第29話 鑑定
「『鑑定・大』って、この国で1人しか使えないって言う魔法じゃないか。リカってかなり凄い魔法使いなんじゃないのか?」
リカは少し照れくさそうに笑いながら答える
「私はまだまだ未熟な身ではございますが、『鑑定・大』はハイド家が大聖堂で仕える家系になれた理由の魔法です。ハイド家は子を多く持ちその中から鑑定魔法の才を持つ者を見極め当主から直接指導され次期当主になる、いわゆる一子相伝の魔法です」
「ん?習得魔法って遺伝しないはずじゃないのか?」
ジャックはビルドアップの大レベルが使えるがジャックの両親は小すら使えない
「はい。なので本当にたくさんの子供を作り、ハイド家の名を持つ者から何とか使える者を出し続けている状況です。ですのでハイド家は当主が男性でない場合もありますし、当主の子供ではなく甥・姪やさらに遠戚の方が次期当主になる事も十分あります」
この国は一夫多妻も一妻多夫も金銭にゆとりがある貴族ならば認められている
跡継ぎができずに家が断絶するのを防ぐためだ
ハイド家はそれを利用して何とか『鑑定・大』を使える素質を持つ子供を作っているのだろう
「私の場合は父の兄である伯父様がハイド家当主を務められ、次期当主として私が選ばれました。ですので実際には使える人間は2名いるのですが、次期当主が選ばれた時に当主は役目を辞退して次期当主に役目を渡し隠居すると決まっております。なので実質、15歳の成人の儀の鑑定で『鑑定・大』を使えるのは私だけと言う事になるかもしれません」
「沢山の子の中から唯一選ばれたのはやはり凄い才だったんだな」
「ありがとうございます。そう言っていただけるとハイド家次期当主として凄く自信になります。本来は王族・公爵家の方々・また特例の時にしか使う機会がありませんが、今回の事件で私は死んでいてもおかしくは無く、そうなればハイド家にとってかなりの痛手になってしまう所でした。お礼になるかは分かりませんが、もしよろしければボット様・アキ様ともに鑑定させていただきますが・・・」
リカは俺達の顔を伺う
俺達は互いに顔を見合わせる
まずいぞ・・・
俺を鑑定するのは大歓迎だ
だが、アキの潜在魔法は名前は違うかもしれないが効果は『人化』に関する事で間違いない
国の人間にそれがバレるのは国にアキが人ではないとバレる事になる・・・
「わ、わらわは遠慮しておこうかの!」
「そ、そうだな!アキはまだ10歳超えた位で15歳の時に成人の儀で鑑定して貰うのを楽しみにしていたんだもんな!」
「そ、そうなのじゃ!」
俺とアキは咄嗟に言い訳をする
「そうでしたか・・・残念です。では、アキ様は15歳になった折に大聖堂に訪ねていただけたらと思います。門衛の方に伝えていただけると必ず私が伺い鑑定させていただきますので」
「う、うむ!嬉しいのじゃ!」
アキ・・・さすがに動揺しすぎだぞ・・・
リカは気付いていないのか俺に向かって話を再開する
「では、ボット様を鑑定させていただきますね」
「あぁ、頼むよ」
「かしこまりました。実は・・・王族・公爵家の方以外で私が鑑定するのはこれが2度目なんです」
「へぇ、それはありがたいな」
「はい、私が15歳になって次期当主になった時の初めての鑑定が勇者ジャックボットのジャック様でした。つまりボット様の親友の方ですね」
「・・・なんだ、俺の事を知っていたのか」
リカはクスクス笑いながら頷く
「先程、マイ様からメンバーである事はお聞きしていましたが、実は私が15歳になった5年前には既に、同い年でまだ冒険者にもなっていないボット様を存じておりました」
「どういうことだ?」
「町の教会で地方の神官が成人の儀として子供たちを鑑定した時、数十年居なかった適正職業が勇者の方が数名もあらわれ、当時現役だった伯父様により再鑑定される事になりました。大聖堂は王族・公爵家の方だけなので王城の中での鑑定をしたのですが、その時住まわれている町から城までの距離が遠いジャック様は他の方より数日遅れて到着されました。到着された前日が私の15歳の誕生日で伯父様はすでに引退され、次期当主の私が1対1で初めて鑑定させていただいたのですが・・・」
