第4話
――ああもう。うまくいきそうだと思ったらこれだ。だがな、魅力的な対価(身体)が目の前にあるんだ。貰うと決めた以上、そう簡単に諦めはせんよ。こうと決めたら悪魔はなんだってするんだぜ。
なかなかうまくことが進まないいジレンマに俺の語気は自然と強くなる。
「よく聞けエリザ! 俺は強い。ハッキリ言って人族の騎士がいくら束になって襲ってこようが話にもならんっ」
そう言うが早いか、俺は周囲に無数の光の玉を浮かべて見せた。といってもこれはただの光の玉だ。危険な魔法ではない。
この光が漏れてもまずいのですぐ消したが、それでも彼女には十分効果があったようで、彼女は突然周囲に現れた無数の光の玉に驚愕の表情を浮かべていた。
「お前さえ良ければ、俺がその間の護衛も引き受けてやる。まあ、その護衛についてももちろん対価はもらうがな……」
「ぇ……」
――先に護衛の契約して、あとからもう一度契約すれば、二度おいしいな。
「対価は、そうだな……うむ。エリザ、お前のその大きなおっぱいを揉ませてもらおうか。護衛の間は好きな時に好きなだけ揉ませてもらおう。どうだ?」
なんでもないようにさらりと護衛の対価を提案する。勢いって大事だと思う。少し欲望に引っ張られた感は否めないがまあいいだろう。だって……
俺は生唾をごくりと呑み込んだ。
――触りたい……
一方の彼女は、俺の提案の意味がすぐに理解できなかったのか、しばらく俺を見てから目をパチパチさせていたのだが……
「わたくしの……むね……」
「そうだ。お前のおっぱいにはそれだけの価値がある。間違いなくな、俺が保証する」
ようやく俺の提案を理解したのか、彼女の顔が再び真っ赤に染まる。
というか今度は顔どころか首あたりまで真っ赤に染まってしまった。
――む、俺の欲望を押し付け過ぎて怒らせてしまったか? 強引過ぎた? でも、これは想定内だ。まだ諦めんぞ。
「エリザ、不本意かも知れんが……時には妥協も大事だぞ」
これは仕方がないことだぞ、ってそれとなく彼女に理解させよう。なるべく柔らかな口調で、なぁに、身体を差し出すことにはオッケーしてくれていたんだ。粘ればなんとかなるだろう。そう思っていよう。
「あ、あなたなに言っ……て……」
彼女が再び俯いた。
――迷っているのか? いかんな、ここは慎重にならねば……
「俺なら必ずお前を守れるぞ。いや守ってやろう。それでもやっぱりイヤか?」
まるで天使のような寛容な心で包む込んであげるような優しい言葉を投げかけてやる。悪魔だけど。
――ちょっと急ぎすぎたか、ならば。
様子を窺いながら、押してばかりもなんだろうと思い彼女に考える時間を与えてみる。
「……」
――?
すると彼女の指が落ち着きなく立髪ロールをくるくる絡めては伸ばし、絡めては伸ばしと繰り返す。
彼女なりに真剣に考え始めたのだろうか。
――反応は悪くないように感じるが……
彼女を眺めなら返事を待つこと数秒。縦巻きロールを絡めていた彼女の指が唐突に止まる。止まってから彼女は俺の様子窺うようにチラリと見てきた。
「……」
「どうだ、決まったのか?」
彼女が何も言わないので、俺の方から催促してみると彼女は顔を背けたままゆっくりと口を開いた。
「あ、あなたってほんと次から次に……下品よ。ほんと下品だわ……」
彼女が口にした言葉は否定ではなく、俺を非難する言葉だが、それでもその口調は柔らかい。
心なしかその表情は少し嬉しそうにも感じとれる。俺がそう都合よく捉えているからかもしれんが。
「まあな。俺は悪魔だから遠慮はできないぞ」
「っ……」
再び彼女が黙り込んでから顔を伏せたかと思えば、チラチラと俺を何度も見上げてくる。その様子からも反応は決して悪くない、もう一息ってところだろうか。ならば。
「自信がないのか? それなら杞憂だぞ、お前のおっぱいにはそれだけの魅力と価値がある。その大きさ、その形、すべておいてお前の……」
いかに彼女のおっぱいが魅力的なのかをしばらく語ってやった。
「……というわけだ自信を持ってくれていい、というか誇ってもいいぞ」
俺が語り終えた時には、彼女は顔どころか露出している白肌全てが真っ赤に染まっていた。
「……わ」
「ん」
「ったわよ」
「ん?」
「もう分かったわよ……そ、それでいいって言ったの」
彼女が大きく顔を背けてそう言った。
――よしっ!
