10
「いやはや、困ったものじゃのう」
止まることの無いガトリング銃の銃撃を躱しながら岩陰に身を潜めている紫陽花は、大して困った顔をせずにそう呟いている。
少し離れた岩陰に、
しかし、大きな斧である。あの斧を兵士達に向かって投げてくれれば、その隙に兵士達を殺れると思うが、やはり全身桃色少女に声を掛けるのも気が引ける紫陽花である。
「まぁ良いわ……」
すらりと鞘から刀を抜く紫陽花。そして、にやりと笑うと勢いよく岩陰から飛び出た。ガトリング銃が姿を現した紫陽花に向けて発砲される。
「こっちじゃ、こっちじゃ。当たらにゃ意味がないぞ」
ガトリング銃を持つ兵士の動きが紫陽花の動きについていけていないのである。確かに、止まること無く放たれる銃弾も当たらなければ意味がない。
朝顔達三人の中で素早さは誰にも負けないと自負する紫陽花である。しかも、的を絞らせない様にじぐざぐに走っている。
「ふふふっ、鬼さんこちらじゃ」
そう言いながら廃屋の中へと入って行く紫陽花。中で身を潜めているのか姿を現さない。
剣を持つ兵士二人が、
廃屋の中へと一人の兵士がゆっくりと入って行った。しばらくして、廃屋の割れた窓から顔を出した兵士がふるふると首を振っている。
中に紫陽花がいなかったのだろう。後ろを気にしつつ窓に近寄るもう一人の兵士。その兵士が窓から中を覗いた瞬間である。中にいた兵士より兜を捕まれ中へと引きずり込まれたのだ。
がちゃがちゃと鎧のぶつかり合う音だけが、廃屋の外へと聞こえてくる。その音がようやくおさまると、窓から顔を出してきた二人の兵士。
しかし、様子がおかしい。
顔の出し方が不自然なのである。窓の縁の高さは兵士の胸元よりも低かったはずなのに、その窓の縁に顎を乗せるように顔を出しているのだ。
その首がダンスを踊るように、右へ左へと動き出した。まるで人形劇である。
何が起こったのか状況が飲み込めていないガトリング銃の兵士。呆気に取られ、レオンティーヌの存在を忘れたのか、廃屋の方へと意識が集中していた。その隙を逃すレオンティーヌではなかった。
兵士目掛けて大きな斧を力いっぱい投げつけたのだ。
ごぉんっと鐘をつくような大きな音と共に、持っていたガトリング銃ごと腕が千切れ、胴体の半分以上に斧が食い込み吹き飛ばされて行く。
慌てて廃屋より飛び出して来た紫陽花は、既に事切れたガトリング銃の兵士を見て、へなへなと地面へと座り込んだ。
「遊び過ぎたのじゃ……ガトリング銃を殺れんかった」
脇差と太刀に刺してあった首を投げ捨てると、恨めしそうにレオンティーヌを見上げ睨んでいる。
「なんじゃぁ、ぬしは!! よくも美味しい所を掠めていきおったのぉ!!」
そんな紫陽花を無表情な目で見下ろすレオンティーヌ。そして斧を拾い上げると、紫陽花に向かい斧を構えた。
「ほぉ……我と殺り合うつもりかのぉ……」
にたりと笑う紫陽花に、レオンティーヌは無言でじりじりと近づいてくる。紫陽花がぺろりと唇を舐めた。そして太刀と脇差を構えるとぐぐっと腰を落とした。
「ぬしは我が誰だか知っていて喧嘩を売っとるのじゃろう?」
その問いに首を横に振るレオンティーヌ。
「なに、知らぬのか? 知らぬのに喧嘩を売るのか?……なるほど、自我無き狂戦士よなぁ……憐れなもんじゃて」
そう言うと紫陽花はすっと元の姿勢に戻ると、太刀と脇差を鞘へと納めた。
「我はぬしの敵ではない。我らはベルツと喧嘩する理由はないからのぉ。我も引く、だから主も引け」
紫陽花の言葉を信じたのかレオンティーヌは斧を背に戻すと、紫陽花の方から視線を外さずに後ろへと下がっていく。紫陽花はその様子をにやにやとした顔で見ている。
「大丈夫じゃ、背後から斬ったりせんて」
ある程度離れたレオンティーヌはさっと後ろへと振り向くと森の中へと走っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます