第23話 従業員寮を快適にします
全員がリビングに集った。当然ながら家具も何も無い。
「これは引っ越し祝いと思って使ってね」
そう言うとエリスは、かなり大き目のテーブルと柔らかそうなソファーをストレージから取り出した。
「よ、よろしいのですか?」
「いいのいいの、使ってないから」
テーブルは自分の領地で使っていたもの。今の小屋には大き過ぎて置けないからストレージの肥やしになっていた。ソファーも自分の領地で使っていたもの。こちらはストレージに入れたことをすっかり忘れ、家具店で新しいソファーを買ってしまった。余ったので同じく肥やしになっていた。
「それで説明しておきたいことというのは?」
「うん、水回りのこと」
「水回りですか?」
「詳しくは台所で説明するね」
台所は広い造りになっていて、四人並んで調理することも出来そうだ。
「みんな、料理は出来る?」
「はい、全員一通りは」
全員が頷いた。
「結構。ではこれを見て」
そう言ってエリスは台所の隅を指差す。
「これは...もしかして井戸ですか?」
「そう。あなた達専用のね」
「私達の...」
この世界、井戸といえば外に設置して、街のみんなが共同で使うというのが一般的なので、彼女達が驚くのも無理はない。
「ここ山の中だから、天気が急に変わったりするのよ。晴れていればいいけど、天気の悪い日に井戸が外にあると水汲みが大変でしょう? だから家の中に作ったのよ。私達の小屋も何れそうするつもり」
「ご配慮痛み入ります...」
「この水を使って料理してね」
「あ、ありがとうございます」
「それからトイレを流す時もこの水を使って?」
「分かりました」
「どんどん流してね。その分、畑が潤うから」
「へっ?」
全員がポカンとした顔をする。
「私達の小屋もそうだけど、この寮も畑より高い場所にあるでしょ? トイレを流す度に、その水が畑に流れるように作ったから、流せば流す分だけ畑に肥やしが撒かれるってこと。理解した?」
理屈は分かったが、自分達の排泄物が畑の肥料になると言われても...若い女性としては複雑な心境である。全員が微妙な表情になった。
「それとこのドアなんだけど、開けてみて?」
そう言ってエリスが台所脇に設置したドアを指差す。
「こ、これは?」
ドアの先は長い回廊になっていた。
「温泉に繋がってるの。長い廊下だと思って頂戴。大体、5分くらい歩けば温泉に辿り着くわ。これなら外の天気に関係なく、楽に温泉まで行って帰って来れるでしょ?」
もう全員が言葉も無い。
「説明は以上よ。何か質問はある?」
「い、いえ、今のところ特には...」
驚き過ぎて頭が回っていない。するとエリスは急に顔を顰めて、
「ごめんなさいね。本当は温泉のお湯をここまで引ければ良かったんだけど...温泉はここより低い場所にあるのよ。水を上から下に流すのは簡単だけど、その逆は難しくてね...何とかしようとは思ってるんだけど...」
「い、いえ、そんな、これだけで十分過ぎるくらいですから! お気になさらず!」
ユリは慌てて言った。エリスの悩み所はそこなのか? 理想が高過ぎて理解が追い付かない。
「ありがとう。じゃあ部屋の模様変えをやっちゃって。私は小屋に戻ってカイの様子を見て来るわ」
そう言ってエリスは従業員寮を後にした。
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