第33話 孤独
「なるほど、その様な事があったのじゃな。じゃが嘘の置手紙、あれはいただけんな」
現在、俺は食卓の椅子に座ってアキの説教の続きを聞いている
「悪かった・・・手紙に『早朝に武装した騎士が来て、ハイド家に連れていかれる事になった』と書いたらアキ、心配するだろ?」
「当たり前じゃろうが・・・ボット、お主はいつもわらわを心配させる・・・でじゃ・・・」
アキはチラッと俺の横に座っているリカをみる
リカは俺が出したお茶を飲んでいた
ハイド家で出た様な高級紅茶などでは勿論無いが・・・
「何故、リカは付いてきたのじゃ?お主の伯父からの話は終わったのじゃろう?」
「はい、私、リカはボット様・アキ様と生活を共にしたくお願いに参りました」
そう言ってアキに頭を下げるリカ
「・・・ボット、お主、リカの伯父がいる中で口説いたのか・・・」
アキが信じられないと言う顔で俺を見る
「いや、俺は何もしてない!?」
「いえ、今朝の話で決めたのではございません」
そう言いながら顔をあげたリカは理由を話し始める
「5年前にジャック様から『勇者候補より勇者』と評されている事を存じ上げて、その方に文字通り命を助けていただきました。
御礼は出来る範囲であれば何でもすると言った時、ボット様は自分の事より市民の街に慣れていない私の事を考えて案内、服を選びまで手伝う事を私が心苦しくならない様に『御礼』と言っていただきました」
あれ・・・リカから言われて気付いたけど、もしかして俺かなり恥ずかしい事してたか?
「私が御迷惑しかおかけしていないのに関わらず『自分が誘ったから』と、お支払いまで。あの時、私を貴族だからでは無く1人の人間として、1人の女の子として接して下さっていると心から感じたのです」
とっても嬉しかったのですよ、と微笑みながら語るリカ
「私は貴族の方々からは『国で唯一、鑑定・大が使える現役の神官貴族』と言うイメージを必ず持って近づかれます。皆さんとても親切にしていただけますが、『私』と仲良くしたいのではなく『鑑定・大』と仲良くしたいと感じることが多いのです」
リカはカップを机に置いてアキを見る
「そして市民の方についてもどうしても私は『貴族』と言う身分の違いが前提にあり、一種の壁作って接される方がとても多いと感じるのです。私は時折考えるのです・・・」
リカの手が少し震えている
「『リカ・ハイド』と言う『鑑定・大が使える貴族』は必要とされています。ですが家族以外には『リカ』と言う『ただの女性』を必要とされる事は一生無いのではないかと・・・」
「「・・・」」
俺もアキも何も言えない
貴族の中でも『鑑定・大』と言う特別な魔法が使えるリカ
彼女は誰からも必要とされる人間なのは間違いない
だがその必要とされる人間は『リカ・ハイド』と言う『鑑定・大』を使える『貴族』であり、『リカ』と言う『女の子』だけを見て接する人は親族以外居ないと感じ続けてここまで生きてきた
リカにしか分からない寂しさを『理解できる』と言う慰めは俺達には出来なかった
大事にしてくれる仲間は居たけど『パーティでただ1人、世間から興味を持たれなかった俺』
恐れられるのを怖がり『600年ずっと1人だったアキ』
周りや世間からも認められていたけど『1人、孤独を感じ続けたリカ』
俺達3人は奇しくも1人と言う何かを背負っていた
特に仲間からは大切にされた俺と違い、アキとリカは気丈に振る舞いながらもどこか心の底で泣き、震え、怖がって生きてきたのかもしれない
「ですので、『鑑定・大を使える』と言う事も『貴族』と言う事もご存じないのに命を賭けてゴブリンキングから助けて下さり、私が誰か分かっても下心を一切持たず『他と変わらない1人の人間』として接して下さったボット様に私は惹かれたのです」
「そうじゃったのか。昨日、お主はボットに惚れておるとは思っておったが・・・」
「えっ、アキ、分かってたのか?」
「逆に気付いとらんかったのか・・・」
いや、会って初対面の人に「この人、俺に惚れてるな」なんて思う訳ないだろ・・・
「いつもの私ならそこで終わっていたと思います。ですが、アキ様を見て『私も自分の意見を伝えられる人になりたい・自分から何か行動したい』と思ったのです。『龍を支へし者』を内緒にしておく約束を守りつつ何とかボット様のお側にと、今回の事を思いつきました。まさか翌日の早朝に伯父様がお呼びするとは思っておりませんでしたが・・・ボット様、アキ様、申し訳ございません」
リカは俺達に頭を下げる
「もし、アキ様が反対されるのでしたら私は戻ります。ボット様はアキ様を大切にされているのは良く理解しておりますので・・・」
「・・・わらわも孤独を知っているつもりじゃ。孤独で苦しんでいるお主をわらわは追い返す事は出来ぬ」
「で、では!」
ガバっと頭を上げるリカ
「うむ、わらわは構わぬよ」
「あ、ありがとうございます!」
まぁ、アキが良いなら無理に帰す必要はないか・・・
俺を慕ってここまで行動してくれたのだから
「じゃが・・・」
あっ、アキ、悪い顔してる
「わらわとボットは共に1つのベッドで寝ておる。リカ、ここは譲れぬ」
「ひ、1つのベッドで・・・」
顔を真っ赤にするリカ
何を想像しているんだ、この生娘は・・・
「私は婚姻するまで同衾は・・・」
「いや、俺達はそんなやましい行為はし・・・」
「そうか、すまぬな!ボットの1番はわらわで確定じゃ!・・・いたいっ、何をするのじゃ!?」
俺はアキの頭を軽くはたく
「これから仲間になる人を揶揄うな。何ならアキとリカであのベッドを使えばいいだろ。俺は別の部屋で寝る」
「何でじゃ!?わらわにとっては料理の次に楽しみにしておる時間なのに!?」
料理には負けるのか・・・
「な、何なら3人で寝ると言うのも・・・」
本当に何を言っているんだリカは・・・
「むぅ・・・ボットと一緒に寝れないよりは良い案かもしれぬ・・・」
勘弁してください
俺も20歳の普通の男なんです
「・・・まぁ、とりあえずこれからよろしくな」
俺はリカに手を差し出す
「は、はい!!!」
少し涙ぐんでいたリカは俺と会ってから見せたどの表情よりも、綺麗な笑顔を浮かべながら俺の手を握ったのだった
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