第31話 面会
「君がボット君だね?勇者ジャックボットでの活躍は私の耳にも良く入るよ」
俺が連れてこられた場所は昨日リカを近くまで送ったハイド家
アキには心配させない様に『朝飯の材料を買ってくる』と置手紙をしておいた
屋敷に入ってからはメイドに連れられ応接間に通される
そこには50代位だろうか
威厳のある中年が座っている
「こちらに座りたまえ。私の名はシゲル・ハイド。現ハイド子爵だが・・・まぁ、今は姪に仕事を全部任せた隠居者だ」
「お招きいただき誠にありがとうございます。私は勇者ジャックボット創設者の1人、ボットと申します。以後、お見知りおきを」
子爵は爵位で言えばそこまで高い方ではない
公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順で5つの位があり、言ってしまえば下から2番目
だがハイド家は『鑑定・大』だけで成り上がった一族であるが故に、武功での陞爵がない為子爵止まりではあるが、その役目から王家・公爵家との繋がりも深い
今の王も成人の儀の時にはハイド家の鑑定を受けているのだ
ハイド家は侯爵以下には皆一目置かれているとか
「まぁそう硬い表情をするな。別に何か君に不都合な事をするつもりもない。ほら、飲みなさい」
シゲルはメイドが持って来た紅茶を俺に勧めて自分の分の紅茶に口をつける
「・・・さて、本日呼ばせてもらった理由だが。実は私には姪が居てね」
「姪・・・ですか?」
完全にリカの事だ
「あぁ。リカ・ハイドと言う子で次期当主に指名しているのだが・・・これがまた良い子でね」
シゲルは親馬鹿ならぬ伯父馬鹿なのかもしれない
「そのリカ様が何か?」
「リカは昨日まで地方の教会に出ていてね。帰ってくるなり『町で優秀な人物の噂を聞いた』と私に報告してきたんだ」
まさか・・・
「君だよ。ボット君。リカは『何なら自分の夫にしてでもその方をハイド家と関係を持たせるべき。きっと彼は大成する』と言いきった」
「お、夫・・・ですか?」
何故か突拍子もない話になっているな・・・
シゲルの目が細くなる
あっ、伯父馬鹿かもしれないでは無く、完全に伯父馬鹿だ
「我がハイド家は成人の儀に使われる魔法の中でも最もレベルの高い『鑑定・大』を扱う唯一の家系でね。教えるのは当主が次期当主にのみだから使える素質の子を絶やさない様に子供を多く作る。普通は成人とみなされる15歳の時には結婚を複数人とするのだが、リカは20歳になっても『まだ神に仕える未熟な身だから』と一切結婚をしようとしなかった。とても綺麗な見た目でね・・・王族からも求婚される位なのに断ってしまったのだよ・・・そんなリカがだ」
手に持っていたティーカップをソーサーに置くシゲル
「急に『噂』止まりでしか知らない君を、夫にしてでもそばに置いておきたいと言ったのだよ。おかしいと思わないかね?いくらあの勇者ジャックボットのメンバーである君でもだ。
成人してすぐ彼女は勇者を鑑定している。それなのにリカは会った事のある英雄ジャック君ではなく、噂止まりの君を選んだ。更に王族ではなく庶民の君を選んだんだ・・・君は・・・」
シゲルが俺の顔を見る
「一体、何者なのだ?」
「・・・自分はただの鍛冶職人です」
「『ただの』か・・・それはない。昨日使用人に頼んで君のパーティの事を少しだけ調べさせて貰った。有名なパーティだから数時間で済んでいたよ。君の作ったパーティに途中入会したメンバー、リク君、アヤカ君、レナ君。彼らは勇者ジャックボットに入るまで何の功績も残してはいなかった。
勿論、リク君もアヤカ君もドワーフとエルフの中では期待されていた様だが、功績らしい結果を残せてはいない。それがパーティに入った途端瞬く間に功績を上げ『英雄』扱いだ・・・パーティに誘ったのは君らしいね?」
さすが貴族と言うべきだろうか
シゲルは質問形式で聞いているが聞きたいのは答えではない
『少し調べた』なんて言ってはいるがシゲルの中で答えが分かっている位、勇者ジャックボットを調べつくしている
今、シゲルが知りたいのは俺の出方だ
「はい。リクもアヤカもレナも、パーティの調和を崩さない性格とその優秀さで誘いました」
「確かに優秀ではあっただろう。だが、パーティに入った途端、明らかに彼らは努力と言うだけでは到底説明不可能な大幅な能力向上を短期で果たしている。彼らがパーティに入って変わった事・・・それは・・・」
シゲルは数枚の紙を取り出す
「装備だ。混ぜる魔石の種類を変える為に何度か作り直されてはいるが、ジャック君は長剣、リク君は盾、アヤカ君は腕輪でレナ君は杖の装飾品をパーティ結成・またはパーティ入会した瞬間から君が1から鍛冶で鍛えた物に変えている。
この紙は彼らのパーティでの初期装備に混ぜた魔石が書かれているが、低ランクの魔石でも1.4倍近い能力向上だったらしいとまで書かれているよ。優秀な鍛冶職人でもSランク魔石使って1.1倍が限界だろうに」
紙の一部分を指でさしている所には装備について詳しく書かれていた
「一体、ハイド子爵が何を仰りたいのか・・・」
「この原因、つまり装備を作った君を『ただの』鍛冶師と片付ける事は出来ない。何か、良い潜在魔法か習得魔法を持っているんだろう・・・そもそも・・・」
シゲルは紙から俺に視線を戻す
「私は君の適正職業が『鍛冶職人』では無いとすら思っているよ」
全く墓穴を掘る回答をしていないのに理詰めで逃げられない様に追いつめられている
この人は俺に何を聞きたいんだ・・・?
「いえ、私は『鍛冶職人』と5年前に鑑定をいただきパーティに従事してまいりました」
「うむ、5年前の記録は私も見ているよ・・・では、私が再鑑定をしてあげよう。現役から退きはしたが『鑑定・大』は使える。王族・公爵家しか普段は使用されない『鑑定・大』で鑑定される機会と言うのは一生に1度有るものではない。どうかね?」
・・・これがシゲルの狙いだったか・・・
この人はリカがそこまで推す俺を調べたら何か特殊な物を持っていると分かり、鑑定したくて呼んだ
それを断られない様に今まで遠回りに話を進めてきたんだ
「お断りする事は?」
「勿論、可能だ。貴族は庶民に対し、徴税・防犯・防災、庶民の生活向上に関する事以外を強制することは王命によって禁止されている・・・だが・・・」
シゲルの目がギロリと光る
「普通は大金を積んででも願われる事の多い『鑑定・大』を何のデメリットも無い状況で断る。おかしな話だ・・・これは・・・今度の王家とのお茶会での世間話にでもしようか・・・」
遠回しに脅してくるシゲル
・・・ここまでか・・・
「わかりました、鑑定をお受けしま・・・」
『ドタン!!』
その時、勢いよく応接間のドアが開く
「はぁ、はぁ・・・伯父様!何をしていらっしゃるのですか!?」
そこに居たのは息を切らしながら走って来たリカだった
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