思い出したのかまたクスクス笑うリカ
「まず、席に着くなり私への第一声が『勇者をやっても良いけど、パーティ組んじゃダメか?俺、どうしてもボットと言う友人を連れていきたいんだが』でした」
「ジャックが・・・」
「はい。興味本位で『ボット様と言う方はどの様な御方なのですか?』とお聞きしたら『自分を犠牲にしてでも他人の為に動く、俺よりも勇者みたいな奴』と。
伯父様からお聞きした他の勇者候補様は自身への特別感と他者への優越感を持っていたと聞き、勇者候補様は皆その様な方と思っておりました。ですが、ジャック様は適正職業が勇者でも傲りも無く、まずボット様を『自身よりも勇者みたいな方』と言われる事にとても驚き、私はお二人ともに大変興味を持ちました。ですので・・・」
リカは俺の目をまっすぐ見る
「お礼とは申しながらも、1度どの様な方かボット様を私自身鑑定してみたかったと言うのもあります」
「いや、それはジャックの買い被りの部分が大きい気がするが・・・」
あいつは本当に俺を過大評価しすぎる所がある
「確かに、それからのパーティの活躍を新聞の報道等で見るにボット様は殆ど表舞台に出ておられず、ジャック様のコメントでお名前が出るだけ。私も、親友として精神的に側に置かれたい方なのだろうとボット様を失礼ながら見ておりました。ですが・・・」
リカが俺の手を取る
んな!?っと言う顔で驚くアキ
「マイ様からお話を聞きました。ゴブリンキング相手なら死ぬ冒険者も多くいると。命を懸けて助けて下さった貴方はジャック様の評どおりの御方でした」
「たまたま運がよかっただけだ。せっかく助かった命。今後は大切にしてくれ」
「はい、感謝いたします・・・」
「・・・って、これ!?いつまでボットの手を握っとるんじゃ!?」
アキがリカの手を俺から剥がす
「も、申し訳ございません・・・。そ、それでは、鑑定の方に移らせていただきます・・・」
リカは顔を赤くしながらも咳払いで平常心を取り戻して『鑑定・大』を使う
「では・・・『神の祝福を汝に 鑑定』」
俺の頭上に鑑定結果が出ているのだろう
リカは俺の頭の上を見る
「まず潜在魔法ですが・・・」
「ちょ、ちょっと待て!?俺、潜在魔法持っているのか!?」
今まで一切発動せずに持っていない可能性が高いと思っていた潜在魔法
まさか持っているのか?
「はい、お持ちのようです。ただ名前しか分からないですし、唯一無二のも多いのでどの様な効果までは分かりかねますが・・・」
リカは俺の質問に応える為に顔を見ていた目を再度俺の頭上に戻す
「・・・えーと、『創作物向上 対親愛』と書かれておりますが・・・」
「創作物向上?聞いたことないが多分鍛冶職人だからの魔法だろうな・・・」
「ボット、多分と言うか間違いなく、お主の鍛冶したこのガントレットとやらでわらわを飛躍的に向上させた原因の魔法じゃろう・・・」
俺とアキのやり取りにリカが説明を入れる
「潜在魔法は自動で発動する物が殆どですので、もしその様な経験があれば間違いないかと思います」
「だけど、俺が昔に普通の鍛冶職をしてた時は出来自体は他の鍛冶職と変わらなかったぞ?」
「それは、『創作物向上 対親愛』の『対親愛』部分が関係しているかと・・・推測ですが、他人の為に作る物に限り親愛度に比例して能力が上がるのではないでしょうか?ジャック様から『自分を犠牲にしてでも他人の為に動く』と聞いた通り、ボット様らしい魔法だと思います」
そう言いながら頷くリカ
「・・・なるほどな・・・」
今まで、鍛冶をして褒めてくれた人物
パーティメンバーであるジャック・アヤカ・リク・レナに家族のアキの5人
確かに皆仲間として大切に思っている人達だけが褒めてくれていた
当時は仲間だから俺に気を遣って褒めてくれていたと思っていたが・・・
「って、ちょっと待て・・・アヤカにはSランクの魔石を使って魔力が2倍以上止まりだったが・・・アキは魔石を使っていないただの鉄の防具で魔力10倍・自動回復に身体能力向上・・・」
俺はゆっくりとアキを見る
アキはこれでもかと胸を張りムフーとどこまでも勝ち誇った顔をしている
「そうか、そうかの!!ボットはそんなにも、わらわを愛しておったとは!!いやー、困ったもんじゃ!!」
くそっ、調子に乗ってる・・・と苦笑いしながらアキを見ているとアキはハッとした顔をした
「・・・ん?もしかしてじゃが、創作物ってボットが作る料理も関係しているんじゃないかの?」
「んー・・・鍛冶職だから鍛冶だけ・・・と思いたいが、確かに料理を美味しいと褒めてくれたのはパーティメンバー4人とアキだし・・・いや、待て。アキが最初に食べた俺の弁当は認識すらないアキの為に作った訳じゃないし親愛以前の・・・いや、あれもパーティの為に作った晩御飯の残りを詰めたんだった・・・」
冒険者で怪我をして引退し、鍛冶職人で食っていけなかったら料理人になろうかと密かに思っていたのに、俺の人生設計にピンチが訪れる・・・
「料理にも適用されていると考えて間違いないと思います。『鍛冶物向上』ではなく『創作物向上』となっているので、とても応用が利く素晴らしい潜在魔法とボット様は胸を張っていいかと思います」
本人は俺を褒めているつもりだが、俺の将来設計の諦めにとどめを刺すリカ
「お、おぅ。リカ、潜在魔法があるって知れて本当に良かった!ありがとうな!」
「いえ、お気になさらないでください。次、習得魔法の素質に関してですが、これは今現在ボットさんが持っている魔力で中レベル以上の魔法が使える属性・系統を知ることができます」
「ん?今現在と言う事は将来使える属性・系統が増えたり減ったりするのか?」
俺の問いに頷くリカ
「はい、滅多にないのですが、例えば輸血をした時にその血液が持っている魔力と患者の魔力が相性が良ければ使えたり、逆に相性が悪ければ今まで使えていた魔法が消えたりもする様です」
例えば蝶と言っても沢山の種類があるように魔法にも属性・系統もある
レナが使っていた氷魔法やリクが使っていた土魔法は属性分類になるし、それでは説明できない魔法、つまりジャックのビルドアップやアヤカのヒールは系統魔法に括られている
「へぇ、普通に知らない事ばかりで勉強になるな・・・」
「では、読み上げますね・・・ボット様が素質をお持ちなのは『氷・土・雷・回復・強化』の5種類になります。おめでとうございます。一般の方で1つも素質が無い方も多い中、5種類はとても多い方だと思います」
「まぁ、パーティメンバーが凄すぎてどうしても霞んでしまうがな・・・氷・土は既に中レベルを使えるが、ヒールとビルドアップも努力すれば中になると言う事だな。雷は周りに使う人が居なかったからそもそも使おうと思ったことがないが・・・リカ、これって大レベルまで行けるか分かるか?」
俺の問いに申し訳なさそうに答えるリカ
「申し訳ございません・・・そこまでは残念ながら・・・」
「あぁ、すまない。気にしないで欲しい・・・で、最後に適正職業が『鍛冶職人』と言う事だな。本当に助かったよ。リカ、ありがとう」
俺とジャックは15歳の時『鑑定・小』しか使えない神官に成人の儀をしてもらい分かったのは適正職業だけだった
ジャックは勇者判定だったのでその後リカに再鑑定をして貰ったが、俺は鍛冶職人なのでそこで終わりだ
なので今回の機会は本当に大きな収穫になった
「いえ、お役に立てて本当に嬉しいです。はい、適正職業は鍛冶しょ・・・えっ・・・うそ・・・」
リカは俺の頭上を見て目を見開く
「どうかしたか?」
「適正職業の『鍛冶職人』の文字がどんどん薄くなってきています・・・あっ、全部消えてしまいました・・・こ、こんな事は初めて・・・」
明らかに動揺するリカ
「リカ、だ、大丈夫か!?」
「えっ・・・また文字が浮かび上がってきました。まさか適正職業が変更されるなんてそんな事が・・・出てきた文字は・・・」
リカは目を細めて浮かび上がった文字を読む
「適正職業の所に 『龍を支へし英傑』 と、書かれてます」
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