第26話 装備

「さてと・・・じゃぁ始めるか」


「何を始めるのかの?」


「まぁ、見とけって」


俺とアキは朝御飯を済ませて庭に出る。


ライラがバラを植えていたと言っていた所は黒土で雑草等が茂っており荒れていたが、屋敷の敷地の端っこに雑草の少ない粘土質の土で出来た場所があった


そこには屋敷の暖炉にくべる薪を作る為に必要な薪割り作業の時、下敷き土台として使われていた丸太がある


「アキ、俺が何の役割で勇者ジャックボットに入っていたか、この前の話を覚えているか?」


「うむ、料理人じゃろ?」


「ちがうわ!?鍛冶職人だ!?」


「にしし!ちゃんと知っとるぞ!からかっただけじゃ!」


「ったく・・・だから、アキに何か作ろうと思ってな。冒険者になると言っても基本人化のままでの行動になる。その見た目で素手よりは装備が有ったほうが確実に良いからな」


俺は置いてあった丸太をツールログ(ハンマー、やすり・ふいご等を引っ掛けたりしておくための金属の針金を巻いた丸太)として使うために針金を緩く巻き付け固定する


「なんじゃと!?わらわに作ってくれるのか!?なら、結婚ゆび・・・」


「さて、何を作ろうかなぁ」


俺はアキの話を被せる様に独り言をつぶやく


「むぅ・・・意地悪なのじゃ・・・」


アキがムスーと不貞腐れている


「まぁ、そういうな。今、俺が作るのは本当に家族・仲間として認めた奴にだけだ。まぁ俺が世間から鍛冶師として必要とされていないと言うのもあったがな」


昔、勇者ジャックボットがジャックと二人きりで世間的には本当に無名だった時代


俺はパーティの資金を稼ぐために一般向けに鍛冶師をしていた


冒険前から数年鍛冶見習いとして修業はしていたから鍛冶師として色んな物を作ったり直したりしたのだが・・・


良くも悪くも『普通』だった


しっかり仕事はこなして文句も殆どでないが、客が唸る程かと言われたら答えは否だ


俺である必要性は全く無かった


しばらくしてメンバーも5人になり、収入も安定して冒険稼業に専念する事になって一般の鍛冶業はやめ、パーティ専属になったのだった


だが、常に俺の鍛冶を絶賛する4人が居た



勇者ジャックボットのメンバーだ




「何だこれ!?軽いのに鉄がバターみたいに切れるぞ!?」と、長剣を振り回すジャック


「ねぇ、何、この腕輪!?魔力が倍・・・いや、もっと上がるんだけど!?今までこんな魔道具、見た事も聞いた事も無いよ!?まさか神具!?」と、わなわなと震えながら着けた腕輪を眺めるアヤカ


