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山に囲まれた小さな平野部にある集落から遠目から見ても分かる位の大量の煙が、雲一つないよく晴れた空に向かい上がっている。それは一軒や二軒の家屋が燃えているのとは違う煙の量であった。遠くからだと、まるでその集落全てが燃やし尽くされているように見える。色々な物が焼けた臭いが風に乗り平野部中へ運ばれて行く。
「完了しました」
集落の入口に立つジネーヴラに、エルダとレオンティーヌの二人が手に松明を持ち報告しにきた。
そして、エルダから松明を受け取ったジネーヴラは、その松明を集落の中で唯一燃えていない入口にある家屋の中へと放り入れた。
ばちばちと爆ぜる音が家屋の中より聞こえてくる。だが聞こえて来るのはそれだけではなかった。赤ん坊の鳴き声も混じっている。火をつけた家屋の中に生きた赤ん坊がいるのである。
全てを消しさろうと燃え広がる炎。それは罪なき小さな命までも飲み込んでいくのであった。
「さぁ、次に行きましょう」
にたりと笑いながらジネーヴラはそう言うと、二人を連れて集落から離れて行った。
集落を装ったクラン帝国の特務部隊中継基地。
ジネーヴラ達の放った炎は、そこに住んでいた者達全てを飲み込み消し去った。誰一人残さずに。
じわりじわりと戦力を削っていく。それに対する小さな犠牲など厭わない。それがジネーヴラのやり方である。狂戦士として自我を持つジネーヴラ。しかし、自我はあれど人としての何かが欠落していた。
だからこそ、マルティーナもこの様な任務を任せるのである。
ジネーヴラ、通称、
クラン帝国とベルツ連邦の国境線にある駐屯地が次々に壊滅させられている。しかも、全て生存者はいなかった。産まれたばかりの赤ん坊から使用人としての女、老人まで全てである。
「これは……さすがに酷い有様。乳飲み子まで焼かれておるわ」
「ふへっ、徹底的じゃのう。恐ろしや恐ろしや」
焼失した集落を歩き回る影が三つ。特徴的な喋り方とその身なり。そして下品な笑い方。
朝顔、夕顔、紫陽花の三人である。しかし、その三人までもが顔を顰めるその惨状。
「よもや、人のやる行為とは思えぬな」
「だとしたら、狂戦士かの……」
「ふへっふへっふへっ……流石の我らでも乳飲み子まで殺さんて」
「狂うとる。されど自我なき狂戦士なら命令に忠実じゃ」
元は人だった物だと思われる、焼かれ炭と化したそれをつま先でこつんと蹴りながら、紫陽花は苦虫を潰した様な顔で言った。
「じゃが、死んだのは憎いクランの連中よ。誰がやったかなどどうでも良い。それよりも、もうここには用はない。次に行こうかの」
朝顔に促された二人は集落入口のあの赤ん坊の焼かれた家屋へとちらりと視線を送る。
「鬼じゃ鬼じゃ……大陸にはよう鬼がおるもんじゃ」
夕顔はそう言うと、二人の後を追い集落から立ち去った。
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