第23話「暴かれた本性」
かなぶん
第23話「暴かれた本性」
「みんなぁー、ご飯よぉー」
その日も綺麗なソプラノがコモレンジャー基地内に響き渡る。
真っ先に食堂に現われるのはもちろん、我らがコモレッド、燃え立つような赤い髪が眩しい
「うっわ、やっべ、相変わらず姫の作る飯はヤバいな!」
人数分というには並び過ぎな気もする豪華な食事を前に、紅が目をキラキラさせていれば、これを鼻で笑う男が一人。
「ふん。相変わらず語彙力がない奴はこれだから困る」
いつも冷静沈着なコモブルー、
「んだよ、蒼! お前こそ相変わらず俺の気持ちを水浸しにしやがって!」
「それを言うなら水を差しやがって、だろ? 全く、これだから」
「何おう!?」
「はいはい、そこ! ご飯の前で騒がない!」
パンパンッと軽快に手を叩いて表われたのは、しっかり者のコモピンク、
「放っておきなさいよ、桃。コイツらの言い合いなんて、いつものことなんだから」
桃の後ろからそんな呆れを口にしたのは、コモイエローの
「聞き捨てならないな。コレと一纏めにされる筋合いはない」
「それはこっちの台詞だっての!」
「はいはい、仲が良ろしいことで」
紅と蒼から抗議を受けようともどこ吹く風。
食事のため座る菜々へ、更に噛みつこうとした紅は腹の虫に止められ、これに片眉を上げた蒼がわざとらしくため息をついて席に着く。
いつもの三人のやり取りに苦笑していた桃は、台所からエプロンを外しがてら表われた少女を見るなり、申し訳なさそうに礼を言う。
「姫、いつもありがとう。でもやっぱり、私も手伝った方が――」
「大丈夫っ!」
何度目かもすでに数え切れない申し出を、やはり何度目かもすでに数え切れない数断り続ける
「姫なんて、全然、何もしていないようなものだもん。みんな、いつ戦いに向かうかも分からないんだから、これくらいさせてよ! 手伝ってくれるよりも、たくさん食べてくれる方が姫は嬉しいな!」
「姫……」
ニッコリ笑う姫に桃が瞳を潤ませる。
年の頃は五人とも似たり寄ったりなのだが、一番小柄なせいでどうしても幼く見える姫は、四人の目に増して健気に映る。
「よし、それじゃあ喰うぞ! 蒼、どっちが早く多く喰えるか競争だ!」
「ふざけるな。せっかく姫が作ってくれた料理だぞ? そんな粗雑な食い方――って、一人で食い尽くす気か!?」
「ほら、桃、このままじゃバカ二人に食べられて終わっちゃうわよ。姫も」
「だからコイツと」
「一纏めにするな――というか、コイツはともかく俺をバカ扱いするな」
「なんだと!?」
和気藹々。
今日も今日とて、賑やかな食事が始まり――
その日の夕方。
「呼ばれなくても現われるのが悪の幹部イエスキーです、というわけで早速喰らえ、自堕落ビームっ!!」
「「「「「わーっ!!?」」」」」
何事もなく終わるかに思われた一日は、そんなかけ声と共に終わりを迎えた。
怪人出現の知らせを受けて、河原に駆けつけたコモレンジャー。待っていたのは、すでにお馴染み恰幅の良いおじさん、もとい、イエスキーの姿で、肩透かしを食らったのだが、怪人がかざした杖の先には夕飯の買い出しをしていた姫。
斯くして五人は、イエスキーの放った怪光線に見事当たってしまった。
「……って、アレ? なんとも、ない?」
最初にそんな声を発したのは、桃。
変身もまだしていない身体をぐるりと見ては、何の変化もないことに首を捻る。
「……俺も、変わったところはないようだが」
続いて蒼がそんなことを言えば、ホッホッホと笑う声。
二人が同時にそちらを見れば、腹を抱えたイエスキーの姿があった。
「んふふ。二人も外したのは予想外ですが、まあ、いいでしょう。観客は多いに越したことはない」
「観客? なんのことだ!」
「それはもちろん、彼らの、ですよ!」
イエスキーの杖が振られれば、現われる靄。
攻撃と思った二人が衝撃に備えるモノの、靄はあざわらうかのように宙に留まっている。
