14
「知っておるかのぉ?昔は鉄兜を刀で斬る達人がおったそうじゃ……鉄を鉄で斬るのじゃぞ?」
にたりと抜いた刀に見蕩れている朝顔。せっかく追い詰めた兵士がのそりと立ち上がり、剣を構えている。そんな兵士などお構い無しににたにたと刀を見ては笑い続けていた。
「コロス……帝国ノ敵……皆殺シ」
兵士がくぐもった様な声でそう言うと、刀を眺めていた朝顔が兵士の方へと振り返った。
「ほざけぇっ!! この蛆虫がっ!!」
先程までにたにたと笑っていたのが嘘のように、眉間に深い皺を刻み、目尻が釣り上がった朝顔はそう叫ぶと、持っていた刀で兵士の胴を横へと払う。
「なぁにが皆殺しじゃっ!! うねらは、あのころと同じ様に、同じ様に!! 許さぬっ!!許さぬぞっ!!」
目の前にいた兵士の体が綺麗に真っ二つに分かれ倒れていく。その死体を跳ね除けるように蹴ると、その奥にいたもう一人の兵士の首を片手で掴んだ。
みちみちと嫌ぁな音が聞こえる。
なんと言う馬鹿力だろうか。ガトリング銃の銃弾さえ跳ね返す重厚な鎧の首の部分がぐにゃりと変形しだしたではないか。
「うぬら、また繰り返すかよ?我らは忘れておらぬぞ……父や母を……騙し討ちし殺したうぬらを……泣き叫ぶ……まだ乳飲み子じゃった末妹の首を……無慈悲に刎ねた……うぬらをよ」
朝顔の顔や腕に無数の蛇が這うかの様に血管が浮かび上がっている。まるで、あの秘薬を飲んだ紫陽花の様に全身が紅潮してきた。
兵士の首からぐしゃりと頚椎の砕ける音がした。びくりびくりと二三回痙攣するとだらりと両腕を垂れてしまった。
「なにしとるんじゃっ、朝顔!!」
興奮覚めやらぬ朝顔の頬に、甲高い音と共に突然痛みが走った。はぁはぁと肩で息をしながら我に返った朝顔の目の前に、いつもの様ににやにやと笑わず、真剣な表情をした夕顔が立っていることに気がついた。
「夕顔……?我は何を……」
自分の両手を見つめ呆然としている朝顔。夕顔はそんな朝顔の両肩をがしりと掴むと朝顔を前後に激しく揺さぶった。
「馬鹿じゃ、馬鹿じゃ……主は大馬鹿じゃぞ。何をしておるのじゃ。戻ってこれんようになったら、我らが主を斬らねばならぬのだぞ……」
「夕顔……」
「もう……嫌じゃ。誰も失いたくないのじゃぞ……寄り添い力を合わせ生きてきたのであろうが?我ら三姉妹……厳しい修練に耐え、父母の……妹の仇を取ると約束したであろうが……長姉の主が……その様でどうするのじゃ」
浮き出ていた血管がすうっと引くと、紅潮していた肌もいつもの白く透けるような色へと戻っていく。
「我は……済まぬ……まだまだ修練が足りぬ様じゃ。有難う……夕顔」
いつもの強気ではなく項垂れ沈んだ表情の朝顔を包み込むように抱く夕顔。
「これでは、どちらが姉か妹か分からぬのう……」
夕顔はそう言うと朝顔の頭を撫でた……その時である。どんっと夕顔が朝顔を突き飛ばした。突き飛ばされた朝顔の目が大きく見開き夕顔を見ている。
「ぐぼっ……」
夕顔が口から大量の血を吐き出した、二度三度と。かちかちと上下の歯がぶつかり音を出している。夕顔の腹部を細い剣が貫いていたのだ。抱き合ったままでは二人とも串刺しになる。敵が後ろに来て二人を貫こうとしたその瞬間、避けきれぬと判断した夕顔が朝顔を突き飛ばしたのである。
「ゆ……夕顔ぉ!!」
「に……逃げるのじゃ……朝顔……紫陽花を連れ……て……早う……」
普通の人間なら死んでいるのだろうが、夕顔は能力者である為、何とか耐える事が出来ている。しかし、それでも立っているのがやっとの状態であるのは、朝顔が見ても明らかであった。
「早うせぬか……長姉の主が……それで……どうするのじゃ……我は……死なぬ……三人で仇をうつまでは……行け……」
「す……済まぬ……夕顔……必ず生きて会おうぞ……」
唇を噛み締めながら、じりじりと後ろへ下がり森の中へと消えていく朝顔。それを見送った夕顔は、いつものようなにたりとした笑顔を浮かべ後ろを振り返った。
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