なのね。でも、なんで白猫なのかしら……ふふ、でもふわふわの体毛が跳ねていて可愛いらしいわよ」


『ふん、別にいいだろう。じゃあ明日な。俺はこの姿でお前の馬車に潜り込むから、間違っても追い出すなよ』


「!? なに? 頭の中で……声が……」


『ああ、すまない。これは俺が発した念話だ。猫の姿だとこうでもしないと話せないからな』


 俺は口を開き声を出してみせた。


「にゃーん」


『ほらな、喋ろうとしてもこうなる』


「まあふふふ。そのようね。でも念話というのは頭の中に直接響いてきて不思議だわね」


 彼女が感心したように俺の顔をまじまじと眺めだす。気がついていないのだろうが、小さく猫の姿になった俺に、彼女は前屈みになってしまっているから、大きなおっぱいが今にも溢れてきそう、いや少しこぼれて先っぽが僅かに顔を出している。


 ぷるん。ぷるん。


 ――ふぉっ。なんと眼福なこと。これが俗にいうラッキースケベなのか? っと見とれてる場合じゃなかった……初めて人界に来たんだ、少しぶらついてみなければ。


 そう俺はまだ召喚されたばかりなのでこの部屋の景色しか知らない。外の世界に少し興味があるのだ。


『エリザ。それじゃまた明日な』


「ち、ちょっと待ちなさい」


 るんるん気分で窓から外に出ようと踵を返したところで、彼女が声をかけてきた。しかもなんか慌てている。


『なんだ、どうした?』


「あ、あの、その」


 俺が振り返ると、呼び止めたはずの彼女が、急にしどろもどろしながら顔を赤らめた。


 彼女はすこし俯き、両手はドレスの裾をギュと握っている。


『おしっこか?』


「ち、違うわよ。そ、その姿なら見つかっても問題ないでしょうから、ここに居なさいよ。あなたはわたくしの護衛なのでしょう」


 生意気だけど羞らいはあるらしいって違った。どうやら俺に側にいて欲しいようだが、恥ずかしいらしくチラチラと俺の顔色を窺ってくる。

 その姿がどこか年頃の若い女の子に見え微笑ましくもありおかしく思えた。


 ――ほう、素直じゃないのところもあるが、可愛いらしいところも見せてくれるのか。


『エリザは寂しいのだな。ふむ、それならば仕方ないな』


 ――外の世界はまた今度だな。


 俺はひょいと彼女のおっぱいめがけてダイブしてみた。やってみたかったともいう。おっぱいダイブ。彼女が引き留めたんだ、これくらいやったっていいだろう。


「きゃっ」


 彼女は飛びつく俺を反射的に抱きとめてくれた。驚いたらしく咄嗟に可愛らしい声を発した。そこまではいいだがしかし――


『か、硬い。これは反則じゃないのか』


 おっぱいに飛び込んだはずなのに思っていた感触と違った。彼女の着ていたドレスが硬かったのだ。肌を露出している部分だと爪で傷つけてしまうから、ドレスに向かって飛び込んだのがいけなかった。


 ――このこの……お前が憎い……


 納得のいかない俺は、その硬い部分を前脚で叩く。すると頭上から彼女の呆れたような声が聞こえてきた。


「あなたはお間抜けさんなのね。ドレスの下にコルセットを着けているのだから硬いのは当たり前じゃないの……」


 ――なんと……コルセットときたか……


「でも突然飛びついてくるのはやめてほしいわね。驚いて、落としていたらあぶないわよ。ん? あら、まあ、ふわっとして……もふもふ……だわ」


『!?』


 ふわふわ。

 もっふもふ。


「ふふ。知らなかったわ。あなた……すごくふわふわしてるわよ。このもふもふ感、まあクセになりそう、たまらないわ……ふふふ」


 俺が彼女のおっぱいを堪能しようとして、逆に俺のお腹がもふられるという、何たる失態。


 ――ここは一度脱出せねば……


 しかしがっちりとお腹を抱かれてしまった俺は、彼女の手が動く度にゾクゾク感して身体の力が抜けていく。抵抗できない。


『ふぁ、こ、これは違う……ぁぁ、やめ、やめろ、あぁぁぁ』


 ――全身がもぞもぞして力が……


 ふわふわ。

 もっふもふ。


 ――ふああぁぁ。


 ――――

 ――


 時間にして、どれくらいもふられていたのか。もう記憶から消し去りたい。

 俺は全身隈なく彼女の手によってもふもふされてしまった。初めてにしてらなかなかの腕、彼女は令嬢からモフラーにクラスチェンジできるのではないか。


 ――もう、お婿にいけない。


 彼女は力の入らない俺をゆっくりとベッドに降ろしてくれた。彼女は勝ったと思っているだろう。だがしかし、実はそうじゃない。


 俺はベッドに横にながらも自分の前脚を眺めて笑みを浮かべる。


 そう彼女は気づいていないようだが、俺も負けずに二度ほど彼女のおっぱいに俺の前脚を埋めてやったのだ。ぐにゅっと、ね。

 ボリュームがすごくて柔らかかった。


 ――もふられダメージが強すぎて少し記憶が曖昧なのが悔しいが、まあいい、これからは好きなだけあのおっぱいが揉めるだろうから。


「ふわふわしていて気持ちが良かったわ。ああ、なんだか久しぶりに気分が晴れ晴れしたような気がするわ。あ、ちょっとそこで待ってなさいね。わたくしは寝巻きに着替えますわ」


『おう』


 ――どうせ今の俺は、力が入らなくて動けんのだ。猫の弱点が分かってよかったとても思っておこう……って、んん?……ねまき……寝巻き!?


