16
色んな楽器の音色や人々の賑わう声。通りには多くの人が溢れ活気に満ち、その通りにひしめき合うように建ち並ぶ商店。そのどれもが堅牢な石造りであり、高い塀に街ごと囲まれており、外敵からの襲撃から護られている。
クラン帝国の首都であるメルリである。
首都へ入るのにも大きな門のそばにある管理局での申請が必要であり、特に初めての人間はいつまで経っても申請が降りないという事も多くある。
昔でいう関所的なものであろう。
それだけ護りが厳重にも関わらず、第三皇太子の暗殺。公には病死と発表されているが、誰もそんな事なんて信じてはいない。
そんな高い塀の上から、街を見下ろす二つの影がある。
首都メルリの中心部より少し離れたところに、以前は市民の憩いの場として使われていた広大な敷地を持つ公園がある。今では、そこは憩いの場として使われず、仮の兵宿舎が建てられていた。実際には、立ち入り禁止地帯もあるのだが、それ以外の公園の一角は開放されているのにも関わらず、付近の住民すら近寄り難い雰囲気がある。開放された公園に入るのも、一々広場入口の門番に入場許可証を出して貰わなければならないのも一つの理由であろう。
ぐるりと公園の敷地を囲む有刺鉄線、そして入口には厳つい顔をした二人の兵士が銃を肩にかけて立っている。人形かと思ってしまうくらいに二人の兵士は動かない。
「ありゃ、生きた人間かのう?全く動かんぞ、任務に忠実なんじゃろうなぁ」
公園の側にある建物の屋根の上から見下ろしている椿が感心したように呟いた。
「いや、あれは
「言われてみればそうじゃな。目にも光りがない。能力者の中じゃ底辺の男型でも、見張り位は出来るであろうからのぉ」
「ほほほ……それも普通の人間相手ならばでしょうが」
揚羽はそう言うと腰の巾着に手を入れると、掌に収まるほどの小さな苦無を二本取り出した。
「少し挨拶をして来ようかと」
「くれぐれも失礼の無いようにな……」
「もちろん」
にこりと微笑む揚羽に、椿がにやりと笑い返す。それでは……と言い残した揚羽の姿が消えたと思ったら、もう門番をしている二人の兵士の前に立っていた。
「お初にお目にかかります、揚羽と申します」
「ご要件は?」
「公園への入場には許可がいります」
突然現れ深々と頭を下げ挨拶をするに揚羽に動じることなく機械的に喋る兵士達。
「私は東方より帝国皇帝の首を貰いに来たのですが、その前に食事でもと……案内して頂けます?」
「ここの用紙にご記入を……」
そう兵士が言った時だった。ずぶりと苦無が兵士の喉に刺さっていた。それに反応したもう一人の兵士が銃を構えようとしたが、それよりも早く揚羽の放つ苦無が眉間深く突き刺さる。
「ふん、人が丁寧に物を申しておるのに、からくり人形の様な事しか言わぬ……これだから自我無き能力者はいかん」
二人の兵士に刺さっている苦無を引き抜き抜くとその衣服で血糊を拭く揚羽の横に、いつの間にか椿が立っていた。
入口の異変に気づいたのか、数名の兵士が二人の元に走ってくるのが見える。
「なんじゃぁ、揚羽。主にはくれぐれも失礼の無いようにと言ったはずじゃがのう?」
「そのつもりだったのですがねぇ……」
少しも悪びれず答える揚羽に、にやにやとした顔で走ってくる兵士達を見ている椿がするりと鞘から刀を抜いた。
「挨拶せんといかん連中が増えたのう?」
「そのようで」
椿と同じ様に揚羽も鞘から刀を抜くと、とんっと地面を蹴り、走ってくる兵士へと斬りかかった。
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