第28話 神官
「リカさん、先程お話された冒険者の方がちょうど来られましたよ!」
そう言ってギルドに置かれている職員用の仮眠室の扉を開けるマイ
ゴブリンキングに攫われたリカと呼ばれた女性はベッドの上で体を起こして粥を啜っている
「ごほっ・・・すみません。お見苦しい姿をお見せしました」
急な来客に驚いたのだろうか
リカは粥に咽ながらもこっちを見る
「お2人が私を助けて下さったのでしょうか・・・?申し訳ございません、その時の記憶があまりなく・・・」
俺達に挨拶をしようとしているのかベッドから降りようとする
「お、おい!?無理はするな。凄い失血量だったんだからそのままで良いから」
「お気遣いありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて・・・」
ベッドの上に戻るリカ
マイは自分の役目は終わったと思ったのか、俺に話しかける
「それじゃぁ、私は業務に戻りますね!急用でなければ、また後でボットさんのご用件を伺います!」
「あぁ、分かった」
「マイ様、大変美味しかったです。ありがとうございます」
リカはマイに頭を下げる
マイはいえいえと手を振りながら受付に戻って行った
リカは俺に向き直り話を始める
「私の名前はリカ・ハイドと申します。お助けいただき誠にありがとうござます」
「俺はボットだ。って、貴族だったのか・・・すまない、態度を改めるべきだな」
「いえ、構いません。ボット様達は命の恩人の方々ですので、私にはそのままで結構です」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「わらわはアキじゃ!」
「アキ様も誠にありがとうございます」
この国の庶民は名前しか持たない
もし、グループの中に同じ名前が居たら後ろに父の名前か住んでいる地方名を付けて名乗り区別する
しかし王族を始め貴族にはファミリーネーム、いわゆる苗字が与えられる
ハイド家も貴族の1つだ
ちなみにジャックにも貴族姓授与の打診があった
が、差別意識が強い魔族の血が入ってるレナは勿論、他の種族のアヤカ・リクには打診が無く、当たり前だが俺にも無かった
なのでジャックは貴族を断る気満々だった
ただ、俺が『全ての褒美を断れば謀反の疑いをかけられるかもしれない。かけられない様に他の褒賞を望め』と言うと、ジャックは貴族特権は要らない代わりにハーフ魔族として辛い思いをしていたレナにを何か特権を与える様願い出た
王は了承しようとしたが、それを聞いた一部貴族は『魔族にその様な物を与えるとは!』猛反発したらしい
しかしマスコミは『勇者、自分の褒賞を返上してでも仲間の為に!!』と報道し、世論はジャックの行動を称えた
王族・貴族とは世論を気にするのが世の常
反対していた貴族は数日後には手のひらを反す様にジャックの申し出に賛同し、ジャックの勇気を褒めたたえた
それからすぐ、レナに人族への貢献とパーティでの重要な役目に対する褒賞として特別名誉国民権が与えられることになる
冷華と呼ばれた無表情の事が多いレナが珍しく泣いていたのを今でも覚えている
「そう言えば、何でゴブリンキングに攫われる様な場所に貴族が1人でいたんだ?」
「私の家系は代々神官をやっておりまして、私も大聖堂の神官として神に仕えている身なのですが、近くの町の教会に仕える神官の方が御高齢で体調が優れないと言う事で一時的に伺っていたのです」
「へぇ、大聖堂って王族・貴族の中でも王の血筋の人間しか入れない所じゃないか。リカって凄いんだな」
大聖堂は王族・公爵家が年末年始の祈りは勿論、15歳になった子供を鑑定してもらったりと格式高い場所だ
「いえ、私はたまたまハイド家に産まれただけの身ですので・・・行きは護衛の方々が居たのですが、町の神官の方の体調が早く回復いたしまして、帰りの護衛を町で待つより1人で帰ろうと。貴族の私が居れば神官の方が気を遣いまた体調を崩されるかもしれませんので・・・その帰り道、襲われてしまい・・・」
「なるほどな・・・って、丸2日寝てたらしいが家族は心配しないのか?貴族の娘が攫われたら大騒ぎにならないか?」
大聖堂で神に代々仕えるハイド家の娘が帰って来ない
下手すれば他種族が拉致したのではと戦争になる恐れすらある
「それは大丈夫かと。本来、町の教会には本日の夜まで居る予定でしたので。ただ・・・」
リカは自分の服の破れた部分を見る
「この服で帰るのは難しいかもしれません・・・幸い神官服ではなく私服だったので何処かで買って着て帰ろうかと思います。ボット様・・・」
リカは俺の顔を見た
「命を助けていただき本当にありがとうございます。マイ様からお聞きしました。ゴブリンキングに襲われたと・・・そのゴブリンキングは・・・」
リカは急に真っ赤な顔をする
「ゴブリンの中でも一際体が大きく、同じゴブリンでは・・・その・・・せ、生殖行為が出来ないと言う事で人を攫う事があると・・・」
あー、確かにゴブリンキングは2メートルはあったが普通のゴブリンは子供サイズだったしな
リカは貴族と言うだけあって品もあるし、かなり美人だ
ゴブリンキング、面食いだな・・・
「そ、そうなのか・・・何はともあれ、無事でよかったよ」
「は、はい・・・あの、今回の御礼なのですが何か望まれる事はございますか?出来る範囲にはなりますが・・・」
「いや、良いよ。礼を望んだら今回の攫われた事が公になる。そうすればリカが怒られるだけじゃなくハイド家としても問題になるんじゃないか?」
「で、ですが、神に仕える身として恩人に何もしないと言うのは私には耐えがたく・・・」
潤む目で俺を見るリカ
「なら、今からアキと3人でリカの服を買って買い食いでもしに行こうか。と言っても食べ物は消化に良いスープとかな。帰りも途中まで送るし。まだ起きたばかりで1人で帰らせるのは危険だ。アキ、それでも良いか?」
「うむ、ボットが良いのならわらわは構わんぞ?せっかくボットが助けた命じゃ。ここで転んでさらに怪我されても困るしのう」
俺達の提案に本当に申し訳なさそうな顔をするリカ
「ほ、本当に何から何まで申し訳ございません・・・誠にありがとうございます・・・あっ、そうだ・・・私には唯一他の方に喜ばれる魔法がございまして・・・」
リカは思い出したようにこっちを向いた
「・・・私、『鑑定・大』が使えるのですが、もし宜しければ何かお手伝い出来ませんでしょうか?」
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