「ボット・・・お主、ドワーフの国にも敵の攻撃を受けて傷も付かない盾を作るやつはおらんぞ」と、盾を見ながら呟くリク


「おかしい・・・私、こんな威力の魔法は撃てないはず・・・」と、杖に装着したアクセサリーに触れるレナ




俺が鍛冶した物を唯一褒めちぎってくれた仲間


「いや、褒めすぎだから。確かに皆が手に入れた魔石を使ってはいるから効果は多少あるだろうが、そこまで驚く程じゃ・・・」




「「「「いや、絶対おかしいから!?」」」」




手に入れた魔石を砕き鍛冶中に混ぜると中の魔力が溶け出し様々な効果をもたらす


Sランクパーティだけあって討伐して手に入る魔石はどれも一級品


メンバーに合わせた魔石を使っているので魔石の力はあるかもしれないが、俺の実力ではない


本当に俺がパーティに居やすい様にしてくれていた良い仲間達だった


「ボット?大丈夫かの?」


アキが俺を心配そうに見つめる


「あぁ、すまん。昔、仲間が俺の作ったのを褒めてくれたのを思い出してな。アキにも褒めてもらおうと何作ろうか迷っていてな」


「わらわは、自分の為に。つまりわらわの為にボットが作ってくれる。それだけで幸せなのじゃよ!だから任せるのじゃ」


アキはそういって笑っている


可愛い奴め


「おう、ちょっと待ってろ。『集え精霊よ ストーンビルド』」


俺は粘土質の地面にストーンビルドをかけ耐火レンガを作って、炉を組みさらにストーンビルドで固め建てる


石炭と鉄・鋼の材料は以前メンバーに使った分の残りがまだ残っている


俺は仕事道具の鍛冶用金床・ハンマー・ふいご・やっとこ(物を挟む切れないペンチの様な物)を屋敷に置いていた俺の荷から出しツールログの周りに配置していく


「あぁ・・・魔石がないな・・・」


「魔石と言うのはゴブリンキングの時に手に入れた石の事じゃな?」


「あぁ、あれを砕いて混ぜると性能が上がるんだ。まぁゴブリンキングの魔石程度だとたかが知れてるがな」


「ふむ、すまんがわらわは魔石など持っとらんぞ?」


「仕方ないさ。今回はすまないけど魔石無しでやらせてくれ。良い魔石が手に入り次第作りなおすから」


俺はアキの頭を撫でる


「じゃぁ、アキ、今から炉の温度を上げなくちゃいけない。そこでアキの力を貸してほしい」


俺がそう言うとアキは「初めてボットとの共同でやる作業なのじゃ!」と嬉しそうに炎魔法を使ってくれた




鍛冶には色んな工程がある


加熱して叩き、軟鉄と鋼を接合して圧着させ鍛造しながら均等に伸ばしていき、温度を下げつつ形成しながら鋼を締めていく


油の中に入れ均一に温度を冷やして型崩れや急な温度低下からくる割れを防ぐのも難しい


叩きの時に火花が出るのだが、普段ならそこには魔石を砕き魔力が無くなった抜け殻等の不純物が混じって飛んでいく


今回魔石は使っていないが、早めに使ったのを作ってアキが怪我をする確率を少しでも減らしてやんないとな


「ってか、アキ、始動呪文どころか詠唱すら無しで魔法が使えるのか?」


炉の温度を上げる時、人族の姿のままでもアキは左手を差し出しただけで呪文を唱えた様子は無かった


「ん?あぁ、ボットたちが呟いとるあれか。うむ、いらんぞ。逆に昔、人族が唱えてるのを見た時驚いたくらいじゃ」


「へぇ、もしかして俺達も無詠唱って使えるのか?」


「どうじゃろうか・・・エルフ族・魔族なら簡単な物なら出来るかもしれんが、もし人族でも出来るのならボットが知って居ても良いはずじゃが・・・」


確かに今まで人族で無詠唱を見たことがない


と言うかアヤカもレナも詠唱してたし、エルフ族や魔族(レナはハーフ魔族だが)も詠唱が必要な様だ


そう考えると龍族ってやっぱりすごいな・・・




「出来たー!!」


俺はふぅを息を吐き汗を拭う


「おぉ、出来たのかの!!」


「あぁ、ちょっとまってくれ」


俺は出来た金属部品を皮手袋に縫い取り付ける


「これは、手に付ける物かの?」


「そうだ。ガントレットって言う手と腕を覆っている籠手だ。金属で覆っているから殴っても良し。刃物も通さない。アキは魔法を左手で撃っているから右手用な。一応皮手袋に取り付けてるから左でも燃えないとは思うが・・・」


俺がガントレットを渡すとアキは目を輝かせて受け取る


「着けても良いかの!?」


「あぁ、俺からのプレゼントだ。まぁ、二人で作った物だがな」


「えへへ!」


アキは嬉しそうに手に装着する


急に真顔になるアキ


「どうだ?」


「・・・ちょっと待つのじゃ・・・ボット、本当に世間から必要とされておらぬ鍛冶師だったのかの・・・?と言うか、本当に魔石を使っておらぬのじゃな?」


「ん?急にどうしたんだ・・・あぁ、魔石を使っていない、ただの鉄の防具だぞ」


アキはわなわなと震えながらガントレットをつけていない左手を庭に生えている樹に向かって差し出す


『ドカーーーン!!!』


植えていた樹はアキが手を向けた瞬間爆発と共に消えていた


「は?」


ポカンとする俺


「わらわですら使う事の出来なかった伝説の爆発系炎魔法なのじゃ・・・つけた瞬間わらわの魔が10倍近く上がっておる・・・それどころか今使った魔すら回復しつつあるし、身体能力も上がっとる様じゃ・・・ボットよ・・・」


アキは震えながら俺を見る




「もしやお主は龍の伽話に出てくる伝説の四英傑様の1人じゃないのかの・・・?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る