第9話 行って来ます
最後にエリスはこの街のもう一つの食料事情を確認することにした。
「町長さん、この街は酪農も盛んだとお聞きしました。ですが、ここ2、3日街をブラついてみて気付いたのは、肉屋に並ぶ品数の薄さです。何か理由があるんでしょうか?」
すると町長は渋い顔で、
「仰る通りです。確かにこの地で農耕に適さない土地は、牧草を植えて酪農地にしています。先代様も推進しておられました。ただご存知の通り、山に囲まれたこの地は魔獣の被害が深刻です。家畜を放牧しても魔獣の餌になってしまいます。その為、先代様は領兵とこの街の自警団を自ら率いて、度々魔獣の間引きを行って下さいました。ですが...」
「あのクズは何もしないんですね?」
「仰る通りです。自警団だけではとても賄い切れず...」
「分かりました。魔獣の間引きは私がやります」
「エリス様がお一人でですか? ダメです! 危険です! ここの魔獣は狂暴なのばかりなんですよ!」
町長の顔色が青くなった。
「大丈夫ですよ。山を登る時、どんな魔獣が出るのかは確認済みです。私の領地に出る魔獣よりも弱いモノばかりなんで心配しないで下さい。間引きには慣れてます。帰ったら肉祭りしましょう!」
「ハハッ...エリス様には敵いませんな...でもどうかくれぐれもご無理をなさいませんよう...」
「はい。あっ、ちなみに魔獣の間引きをしてないってことで、この街の人達に被害が及んだりしてませんか? 魔獣が街に入って来たりとか?」
「それは大丈夫です。先代様の時代に、この街を囲う形で魔獣避けの高い外壁を作って下さいましたから」
「本当になんであんなクズが先代様の息子なんでしょうかね...」
「全く同感です。ですがその外壁も所々傷みが目立つようになって来ましてね...補修したくてもその予算が...このままだと遠からず魔獣の侵入を許すことになるかも知れません...」
町長は悲痛な表情を浮かべた。
「それはいけませんね。補修は急ぎましょう。案内して下さい」
「えっ? エリス様がですか?」
「はい。さあ行きましょう」
戸惑った顔の町長を引っ張るようにエリスは街の外壁に急いだ。
◇◇◇
「おぉ、近くで見ると立派な外壁ですね~! 5mくらいの高さかな~? じゃあちょっと行って来ますね~」
そう言うとエリスは、呆気にとられている町長を尻目に、風の魔法で体を浮かせて外壁の上に立つと、土の魔法で傷んでいる箇所を次々と補修していった。ものの一時間もしない内に全ての箇所を補修し終えたエリスは、
「じゃあ魔獣の間引きに行って来ま~す。肉祭りの準備ヨロシク~!」
と言い残して山に消えて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます