14

「1103、あなたにお願いがあります」


 ルイーサを連れて山を下るイヴァンナは、隣にいる1103へ話しかけた。


「なんでしょう、イヴァンナ?」


「今から引き返し、ユリア達の手助けをしてきて欲しいのです」


「分かりました、イヴァンナの命令なら従います」


「お願い……二人を助けてください」


 イヴァンナは祈るように1103へと言った。無言で頷く1103。そして、行ってきますと一声かけるとすっと姿が消えた。


「いいのか……追っ手が来たらおしまいだぞ」


 二人のやり取りを見ていたルイーサがイヴァンナへと言った。イヴァンナはちらりとルイーサに目を向け、その時はその時ですよと答えた。




 森の中を風を切る音と枝が軋む音だけが聞こえる。常人の動体視力では追いつけない程の速さで1103が移動しているのだ。1103の小さな体は森の様に木々が密集するような場所では有利に働く。


 ふんふんふふふんふんふん……


 ふんふんふふふん……


 ふんふんふんふふふんふんふんふん……


 ふふふふふんふんふん……


「お母さん、お母さんが困ってる時、私はどうしたら良いの?」


「そうね……そんな時は助けてちょうだい。ヒトミ、あなたが出来ることでいいから」


「そしたらお母さんは嬉しい?」


「もちろん嬉しいわ」


 ふんふんふんふん……


 ふふふふふん……


 ふんふんふんふん……


 ふふふふふん……


「あなたが戦線に出て監察官から助けてとお願いされたら、どうしたら良いと思う?」


「助けてあげる。出来ることする」


 ふんふんふんふふふんふんふん……


 ふんふふふんふんふん……


「あなたは狂戦士。闘うことしか許されない。でも、忘れないで……あなたに、あなたのその能力を信じて助けを求める人は必ずいるから」


「そしたら、助けてあげて。あなたを信じている人を……」





 しばらく進むと木々の間から、満身創痍のユリアが963の元へ歩み寄る姿が見えた。そしてその側には刀をもつ紫陽花がいる。


 それを確認した1103の口から獣の様な唸り声が漏れた。1103の脳内のリミッターが外れてしまいそうになっている。


「ヒトミ、あなたは優しい子。ヒトミ、あなたは強い子。ヒトミ、あなたは……」


 リミッターが外れるぎりぎりのところで踏みとどまる1103。そして、向こうでは紫陽花が刀を二人へと向けた。


「お母さん、駆除開始します……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る