15
「さらばだ。勇敢なる戦士達よ」
まさにユリア達へ刀が振り下ろされる際に、963と死ぬ事を覚悟していたユリアは、963の耳元で今までありがとうと囁いた。
その時である。
骨と骨がぶつかる音がユリアの耳に入ってきた。と同時に、刀を振り下ろそうとしていた紫陽花の体がユリアの視界から消え、そこにいたのは、一人の幼い少女であった。
ふんふんふふふんふんふん……
ふんふんふふふん……
「1103……なんでここに……」
紫陽花のこめかみに駆けつけた勢いそのままに1103が膝を入れたのである。その衝撃で紫陽花は向こうの薮の中まで飛ばされてしまった。
ふんふんふふふんふんふんふん……
ふふふふふんふんふん……
信じられなかった。
1103はイヴァンナとルイーサを連れて下山していたはずなのに。ユリアは鼻歌を歌いながらユリア達を見ていた。
「イヴァンナが助けてって、二人を助けてって言った」
そう言うと二人から視線を外し、紫陽花が飛んでいった薮の方へと視線を移した。薮の方からがさりと音がする。
「くそっくそっくそっ!!」
焦点の合わない目をしてふらつきながらも立ち上がってきた紫陽花。そんな事はお構い無しに鼻歌を歌いながら無表情な目で見つめる1103。
ふんふふんふ……
ふふふふふん……
とんっと軽く地面を蹴った様に見えた1103が、もう紫陽花の目の前へと移動している。ぶはぁっと大きく息を吐き出し斬りつける紫陽花の一刀を難なく避ける。
ふんふふんふ……
ふふふふふん……
「くそっ!!ちょこまかと!!」
右に左にひらりひらりと動き、紫陽花を翻弄していく小さな体の幼い少女へ苛立ちを隠せない紫陽花の動きがだんだんと荒くなってきた。そして、湯上りの様に赤く火照っていた体がだいぶ元の状態に戻り初めていることにユリアば気づいた。
「あの得体のしれん物の効果が切れてきたのか?」
紫陽花に先程までの笑みを浮かべる余裕がなくなってきている。
ふんふんふふふんふんふん……
ふんふんふふふん……
「五月蝿い!!五月蝿い!!五月蝿い!!やめぬか!!その鼻歌!!」
横に払う紫陽花の刀をするりとかわした1103が、その大鎌で紫陽花の胴を薙ぎ払おうかとした時だった。
「そこまでじゃっ!!」
1103の背後から制止する大きな声が聞こえてきた。
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