第11話 マッチポンプでした
まずはカイに試乗してみることにした。
目の前で人間の姿から巨大な鷲の姿に変化したカイを見たエリスは興奮した。
「うぉっ! 凄い~! やっぱり近くて見ると大きいね~!」
「クェッ!」
「あ、この姿になると喋れない?」
「クェ~」
カイはゆっくり首肯した。
「そっかぁ、まぁ仕方無いね。じゃあ早速乗っていい?」
「クェッ」
カイは体を伏せてエリスが乗りやすいようにした。
「それじゃあ失礼して...うわぁ、フカフカ~♪ 気持ちいい~♪」
エリスはカイの首に手を回して気持ち良さそうに頬擦りした。
「く、クェッ!」
なんだか焦ったようにカイが鳴いた。
「あ、ごめん。苦しかった? 興奮しておもいっきり抱き締めちゃったよ。カイ、いつでも飛んでいいよ?」
「クェッ!」
カイはゆっくりと羽ばたいて飛び始めた。
「うわぁ、飛んでる飛んでる飛んでる~! 凄い凄い凄い~! 高い高い高い~!」
もうエリスは大興奮だ。
「カイ、見て見て見てっ! 人があんなに小さいよっ! それにもう街に着いちゃうよっ! 速い速い速い~!」
エリスの興奮は止まらない。やがて街に着いた。エリスを降ろしたカイが人の姿になると、
「カイ~! 凄いよ~! めっちゃ感動した~! ありがとう~!」
カイをおもいっきり抱き締めながらエリスが叫ぶ。
「お、お気に召したようでなによりです...」
エリスの体の色んな所があたって、カイは耳まで真っ赤になってあたふたしている。
「よおし、ちょうどお昼だから、肉食おう、肉!」
そう言ってエリスは、まだ真っ赤なままのカイの手を引いて歩き出した。今朝まで食い過ぎで苦しんでいたことをすっかり忘れて。
◇◇◇
街の中央広場は、まだ昨日の肉祭りの熱気が残っていた。
「おうっ! エリスちゃんじゃねぇか! 今日は彼氏連れかい? なんだよなんだよ、隅におけねぇなぁ!」
「えへへ~♪ いいでしょう~♪」
そう言ってカイと腕を組むエリス。もうすっかり街の人達とも顔見知りだ。カイの方はといえば、やっと冷めた顔の熱が再び上がって口をパクパクさせている。
「さあカイ、どれを食べる? 苦手なものなんかある? やっぱ鶏肉は食えない?」
「い、いえ特には...」
「じゃあ、おじさん、ここからここまで全部頂戴!」
「あいよ、毎度あり~!」
「え、エリス様!?」
カイは瞠目していた。先程までテーブルを占拠していた大量の肉が、みるみる減っていく。
「どうしたのカイ? 食べないの? 早く食べないとなくなっちゃうよ?」
「い、いえ、頂きます...」
この細い体のどこに入るのかと不思議に思うくらい、エリスの食欲は凄まじかった。
「ふぅ、食った~♪」
お腹を擦りながら満足そうにしてるエリス。
「ご馳走様でした。エリス様は健啖家でいらっしゃるんですね」
「ねぇ、それ止めない?」
「はい?」
「様付けと敬語。もっと普通にしてよ」
「い、いいんでしょうか...」
「私がいいって言ってんだからいいの!」
エリスがプウッと頬を膨らます。
「わかりま...わ、分かった、え、エリス...」
「ん、よろしい。それでカイはどこから来たの?」
「あぁ、この山を越えてしばらく行った所にある獣人の村からだよ」
「へぇ~ 随分遠くから来たんだね~ 何か目的でもあったの?」
「去年、両親が流行り病で亡くなってね。元々、外の世界を自由に旅してみたいって思ってたのもあって、おもいっきって村を出たんだよ。それからはあちこち旅をして回ってね、この国に着いたのは昨日だよ。そして山の上を飛んでる時だった。いきなり強い風に煽られと思ったら、翼が切られていたんだ。慌てて高度を下げたんだけど、木にぶつかって地面に落ちちゃった。そこをエリスに助けて貰ったって訳。でもゴメンね? せっかく助けてくれたのに逃げたりしちゃって。何かに攻撃されたと思ってパニックちゃったんだ...あれ? エリス?」
エリスは真っ青な顔になり、背中には冷や汗をタラタラ流していた。間違いない。エリスの魔獣間引きの余波を食らったんだろう。それをエリスが助けたと。世間ではこれをマッチポンプと呼ぶ。どうする? 正直に打ち明けて誠心誠意謝るか? いやでもそれでカイが許してくれなかったら、きっと出て行ってしまうだろう。
貴重な移動手段を失いたくないし、なにより会ったばかりだがカイの人柄は気に入った。離れたくないと思った。ではどうする? この秘密を墓場まで持って行くか? 悩みに悩んだ末、エリスの出した答えは、
「へ、へぇ~ た、大変だったね...」
後者だった...
エリスも意外とクズかも知れない...
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