17
「敵襲!!」
一人の兵士が大声を上げ、警笛を鳴らした。しかし、その兵士の仕事はそれだけで終わった。警笛を鳴らした瞬間に椿の振るう一刀で首を刎ねられてしまったのだ。
警笛を聞きつけ集まってくる兵士達の足が止まる。無理もない。そこには斬り殺されているだけではなく、無惨にも首を刎ねられた死体が十数体も転がっているのだ。しかも、その死んだ兵士のうちの半数が男型の能力者達。いとも簡単に首を刎ね殺す。返り血を浴びて染まる二人の少女に、大の大人である兵士達が恐怖で固まっている。
「次から次へと湧いて出てくるのぉ……」
「所詮、数だけの蟲けら共じゃ。退屈しのぎにもなりゃしません」
恐怖で固まっていた兵士のうちの一人が銃を発砲するも、震えて照準が定まっていなかったのか明後日の方向へと飛んでいく。そんな兵士達を見た揚羽は、にたぁと見ている者の血を凍らす様な残忍な笑みを浮かべるとすすっと音もなく発砲した兵士の背後へと周り、刀を撫でる様に横へと振った。
首がくるくると鮮血を撒き散らしながら飛んでいく。
揚羽の動きについていけなかった兵士達は、背後から飛んできた首に腰を抜かす者や、銃を落とす者までいた。そんな兵士達をよそに淡々と首を刎ねていく揚羽。気づけば駆けつけた兵士は残り一名となった。
残り一名となった兵士はがくがくと震えて腰を抜かし揚羽を見上げている。
「情けないのぉ……主ら
怯え震える兵士に近寄り呆れた口調で椿はそう言うとくるりと兵士に背を向けた。そんな椿に兵士が震えながらも銃を構える。
「どうした、早く撃たぬか?主が見せる最後の勇気じゃぞ?」
背中を向けたままの椿が兵士へと声をかけるが、肝心の兵士は恐怖で体が強ばり引き金が引けない。はぁっと大きな溜息を一つついた椿は振り向き様に兵士の首を刎ねた。
銃を構えたままの兵士の体がゆっくりと倒れていく。死んで体の強ばりが取れたのか、それともただの衝撃でなのかは分からないが、空へと向かい銃が発砲された。
「ふん、どいつもこいつも腰抜けばかりじゃ、本当に詰まらん」
「食前の運動にもならぬとは……食堂へと向かいましょう、椿」
返り血で染まった二人は白昼堂々と公園の敷地内を歩いていく。その間にも、兵士達が二人の元へと駆けつけるが、結果は同じ事である。
それだけハイランカーの狂戦士と普通の人間とでは能力に差があるのだ。
そんな二人の前に見た事も無い格好をした数人の兵士達が立ちふさがった。全身黒ずくめの鎧、手には
「なんじゃ、けったいな格好をした奴らじゃのぉ?」
「これが第三皇太子が作ったと噂の対狂戦士用部隊とやらでしょうかねぇ」
「面白い。遊び足りぬところじゃったんじゃ……主らはその欲求を満たしてくれるかのぉ?」
ぺろりと刀を舐める椿。じわりじわりと剣を持つ黒の兵士達が近づいてくる。
「ほほほ……退屈しのぎにはなりましょう」
そう言った瞬間、椿と揚羽の姿が消えた。二人は複数いるガトリング銃を持つ兵士が厄介だと悟ったのだ。まずはその兵士から……以心伝心であろう。何も言わずとも長年一緒に過ごしている二人である。突然消えた二人を探す兵士達。
しかし、兵士達も慌てず三人一組となり陣形を組んだ。ガトリング銃を持つ兵士が四組、剣を持つ兵士が三組。これでは如何に椿と揚羽の二人も迂闊には攻め込めない。
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