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 繰り出される突きに、963は頸動脈すれすれところで体の動きを最小限に抑え避ける。


 避けられたと思われた刀を横に払う紫陽花。それを仰け反り避ける963。仰け反り避けた事で隙が生まれたかの様に見えた。しかし、そのままバク転をするように足を上へと跳ねあげる。963のつま先から五cm程の刃物が飛び出していた。


 追い討ちをかけることを諦め、ちっと舌打ちをしながら避ける紫陽花の頬に浅い切り傷がついている。そこから、つうっと血が流れ出てくる。それを舌でぺろりと舐めると、きゅうっと口角が釣り上がった。


「くくっ!!流石はA+最強ランカー。われの顔に傷をつけた者は久しくいなかったぞ!!」


 けたけたと嬉しそうに笑う紫陽花に対し、無表情なままの963がちらりとユリア監察官の方へと目配せをする。それに対しユリアはこくりと無言で頷いた。


 すると963はすううっと大きく息を吸い込み、ぴたりと息を止めた。その瞬間、963の足元から土煙が上がると目にも止まらぬスピードで一気に紫陽花との間合いを詰めた。


 突然、自分の目の前まで間合いを詰められた紫陽花は大きく目を見開き、それでもまだ、慌てることなく何とか963の動きに対応していた。しかし、それはあくまでも対応できているだけで、防戦一方である。


 それだけ963の動きが速いのである。右にいたと思えば左に。左にいたと思えば右に。そして、繰り出される足技。これが本当に足での攻撃なのかと言うくらいに多彩なのである。これが隻腕である963が数多くの戦線で生き残り、戦果を上げてきた証だ。


 徐々にその回転速度が増していく。刀がいくら切れようが963の体に触れなければ意味がない。それに963の体には鋼鉄製の防具が付けられており、例えその刃が当たっても跳ね返されてしまう。


 紫陽花は強い。実力的にはA+ランカーである。しかし、同じA+ランカーである963と決定的な差がある。戦線での経験だ。確かに剣術の腕は良いし、相手を殺そうとすることに対しての躊躇もない。だが荒い。


 捉えきれない963に苛つき、大振りで刀を振り回す様になってきている。要所要所でそれが露呈していた。二人の戦闘を見ながら分析するユリア。そして笛を短く三回鳴らした。


 刀で横に薙ぎ払う紫陽花を下から蹴りあげた963。その腕につま先に仕込まれていた刃物がぶすりと刺さり、腕を貫いた。そして、それをそのまま更に963が足を自分方へと引きつけると、腕に刺さっていた刃物により紫陽花の上腕二頭筋が引き裂かれてしまった。

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