 俺がその意味を理解した時には、彼女はすぐ側で派手なドレスを脱ぎ始めていた。


 ――おおっ。


 ドレスは初めから緩めていたのだろう、彼女が引っ張ればするすると脱げ落ちた。

 下に着ていたコルセットも締め付けず当てていただけだったのだろう。ドレスを降ろしたら一緒に脱げ落ちている。おそらく普通ならとても一人では脱げる代物ではない豪華なドレス。そのドレスが簡単に脱げたところを見ると、エリザは俺を召喚するために、一人でそのドレスに着替えたのだろう。でも一人では完璧には着れなかった、そんなところだろうな。


 ぷる〜ん。


 ――こ、これはけしからんな。俺の思ってた以上だ……


 ぷるん。

 ぷるん。


 大きくてキレイなおっぱいがすぐ傍で元気に揺れてる。


『おーいエリザ。おっぱいが丸見えだぞ。いいのか、俺見ちゃったぞ』


 彼女はちらりと俺の方に視線を向けただけで、特に隠すこともなく着替えつづけている。


「いいわよ。もうすぐ着替え終わるから。もうすこし待っていなさい」


『……そうか』


 意外とドライな反応にちょっと悲しい。しょうがないので彼女のおっぱいの揺れでも眺めておこう。


 ぷるん。

 ぷるん。


 ――ふむ……


 ぷるん。

 ぷるん。


 ――ふむ。


 ぷるん。

 ぷるん。


 ――最高だ……あら、もう終わり。


 意外に早くお楽しみというかサービスタイムが終わってしまった。これは残念。彼女はワンピースみたいな寝間着になっていた。


 着替えを終えた彼女はそのままベッドにくるのかと思えば化粧台の方に向かった。派手な化粧を落とすらしい。


 ――ほう。


 ペタペタ、ふきふき、ふきふき、だんだんと彼女の化粧が剥がれていく。


 ――お、おお!


 化粧を落とし素顔を晒した彼女は、想像以上の美人さんだった。ナチュラル美人。


 目元はつり上がり気味だから大人びて見えるが、初めに抱いた印象よりもずっと優しそうで穏やかに見えた。俺は断然こっちのほうがいいと思った。


 彼女は表情によって美人にも可愛くも見える。美人って得……そう思ったが考えを改める。彼女は国外追放になるからそうとは言い難い……でも俺の方はそんな彼女に逢えて間違いなく得した気分になっている。


『エリザは化粧をしないほうがいいな。美人なのに可愛いくて俺好みだ』


「な、何よ急に……」


『いや、エリザは美人だなと』


「……お、おべっかはいいわよ。どうせ明日からは化粧なんてできないのだから、イヤでもこの顔で過ごすことになるのよ」


 彼女は自嘲気味にそうは言うも照れ隠しだったのか、こちらに顔を向けないまま早足で近づいてくると、突然、俺を抱き上げ抱きつきベッドに素早く潜り込んだ。


『うお、エリザ。ちょっと待て。いいのか、当たってるぞ柔らかい奴、柔らかい奴ってのはおっぱいのことだぞ』


「し、知らないわよ。そんなことよりあなた名前はクローだったわよね」


『ぬ、そうだがぁぁぁ、こ、こらエリザ。もふもふはダメだぁぁぁぁっ……ち、力が抜けるぅぅ』


 もっふもふっ。


「黒猫だったら名前と一致したのにね、ふふ変なの」


 ふわふわ。

 もっふもふっ。


 ――ぬぉぉっ。


 抵抗できない自分が歯がゆくて彼女のおっぱいをどうしてやろうかと企みつつ、ひたすら屈辱に堪えていると――


 ――?


 ふと、もぞもぞ動いていた彼女の手が止まる。どうやら彼女は眠ったらしい。時間も遅かったしな当然かもしれない。しかし、俺はひとり笑みを浮かべる。


 ――ふふふ。俺を好きなようにもふりやがって……


 彼女は柔らかな笑みを浮かべながら眠りについている。いい気なもんだな。


 ――だが、もふりの代償は払ってもらうぞ。


 上体を起こし彼女の顔を上下斜め色々な角度から吟味する。そして思った。やはりエリザは美人で、その美人さんは笑顔がよく似合うと……


 ――むっ。


 召喚時と比べでも彼女は随分と穏やかな表情をする様になった。

 今のこの顔ならば誰が見ても悪役令嬢っぽくは見えないだろう。絶世の美女とはこんな娘(こ)をいうのだろうか? そう考えてから首を振る。


 ――ち、違う、俺はそんなことを考えてたんじゃなくて、彼女のけしからんおっぱいを揉みくちゃに……


「ちゃんとまもりなさいよ〜ろ〜」


 ――!?


 突然発せられた彼女の声にびくりと身体が跳ね上がる。猫だから余計に過剰反応した。でもそれが寝言だと気づき、そんなことで大の悪魔が驚いてしまったことに意気消沈。


 ぽむぽむ。


 とりあえず彼女のおっぱいを前脚で触ってみた。彼女から反応が得られないからどうも気分が乗らない。


 ――ふむ……


 彼女は無警戒にすやすやと気持ち良さげに寝ている。


 ――……俺は寛大だからな。今日のところ勘弁しといてやるが、おっぱい布団は使わせてもおうかな。


 彼女の豊満なおっぱいの谷間に潜り込んだ俺はそのまま眠りにつくのだった。


 ――おっぱいさいこ、むにゃむにゃ。

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