第30話 買物
リカの言葉に俺とアキは顔を見合わせる
「な、なんなのでしょうか・・・この『龍を支へし英傑』と言うのは・・・」
リカは俺の頭上を凝視したままだ
「リ、リカ?大丈夫か?」
「は、はい・・・度々お見苦しい所をお見せいたしました・・・ですがこの様な事は初めてでして、適正職業が変わると言うのは伯父様からもお聞きした事のない現象です・・・」
リカはようやく俺の頭上から顔に目線をずらす
「そんなに珍しいんだな。俺は鑑定が使えないからリカみたいに見えてないし、凄いのかどうかも何とも言えないんだが」
「多分、成人の儀で鑑定の魔法を使用する慣例が出来てから初めてじゃないでしょうか・・・仮に適正職業が気に入らなくてもその職業に就く必要はありませんし、潜在魔法が適正職業に合った物と言うだけですので。あっ、潜在魔法は・・・」
また俺の頭上を見る
「んー・・・ボット様の潜在魔法は変わっておりませんね・・・『創作物向上 対親愛』とは鍛冶職人にも龍を支へし英傑にも合った潜在魔法と言う事でしょうか・・・?まず、あの他種に干渉しない龍を支えると言うのも聞いた事のない話ですし、ボット様のパーティは『英雄』とは称されておりますが『英傑』と称された人物を聞いた事がございません・・・」
独り言なのだろうか
リカはブツブツ呟きながらあーでもない、こーでもないと考えている
「リカ、聞きたい事と言っておきたい事がある。いいか?」
俺の問いかけにリカは俺の顔を見て少し考えたのかちょっとの沈黙が起き、それから小さく頷く
「・・・はい、お伺いしましょう」
「まず聞きたい事。この『龍を支へし英傑』と言う職業。想像でもいい、どんな職業だと思う?」
「そうですね・・・龍を支えると書いてる位なので龍種に関係しているのは間違いないかと。ただ『英雄』と称されたジャック様の職業が『勇者』であったように、『英雄』や『英傑』と言った職業を聞いた事はありませんので、本当に想像止まりになってしまいますが・・・」
リカは少し上を向いて考えている
「・・・やはり、『勇者』『賢者』『聖女』と同じく固有職だと思います」
この国にはまず適正する人数が少なく更にその中から1人しか選ばれない職業や、そもそも適正職業すらその時代に1人にしか現れない職業がある
ジャックが複数人の勇者候補から選ばれて勇者になった様に前者には『勇者』『賢者』が当てはまり『聖女』はそもそも1人しかその時代には生まれないらしく後者に当たる
選ばれなかった勇者候補達も適正職業『勇者』と言うだけあって強力な潜在魔法があり近衛騎士等好きな職業に就けているとか
この3つは『固有職』と呼ばれる、いわば子供たちの憧れの花形職業であり、現在存在しているのは勇者のみ
「あぁ、今のリカの話を聞いて俺もそう思う。そこで頼みがあるのだが・・・この事、黙っておいて貰えないだろうか?」
「・・・何故ですか?これを国に報告し、新たな固有職と公表すれば世間からのボット様への目もかなり変わると思いますが」
「だからだよ。俺はアキと暮らす事になって静かに冒険者としてやっていこうと思ってる。勇者ジャックボットのメンバーではあるが戦闘要員でもないしな」
俺は横にいるアキの頭をクシャっと撫でる
「だから、公表されて忙しくなったらこいつに料理を作ってやれないからな」
「ボット・・・」
アキは俺を見上げ俺の服の脇腹の部分をギュッと摘まむ
まぁ、実際は『龍を支へし英傑』の龍はアキだからずっと一緒だろうけど、リカはアキの正体は勿論、勇者ジャックボット解散も知らないしな
「本当にお優しい御方ですね・・・かしこまりました。リカ・ハイド、神に誓ってお約束いたしましょう」
「あぁ、助かるよ。じゃぁ、服を買いに行くか・・・ってその前にアキの冒険者登録しないとな」
「アキ様も冒険者に?」
「うむ、ボットと2人で組むのじゃ!!」
「あぁ、アキはこう見えてかなりの腕なんだ」
アキは嬉しそうな顔をリカに向け、俺の言葉にキョトンとした顔をするリカもそれにつられた様に微笑んだ
「おっ!お話は終わられましたか?」
受付に戻った俺達3人をマイが迎える
「あぁ、リカを家まで送ろうと思う。その前にアキと俺2人パーティの冒険者登録をしたいんだが頼めるか?」
「えっ!?アキさんを冒険者にですか!?以前、ただ料理を食べさせるだけと仰ってませんでしたか!?」
マイがドン引きの顔で俺を見る
「なんとわらわはボットと共に住む事になったぞ!その為になかなか良い家も買ってくれての!今後ともよろしくじゃ!」
「あっ、こら!!余計な事を言うな!?」
俺は胸を張って嬉しそうに言うアキの口を塞ぎ恐る恐るマイを見る
あっ、完全に犯罪者を見るような目になってる・・・
「私があの時止めておけば・・・やっぱり男は狼・・・」
「いや、手を出してないから!?勘違いが凄いぞ!?」
