第10話 恩返しだそうです
魔獣の間引きに出発したエリスは嬉々として魔獣を狩っていた。
「ウリャッ!」
魔獣の群れに風の魔法を撃ち込む。風の刃が魔獣の首を一撃で跳ね飛ばす。今蹴散らしているのはオークの群れだ。「豚肉豚肉~♪」と楽しそうに歌いながらどんどん狩っていく。
「良し、こんなもんかな~♪ 次行ってみよう♪」
オークの躯を全てストレージに格納して移動する。その後もホーンラビットやブラッディベア、ワイルドボアなどを次々と狩っていく。
「結構貯まったよね。そろそろ戻るかな。ん? あれは?」
前方に鳥? らしき姿が見える。そういや鶏肉がまだだったなと思いながら近付いて行くと、
「こ、これはっ! 絶滅危惧種の『ハクトウイヌワシ』じゃ!? でもこんなにデッカイんだっけ?」
頭の部分だけが白く、その他の部分が真っ黒なその鳥は、体長約3m、翼を広げると約5、6mはあるだろうか。人一人くらい簡単に乗せて飛べそうだと思わせる程の大きさだった。どうやら怪我をしているようだ。
「良~し良し、今治してあげるからね~ それにしてもなんてキレイな鳥!」
エリスは治癒の魔法を掛けながら、改めて鳥を観察する。流線型のフォルムはスマートで、それでいて力強さを感じ、鋭く尖った嘴とカギ爪は、狙った獲物は逃さないと感じさせた。まさに空の王者という風格がある。さしものエリスも絶滅危惧種を食べようとは思わなかった。
「良し、これで治ったね。もう怪我なんかしちゃダメだぞ? 気を付けるんだよ?」
そう言ってエリスが優しく撫でてあげると、
「クエッ!」
と一声元気に鳴いて飛び去って言った。
「これが鶴なら恩返しが期待出来るんだろうけどね。まぁいいや、さて戻ろう」
エリスは意気揚々と引き上げた。
◇◇◇
街に戻ると中央広場に案内された。町長が指示通り祭りの準備をしてくれたみたいだ。早速ストレージから獲物を取り出す。山のように積み重なった魔獣の躯に、集まった人々から感嘆の声が上がる。
「よぉ~し、みんな~♪ 肉肉肉肉肉祭り、はっじまるよ~♪」
エリスは高らかに開会宣言した。人々から歓声が上がる。その日は夜遅くまで盛り上がった。
「うぅ...さすがに食い過ぎた...」
エリスは昨夜、街のホテルに泊まった。食い過ぎて動けなかったからだ。朝起きてもまだ体が重い。
「まぁでも、街の人達に笑顔が戻って良かった」
初めてこの街を歩いた時の、あの暗い雰囲気を少しでも払拭したかった。
「まだまだこれからもっと頑張らないとね」
街に本当の意味での笑顔が戻るまでエリスの歩みは止まらない。
「さて、小屋に戻りますか。町長さんから種と苗木を貰ったし」
これからもっと忙しくなるだろう。主にゴーレムが。
◇◇◇
小屋に戻ると早速ゴーレムに種まきと苗木を植えるよう指示する。成長促進剤を混ぜた水を撒いていると、
「あ、あの、すいません...」
後ろから控え目に声を掛けられた。驚いて振り向くとそこには、エリスと同い年かやや下だろうか、真っ白な髪に赤い瞳、キレイに整った顔立ちをした美少年が立っていた。黒いローブを身に纏っている。
「どちら様?」
「あの...昨日助けて頂いた者です...お礼に伺いました」
昨日? 助けた? はてな? もしや!
「えっ? もしかして昨日のハクトウイヌワシ? あなた、獣人だったの?」
「は、はい...すいません...」
「うわぁ、鳥の獣人さんに会ったの初めてだよ~♪」
エリスは爛々と瞳を輝かせた。
「そ、その...昨日はすいませんでした...せっかく助けて頂いたのに、お礼も言わずに飛んで行ってしまって...なんだか混乱してまして...」
「うんうん、いいんだよ。いきなり怪我して怖かったんだよね? こうしてお礼を言いに来てくれただけで十分だよ!」
「あ、ありがとうございます...でもそれじゃ僕の気が済みませんので、何かお手伝い出来ることはありませんか?」
「そんな気を使わなくていいのに。でもお手伝いしてくれるのは正直助かるかな」
「良かった...恩返しの為ならなんでもやりますんで、気軽に言い付けて下さい」
鶴ならぬ鷲の恩返しか。エリスは苦笑した。
「あ、もしかして私を乗せたまま飛べたりする?」
「えぇ、お安いご用です」
「良かった~♪ 街まで行くのが楽になるよ~♪ あ、私はエリス。あなたは?」
「僕はカイって言います」
「カイ、これからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
こうして鳥の獣人カイが仲間になった。
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