11
「その調子じゃ、その調子じゃ」
楽しそうにけらけらと笑いながら、あちこちへと飛び回りガトリング銃を持つ兵士を翻弄する朝顔。四方八方へと撃ち乱される銃弾に、仲間の兵士達も辟易している。
「ほうら、どうしたのじゃ。闇雲に撃っても当たらんて。数打ちゃ当たるのは馬鹿にだけじゃぞ」
朝顔はそう言うと、今度は廃屋の陰に隠れているエルダの側へと移った。そして、エルダへにたりと笑いかけると、手招きをして呼び寄せる。エルダは表情の無い顔を朝顔へと向けていたが、ふいっとその視線を敵の兵士へと戻した。
「何じゃぁ、つれない奴じゃのう……せっかく、競争に参加させてやろうと思ったんじゃがのう」
「……」
「ふふん、監察官の指示なしじゃ動かんか。ならば、良かろう。そこで見ておれ」
朝顔は刀を鞘へと納めると、右手掌の付け根にある輪っかを左手でぐいっと引く。すると、蜘蛛の糸の様に細い糸がしゅるりと出てきた。そして、腰の巾着より分銅を取り出すと輪っかの先へと取り付ける。
それを木の陰からこちらを伺っているガトリング銃の兵士へ向けて飛ばした。兵士は投げられた小さな分銅に気がついていない。
しゅるしゅると兵士の方へと伸びていく糸。朝顔がくいっと手首を動かすと分銅の軌道が僅かに変わる。まるで朝顔の意志を汲んでいるかの様に操られ動く分銅。
分銅に導かれ宙を飛ぶその糸が兵士の手首へと絡んだ。そこで兵士が分銅と糸の存在に気がついた。しかし、気がついた時には既に遅かった。
「阿呆が……ガトリング銃を持っとるからと慢心し過ぎじゃ……」
朝顔は真顔で呟くと、ぐいっと腕を自分の方へと引き付けた。糸で引っ張られた兵士の体がぐらりと揺れる。見た目は少女の朝顔である。しかし、能力者である朝顔は華奢で女の子らしいその体つきからは想像出来ない力を持っている。そこら辺の少女と比べたらいけないのだ。
「さぁさぁ、力比べをしようかの」
にたりと笑う朝顔は、まさに見る者を不快感に陥らせる様な笑顔をしていた。
兵士の手首に巻き付く糸が陽の光に反射しきらりと光る。この陽の反射がなければ兵士と朝顔が糸で繋がっていることも分からない程に細い糸である。
しかし、そんな蜘蛛の糸の様に細い糸は、兵士と朝顔が力比べをしようが切れる様子も見せず、兵士の手首を締め上げていく。
兵士の手からガトリング銃がどさりと落下した。否、手からでは無い。手首ごと落ちたのである。
そして、糸がしゅるりと朝顔へと戻っていく。血の噴き出す手首を押さえ、ふらふらとよろめきながら歩く兵士。その機を逃さんとエルダが襲いかかろうとした時である。
剣を持つ二名の兵士が立ちふさがった。
「ぬしはそこで剣士の相手をしとれ」
糸を完全に巻きとった朝顔がエルダへそう言うと、自分は血の噴き出す兵士へと歩み寄ると蹴りを入れた。
「情けなや、情けなや……高々、手首の一つや二つ失っただけで、なんじゃその有様は。帝国兵士とは……そのようなものか。それではいつぞや森の中であったハインツの狂戦士と監察官の方が数千倍は立派じゃったぞ」
そして、ガトリング銃を拾い上げた朝顔が兵士へと向け、銃の引き金を引いた。六本の銃身が回転する。そして、吐き出される銃弾が兵士の体を襲う。
しかし、帝国自慢のその鎧がガトリング銃の銃弾を尽く弾いていく。それでも構わず打ち続ける。
「ほうほう……中々楽しいものじゃ」
銃弾は貫通しないものの、鎧がへこんでいくのが分かる。鎧のなかの兵士はたまったものではなかろう。堪らず仰向けに倒れる兵士に倒れても撃ち続ける朝顔。
「がぼごぼご……」
兜の隙間から血が流れ出てくる。ガトリング銃で胸部を撃たれ続けられ、圧迫し、押し潰されたことにより、肋骨が折れ肺に刺さって吐血したのであろう。
「下手に頑丈故、楽に死ぬ事さえできぬとは悲惨じゃなぁ……」
打ち続けられている兵士の体が大きく二三度痙攣したかと思ったら、直ぐに動かなくなってしまった。
事切れたのだろう。
兵士の頭を爪先で蹴る朝顔。ぴくりとも動かない兵士。ガトリング銃を脇に置くと、兵士から兜を脱がせた朝顔が、刀を抜くと、すぱりと一太刀、兵士の首を斬り落とした。それを腰に括り付けると、ガトリング銃を再度拾い上げた。
「二点じゃ……残りは二人。ここで四点頂きじゃ」
そう言うと、エルダが側いるのにも関わらず、剣を持つ二人の兵士へむけて発砲し始める。
「踊れや踊れっ!!」
楽しそうな笑みを顔中に浮かべ、二人の兵士の足元へと銃弾を撃ち込み続ける朝顔。まるで踊るように飛び跳ねている兵士。巻き添えを喰らっては堪らんと、エルダが兵士の側から離れる。
シュシュシュシュッ
弾切れなのか、銃身だけがくるくると回っている。残念そうにガトリング銃を見ている朝顔へ兵士二人が斬りかかって来た。
「慌てるでない……粗忽者」
とんっと軽く地面を蹴った朝顔の体がふわりと兵士二人の頭上を越え、先程まで兵士がいた所へと着地している。
そして、朝顔の方へと振り向いた兵士の一人の側頭部をガトリング銃の銃身で思いっきり叩いたのだ。
思わずよろめく兵士。さらに数発続けて叩きつける。兵士はたまらず剣を横に振るうも、虚しく空を斬るだけである。
叩き続けるガトリング銃の銃身はぐにゃりと曲がり、叩き続けられる兜も歪な形へと成り果てている。
それでもふらつきながら、ガトリング銃での殴打を剣で防ごうとしている兵士へ、にんまりと嫌な顔で微笑みかける。
「ぬしには飽きた」
ぽぉんと空高く無様に変形したガトリング銃を放り投げると、するりと鞘から抜刀した。
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