「・・・はぁ・・・で、2人パーティ申請ですね。パーティ名は『狼と食べられた少女』で良いですか?」
「良い訳ないだろうが・・・」
「ふふっ・・・」
俺とマイのやり取りを見て笑うリカ
「まぁ、パーティ名はまた後々申請するから、とりあえずパーティ申請だけ通してくれ。個人冒険者登録はしないみたいだからパーティの方だけで良い」
「・・・分かりました・・・アキさん、無茶は駄目ですよ?絶対に依頼中はボットさんから離れたら駄目ですからね?」
「うむ!分かっておる!」
・・・多分、マイは『ボットに守ってもらえ!』と言う意味で言って、アキは『自分がボットを守る!』位の意味にとってるんだろうなぁ・・・
無事、パーティ用の冒険者登録も済ませた俺とアキは鉄で出来たEランクプレートを貰い、リカの服を買うために外に出る
アキは「これでボットと一緒にどこでも行けるのじゃー!」と小躍りしている
いや、Eランクだからどこでもは無理だけどな
「さて、リカの服だが・・・今着ているのも結構良い品質っぽいが、いつもはどこで買うか決まっているのか?」
俺はリカに尋ねる
「はい、いつもハイド家ご用達の衣服店で購入しております」
「ハイド家ご用達か・・・そこで買ったらハイド家にリカに何かあった事が伝わるかもな。違う店でも良いか?」
「お気遣いありがとうございます。はい、お願いいたします」
「分かった」
それから約10分後、俺達はウィンドウショッピングを楽しみながらリカに合いそうな店を見つけ服を試着している
リカは神官服に近いシックな黒色の服を選んで綺麗に着こなしていた
「では、これにします」
「分かった。すみません、これ買います」
俺は店員に金貨を数枚渡す
「ぼ、ボット様!お金は私が・・・」
「いや、俺から誘った外出だからな。俺に払わせてくれ。勿論、庶民が出せる金額には限界があるけどな」
「あ、ありがとうございます・・・」
リカは俯きながら御礼を言っている
もしかして何か庶民に金を払われるのって貴族のプライドやしきたり的にダメだったのだろうか?
「これは・・・こやつも惚れたかの・・・」
アキは俺に聞こえない位の音量で何か呟いている
「アキ、どうかしたか?」
「いや、何でもないのじゃ。それよりボット、早く出店をまわらなくては!リカも早く早くなのじゃ!」
アキはそう言って俺とリカの手を引っ張って行くのだった
「では、ここで。本日はありがとうございました」
屋台で少し食べ歩きをして、ハイド家の屋敷に近くなった所でリカはそう切り出す
「大聖堂の神官は大変だろうし、もう十分頑張ってるのは見ていて分かるから更に頑張れとは言わないが、無理はするなよ?」
「・・・はい、本当にありがとうございました」
少し暗い顔をするリカ
貴族の生まれと言う事もあり庶民の屋台を食べたり町をこんなに自由に歩くのは初めてだと言っていたし、とても楽しくこれで終わるのが寂しいのだろう
「じゃぁな。アキ、帰るぞ」
「うむ!リカ、またなのじゃ!」
俺とアキは自分の屋敷に向かって歩き出す
「『また』・・・そうですよね・・・また、会えますよね。いや・・・ボット様みたいに私自身が動かないと・・・」
リカが小言で何かを言った
俺は良く聞こえずに振り向いたがそこには綺麗に微笑むリカがこっちを見ているだけ
俺は軽く手を振り家路についた
帰宅途中もアキはずっとそわそわしていたが、屋敷に入った途端我慢が出来なかったのだろう
『がばっ』
急にアキが抱き着いて来て、俺は何とか受け止める
「おわっ!アキ、どうした!?」
「・・・えへへ!」
物凄いだらしない顔でにやけるアキ
それからのアキは「わらわとボットはやはり運命だったのじゃー!」とか「ボット、物語通りならお主が世界を救うかもしれぬ!」とか、ずっとはしゃぎ続けている
「ボット、わらわ達が生涯のパートナーなのがリカによって確立されたのじゃ!
!龍を支へし英傑が知っておる龍は誰かの?わらわだけじゃ!つまり、このアキがボットのパートナーなのじゃー!!」
「はいはい、もう遅いし寝るぞ・・・あぁ、俺に世界を救うとか本当に出来んのか・・・?」
俺は本当にこれから来るかも分からない5000年毎の災厄と言う面倒事に目を塞ぎながらその日を終えた
次の日、誰かがドアのノッカーを使ってたてた音で起きる
「誰だ・・・こんな朝早くに・・・」
俺は部屋を出て下に降り屋敷のドアを開ける
そこに居たのは武装した数人の騎士達
「早朝失礼する。私はハイド家騎士総長のカイトと申す。ハイド家当主シゲル・ハイド様が貴殿との面会を望まれている。今から同行をお願いしたい」
寝ぼけた頭でもその一言で理解できたのは、これから英傑が救う災厄の面倒事とは全く関係のない面倒な事が起きそうだと言う事だけだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます