第58話 接待します

 怒涛のお誕生日会が終わった。


 結局あの後、カイは何とかエリスに魔石を受け取って貰ったが「カイが何かお金に困るようなことがあったら即座に返却する」という但し書き付きになった。これはエリスなりの優しさだと思ってカイは受け入れた。


 今日、エリスとカイは街に来ていた。隊商が到着するという連絡が町長からあった為だ。


「来るの随分早くないですか? この間からあんまり時間経っていないような?」


「えぇ、こんなに短い間隔は初めてですね。今までは、2、3カ月おきぐらいでしたから」


「何かあったんでしょうか?」


「恐らくですが、エリス様をお得意様にしようと思って、印象を良くしようしてるのではないかと」


「なあるほどぉ、商人っていうのは卒がないですねぇ」


 エリスは感心頻りだ。


「ハハハッ、そうじゃないとやっていけない世界なんでしょうね」


 そうこうしてる内に隊商が到着した。


「どうも領主夫人、いやぁ、街道が広くなっていてビックリしましたよ」


 いつもの隊商のリーダーが挨拶してくる。


「もう崖崩れの心配は無いんで安心して下さい。それともう離婚しましたんでエリスと呼んで下さい」


「えっ? そうなんですか。分かりました、エリス様。早速ですが今日は、先日ご依頼頂いたテーブルセットをお持ちしましたよ」


「ありがとうございます。助かります」


 早速エリスは全てストレージに収納した。

 

「ところで、こんなに大量のテーブルセットを何にお使いで?」


 商売の匂いを嗅ぎ付けたのか、リーダーの目がギラりと光る。


「それは現物を見て貰った方が早いですね。お時間はありますか?」


「えぇ、後は荷卸しするだけなんで大丈夫です」


「町長さん、この馬車借りていいですか?」


 そう言ってエリスは空の馬車を指差した。


「えぇ、構いません。お使い下さい」


「ありがとうございます。ではリーダー、どうぞ乗って下さい」


「馬車で行くんですか?」


「えぇ、ちょっと遠いので」


 馬車を走らせること約10分、やがてホテルが見えてくると、リーダーの目が点になった。


「こ、これは、いつの間にこんなもんが...」


「温泉を目玉にしたホテルです。まだオープン前ですので、宿泊は無理ですが、温泉は入れますよ? 旅の垢を落としていかれます?」


「よろしいのですか?」


「えぇ、その代わり、出向く先々でこのホテルを宣伝して貰えると助かります」


「そりゃあもう、張り切って宣伝しますよ」


「ありがとうございます。では最上階の展望大浴場をご堪能下さい。私達はその間にテーブルセットを設置してますので」


「分かりました」


 その後、エリスとカイは各階を回って客室にテーブルと椅子をセットしていった。


「ふぅ...まだ足りないわね。ちょうど半分くらいかしら?」


「そんなところだね。エリス、そろそろリーダーも風呂から上がったと思うんで戻ろうか」


「えぇ、そうね」


 戻ってみると、ホカホカになったリーダーが居た。


「いやぁ、堪能しました! 素晴らしい眺めと良質の温泉ですな! 会う人会う人全てに宣伝しますよ!」


「ありがとうございます。これお土産です。乳製品の詰め合わせと魔獣の肉のジャーキーです。温泉卵と温泉饅頭はこれから作る予定なんでまだ無いですが、オープンには間に合わせます。それと、テーブルセットを今回と同じ数お願いします」 


「ありがとうございます。了解しました」

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