おうち時間に暗号を解いたらやばい事になった
とあるのどかな地方都市。まったりと休日を楽しんでいたケンジは、おうち時間を利用して暗号解読にハマっていた。夢中になって暗号を解読していく内に、絶対解けない暗号と言うサイトに辿り着く。
彼はこの挑戦を受け取り、夢中になって暗号解読にハマっていく。提示される暗号はノーヒントだっためにケンジもかなり苦戦するものの、ハイになっていく内に謎の閃きが起こり、10時間後にはその難攻不落の暗号を解いてしまっていた。
「やったぜ!」
サイトには、暗号が解けたらご褒美がもらえると書いていたので、解けた得た回答をサイトに入力。すると、ケンジの部屋にトリが召喚された。そう、カクヨムでお馴染みのあのトリだ。
トリはケンジの顔を見るなり、パタパタと嬉しそうに羽を羽ばたかせる。
「おめでとうホ! 君は見事に救世主に選ばれたホ!」
「は?」
どうやらあの暗号は救世主にしか解けないものらしい。暗号サイト自体が救世主を探すためにとある組織が作ったものだったのだ。
トリの説明で事情が分かったケンジは、けれど、暗号を解く事にしか興味がなかったために救世主になる話を秒で断った。
「あ、そう言うの間に合ってるんで」
「そこを何とか! 世界には救世主が必要なんだホー!」
そこからはトリの救世主になってくれ攻撃がずっと続く。しつこいほどに続く。呆れるほどに続く。
一応暗号を解いたご褒美なので、彼はトリを自分の家に住まわせていた。トリは一般的な鳥の餌は食べず、人間の食事を所望する。ケンジは仕方なく自分の分と合わせて二人分の食事を作り、トリに与えるのだった。
ケンジとトリの奇妙な同居生活が続く中、ついに恐ろしい事件が起こってしまう。世界中に謎の奇病が蔓延してパンデミックになってしまったのだ。そのニュースをテレビで見ていた彼の横でトリはブルブルと震えていた。
「ついに始まってしまったホ……」
「何か知ってんの?」
「アレの原因は、遺跡に封印された術式を不完全な形で解いてしまったからなんだホ……」
「それって完全な形で解いたら病気も消えるとか?」
「その通りホ! 今こそ救世主の出番だホ!」
トリは目を輝かせ、ここぞとばかりに熱弁する。ケンジは最初はやる気がなかったものの、その術式と言うのが実質暗号だと言う事が分かり、態度を一転させる。
「分かった! その暗号を解かせてくれ!」
「合点承知ホ!」
トリは不思議な力を使ってその遺跡に転移。彼はすっかり無人になったその部屋の床や壁に刻まれた古代文字の羅列に目を輝かせる。
「すっげー! これが古代に封印された術式?
「早く解くホ! こうしている間にも世界中で病気が広がっているホ!」
「任せろ!」
こうしてケンジは古代に施された術式、いや、暗号を解き始める。一応不完全ではあるものの解読されていたため、そのデータを利用して彼はそのミスの原因を突き止める事で完全解読の糸口を掴もうとしていた。
着々と完全解読に近付く中、病気に感染して変異した元人間の皆さんがそれを阻止しようと遺跡の封印部屋にやってくる。
「うわ! 何だあれ」
「あれがこの病気に侵された者の成れの果てだホ! 彼らはこの解読を阻止しようとしているんだホ!」
「モロゾンビじゃん。どうすんだよ。まだ解読終わってねーぞ」
「任せろホ!」
トリはケンジの元を離れると、すぐに出入り口の前でバリアを張った。その見えない壁によってゾンビモドキ達は部屋には入れない。そこでゾンビモドキ達は何とかして突破しようと、このバリアに攻撃をし始めた。パンチやキックやカミツキ、引っ掻いたりべろりと舐めてみたりと、その攻撃方法は多種多彩。
トリはバリアにかかる負荷を直に受けて、苦痛で顔を歪ませていた。
「くううっ……ホ」
「だ、大丈夫か?」
「ボクがここを抑えられている内に……早くホ!」
「わ、分かった!」
今にもトリが力尽きそうなその状況に、ケンジも本気を出して解読に取り組む。とは言え、焦れば焦るほど彼の思考は空回りしてしまうのだった。
「ええと……あれ? いや、これは違う! うわあああ!」
「落ち着くホ! 救世主の暗号を解いた時みたいに! ケンジなら必ず出来るホ!」
今はその言葉すら彼には届かない。そうやって試行錯誤している間にもトリの疲労は溜まっていき、ついにバリアは破られてしまった。
「キエエエエ!」
ゾンビモドキは勝利の雄叫びを上げ、疲れ切ったトリはその場に倒れる。障害がなくなった事でモドキ達は一斉ケンジに向かって駆け出してきた。
「うわあああああ!」
「そうはさせないホ!」
襲われそうになったギリギリで起き上がったトリは自らの体を張ってケンジを守る。思いっきり息を吸い込んで一時的に体を巨大化させたのだ。
「早く! 今度こそ長くは持たないホ!」
「わ、分かった!」
巨大トリもまた、ゾンビモドキ達の攻撃を執拗に受けてどんどん傷だらけになっていく。それでも苦痛の声を一切上げずに耐える姿を見て、ケンジも本気で集中して暗号解読に脳のリソースを全て注ぎ込んだ。やがて目まぐるしく巡る思考が段々クリアになっていき、刻まれている古代文字からたったひとつの正解へと導かれていく。
「そうか! 分かった!」
暗号の解けたケンジは壁をその回答の通りに触っていく。やがて室内が振動し始め、その波動によって未知のエネルギーが世界中に浸透していった。
「術式が正常に稼働している……成功だホ!」
「これで、病気も治るんだな?」
「結果的にはそうなるホ」
「え?」
トリの話によると、彼が導いた回答によって術式は逆回転を始めたらしい。これによって全てはなかった事になり、世界は病気が流行る前に戻るのだとか。
こうして、結果的に世界に平和が戻ったのだった。
時間を戻す術式の効果でケンジは自室に戻ってきていた。見慣れた景色を目にした彼は、そこで何かが足りない事に気付く。
「あ、トリがいない。そっか、そう言う事かぁ……」
この状況に1人納得したケンジは遠い目になる。窓の外の景色を眺めて黄昏れていると、突然部屋のドアが開いた。
「ふう、スッキリしたホ!」
「お、お前いたのかよ!」
どうやらトリはトイレに行っていただけだったようだ。突然現れた居候に彼が驚いていると、トリはニンマリといやらしい笑みを浮かべる。
「ケンジもやっと救世主の自覚が出てきたホね~」
「だから! それはやらないって言ってるだろ~」
「絶対救世主になってもらうホ~!」
そんなこんなで、トリのしつこい勧誘は続く。ケンジはそれをうざがりながらも、少し嬉しそうな表情を浮かべるのだった。
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