10
「……!!」
見たことがある腕だった。紅い軍服の黒い袖口。そこにあるクラン帝国の紋章。紛れもなくそれはルイーサ監察官の肘から下の右腕だった。
『何が起こっている……』
だいぶ煙幕が流され視界が開けると、その状況が顕になってきた。
イヴァンナ監察官達の先に、片腕から血を流し蒼白な顔色で腕を抑えながら見たことの無い格好をした少女と対峙しているルイーサ監察官がいる。
しかし、ルイーサ監察官の側には狂戦士のリオニーの姿が見当たらない。
既に殺されているのか……
だが、見渡せどリオニーの死体らしきものさえ見つからない。無表情の少女……紫陽花は、血の滴る刀を片手に一歩、ルイーサ監察官へと近づいた。
「ふん、狂戦士だけは逃がしたか。なんとも監察官らしからぬ行いよ」
「いやいやいや……私だと、貴様から逃げ切れる自信がないからな。だが、リオニーなら無事に本国へ戻り、貴様らの事を報告出来るだろう」
「文でも持たせたか……まぁ、良いさ。狂戦士共には興味は無い。あるのは主らクランの蟲共よ」
そう言うと紫陽花は刀をぴたりとルイーサの首筋へとあてた。ルイーサは覚悟を決めたのか瞼を閉じた。
「観念したか……」
ルイーサを見下ろす形で立っている紫陽花がその首を落とそうとした時である。どうした事か、1103が紫陽花目掛け突っ込んで行ったのだ。
予想外の行動に対処が遅れる紫陽花はルイーサから離れるだけで精一杯であった。少し離れたところから、睨みつける紫陽花を無表情な瞳で見つめる1103。
「主らは何故、クランの兵士を助ける?主らにとっても憎き敵であろう」
「ルイーサ監察官は確かに敵国の兵士です。しかし、戦意喪失しほぼ投降したのと同じ状態。その首を刎ねる行為は戦争法で禁じられています。よって、彼女の身柄は我々が捕虜として連行したいと思っています」
イヴァンナは紫陽花にそう言うと、ユリアと二人でルイーサの傷口上部をきつく縛り応急的な止血を施し、逃亡できない様に拘束具で固定した。
「何が戦争法だ……我々の邪魔をするのであれば、主らも容赦はせぬ」
可愛らしい少女の額にみるみるうちに血管が浮かび上がり憤怒の表情となった。そして、息を大きく吸い込むと、とんっと地面を蹴りイヴァンナ達へと斬りかかった。
金属と金属がぶつかり合う音がした。
ふしゅぅっと息を吐き出しながら、963が右腕の手甲で紫陽花の斬撃を止めている。鋼鉄製の手甲を斬る事は流石にできないようである。
「隻腕の
ユリアもイヴァンナも、A+ランカーの中で最強と言われている963を相手に、ぺろりと舌なめずりをして余裕を見せる紫陽花の実力を測りかねている。
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