俺は心の中でぐっと拳を握ったが、ここで焦ってはダメだ。先ほどダメになりかけたばかりだ。ちゃんと契約するまでは冷静に、を心がけねば。
「そうか」
「も、もう。仕方なくなのよ。仕方なく。あなたがどうしてもって言うから仕方なくなの。いい分かった? だから、ちゃんとわたくしを護りなさいよ」
「もちろんだ。これで契約成立だな。護衛の間は好きなだけおっぱいを揉ませてもらうぞ」
「わ、分かってるわよ」
そう承諾の意思確認をした瞬間、淡い光が俺の身体全体から浮かび上がり彼女を包む消える。これは契約が締結した証だ。
本来なら光に包まれた彼女には、その証として心臓の位置に近い表面に六芒星のような小さな紋様が浮かび上がってから消えているはずなのだが、ドレスを身につけている彼女は、その紋様に気づくことはなかっただろう。
「え!? 今のは……」
彼女は困惑したような表情を浮かべ胸のあたりに両手を添えた。
――まあ、そうなるわな。
この契約締結を以って俺と彼女との間に繋がりができたのだ。
それでも俺は人族側じゃないので彼女がどのように感じているのかまでは分からないが、彼女はそれを不思議に思い戸惑いを感じているのだろう。
「契約が締結されたんだ。俺との繋がりを少し感じると思うが身体には何の影響も支障もないし見ても分からないはずだから、安心してくれ」
「あなたとの……つながり」
彼女はしばらく契約の証が消えた胸のあたりに両手を添えていたが、不意に何かを思い出したかのように俺を見上げてくる。
「そ、それで、その護衛なのですけれど。あなたはどこに居てくれるのかしら」
そう言った彼女は少し不安そうな表情だった。その表情を見て少し考える。
――ふむ。いつ狙ってくるのかも分からないからな、女の身としては恐ろしいのかもな……
「……そうだな」
俺はしばらく考えた後、小さな水色の宝石が付いたネックレスを所望した。
「今日のところは外で見張っとく。明日の朝には合流するつもりだが、ひとまずはこれを身につけていてくれ、保護ネックレスだ。防護、障壁、位置情報の魔法をかけてある。
この部屋で襲ってくるとすれば侯爵家の手の者なんだろ? 今夜何かしら仕掛けてくることはないだろうが、用心のためだ」
彼女は明日牢馬車で国外へと送られるようだし、合流するならその時のほうが面倒が少なくていいだろう。俺はそのネックレスを彼女に手渡したが――
「でも、これだと……」
彼女は不安そうにそのネックレスと俺とを交互に見てくる。
そう、彼女は派手なドレスを着ているわりには不自然なくらい装飾品を一つも身につけていなかった。
ということは、宝石類はすでに取り上げられてしまった後なのだろうことは、彼女の反応からも容易に察することができた。
「安心しろ、それなら取り上げられることはない。これには隠蔽魔法がかけてあるからな。人族程度では見ることはおろか、気づくことすらないだろう」
「そう、なの?」
彼女の顔色が少し明るくなったように感じる。それから彼女は俺の渡したネックレスを不思議そうに眺め出した。
「あなた、すごいのね……ふふ」
「まあな。だかその程度が俺の力だと思わぬことだ」
俺の言葉に安心したのか、頷いた彼女はすぐにそのネックレスを首からかけた。
――ほう。
その姿をじーっと眺めていると、小さな宝石の部分は彼女の谷間からするすると入り、おっぱいに埋もれて見えなくなってしまった。なんか羨まけしからんな。
「それじゃあ俺は……そうだな、猫にでもなるかな。よっと」
俺は変身スキルで白猫に変わった。これは前世の記憶で俺が飼っていた白猫、名前は覚えていないがその猫を真似たのだ。
この白猫は毛並みが美しく柔らかくてなめらかなのだ。
しかも、体毛が少し長いからもふもふ感が半端ない。俺もよくこのもふもふ感に癒されていた記憶がある。
――しかし視界が低くなってしまったが……まあ悪くないな。
猫になると、今度は俺が彼女を見上げるかたちになったが、下から眺める彼女のおっぱいもなかなかいいもんだ。
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