意味が分からず靄を警戒して見ていれば、その内に現われる変化。
「姫! 菜々に、紅も!」
それぞれ、個室と思しき場所に倒れる姿が靄の中に現われ、驚く二人へイエスキーが言う。
「ご覧なさい。自分たちの仲間の姿を。そして、思い知るがいい。家で自堕落に過ごすことの快楽を!!」
イエスキーがステッキを地につけば、三人はそれぞれの部屋で起き上がった。
戸惑う様子を見せたのも束の間のこと。
どうやら個室は彼らの自室に似ているらしく、それ以前のことを夢と片付けるような独り言の後で、思い思いに過ごしていく。
――――が。
「…………」
「…………」
「…………」
見せつけられた現実に、蒼と桃の二人ばかりか、イエスキーまでも言葉を失くす。
三人の中で一番マシだったのは姫だ。
自室を出た姫は、台所横のスペースでエプロン姿のママ椅子に寝そべると、楽しそうに本を読んでいた。そうして、不意に顔を上げては、他方へ向かってこんなことを言う。
「パパぁ、ご飯まだぁ? みんな、パパのご飯が美味しいって言ってるんだから、うんと美味しいのお願いね?…………え? やだ、姫は作らないよぉ。包丁怖いし、火傷しちゃうかもだしぃ。……きゃははっ、そんなこと言ってぇ、盛り付けも並べるのも、全部パパがやってくれるんでしょう? パパ、だぁいすきっ!」
姫の言うパパとは、コモレンジャーを作った博士のことだ。
(そう言えば、食事の時に博士の姿を見たことはなかったな)
と蒼は今更ながらに気づき、
(確かに、姫は全然何もしていなかったみたいね……)
と姫に手伝いを申し出た桃は遠い目をする。
二番目にマシなのは菜々だろうか。
あるいは、蒼にとっては一番酷い実態だったかもしれないが。
最初、菜々は自室を隅々まで調べているようだった。
蒼と桃、そしてイエスキーは、これをここが自室か疑っての行動と思っていたのだが、調べ終えた後のくつろぎようは、ただただ他に人目がないことを確認しての行動だと、嫌でも思い知った。
机に向かう菜々は、何かをガシガシ書き記しては、時おり顔を上げ、惚けた表情になるを繰り返していた。靄の視点は固定されており、イエスキーであっても菜々が書いている内容を知ることはできない。
――しかし。
時々聞こえてくる言葉だけで、何を書き、何に思い耽っているのかは、よぉく分かった。
「えっと……蒼、女も悪くはないと思うよ」
「フォローになってねぇ!!」
肩を叩くしかない桃を払うこともできず、蒼は心からの叫びを上げた。
そして。
そんな二人を遠く引き離し、三人をドン引きさせたのが、紅。
行き当たりばったり、熱いハートであらゆる困難を乗り越える、分かりやすい熱血野郎、その実情は――――……
「……とりあえず、今日のところはこの辺で失礼致します」
「あ、ああ……まあ、その、なんだ。何のお構いもせず」
「いえいえ、そちらこそ……御達者で」
「ええ、ありがとうございます…………はあ」
よろよろと去るイエスキーの背を見送った二人は、もうお腹いっぱいだと解放された三人の、地面に突っ伏す姿を見る。
「……そうだな。じゃあ、今の内に埋めるか」
「いや、それはさすがに……紅だけでいいんじゃない?」
「俺としては、菜々も埋めたいところなんだが……」
物騒な提案をそれぞれした後で、また再びのため息が二人から出ていく。
怖いのは、これからだ。
この突っ伏す三人が、果たして靄でのことをどこまで覚えているか。
そして、それを蒼と桃の二人が見ていたと気づくか。
これまでの襲撃の中でも一番キツい攻撃を受けた二人は、暗澹たる思いから何度もため息をつくのであった。
果たして彼らの今後はどうなってしまうのか。
それはまた、別のお話。
第23話「暴かれた本性」 かなぶん @kana_bunbun
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