第24話 拠点

「久しぶりです・・・この門をくぐるのは・・・この庭は妻が『貴方にはバラが似合う』と言って育ててくれていたのですよ・・・」


荒れた庭を寂しそうに見ながら話すキール


俺から受け取った鍵をさし扉を開く


俺とアキはキールの後ろをついて行き、キールは懐かしそうに踊り場の夫婦の大きな絵を眺めた


「これ、私達夫婦の若い頃なんです。いや、お恥ずかしい・・・実は数日後に親子3人での絵を描いて貰おうと思っていたのですよ。事件が起こってその用事は無くなってしまいましたが・・・」


そして久しぶりに見る絵に手を置きながら


「ここだけの話、絵の通り出会った時の妻は絶世の美女でして『私だけ昔のまま描いて貰えないかしら』なんて冗談を言ってましてね・・・『今も素敵だよ』と言うと可愛く笑うのですよ・・・」


勿論、実際に素敵でした。と、当時を思い出しているのか幸せそうに微笑むキール


「あの手紙に入っていた指輪、実はこの絵の妻もしている物と同じやつでしてね・・・私が初めて人族の習慣をする為に結婚指輪を買ったのですよ。ライラはきっと大事な指輪を私に持っていて欲しくて手紙にいれたのでしょう」


「結婚指輪・・・とな?」


アキが首をかしげる


キールはアキに向き説明する


「アキさん、いつか大事な人が出来たら貰う指輪の事です。貴女を一生幸せにする、一生笑顔にする。そう約束した男性から指輪が送られたら大切にしてくださいね」


「ふむ、昨日、誰かからほぼ同じ内容を約束された気がするのう・・・」


アキがサッと俺を見る


俺はスッと目線を外す


「あっ、ボット!?何故目を逸らすのじゃ!?」


いや、あなた龍化する度に壊しそうだもん


キールはそれを見て笑いながら絵から手を外しゆっくりと上に上がって行く


1歩、1歩、終わりを噛み締めるかのように


ウィルの・・・息子の部屋の扉を開ける


『キィー』


そこにはライラと棺桶に入って布に顔を出してくるまれていたウィルの白骨化した遺体が崩れ落ちたままの状態で床に横たわっている


「・・・ただいま・・・帰りましたよ・・・」


悲しさよりもようやく会えた喜びから震えながら2人に近づく


膝を床につき、妻と子供の頭蓋骨を優しく抱きかかえる


「5年間、2人共寂しい思いをさせました・・・ライラ・・・私も次生まれ変わっても君を探して必ず・・・」


俺とアキは慰める事も声をかける事も出来ず、キールの小刻みに震え続ける後姿を見つめる事しかできなかった







「2人の遺骨は店から近い墓地に埋葬しようと思います。5年間1度も墓参りにすらいけませんでしたので家族孝行しませんと・・・」


俺達は3人でライラとウィルの遺骨をそれぞれ布に包み、キールが手で優しく持って外に出る


庭まで出てキールは屋敷を振り返る


「もう、妻の魔力は見えないんですね・・・悲しくなるかと思いきや、こうやって近くに居れるようになって、妻に後悔が無くなって、私はホッとしてる部分もあるんです・・・ボットさん」


そのまま俺を見るキール


「この家ですが、是非使って下さい。2人亡くなった家なんて怖いかもしれませんが・・・ボットさんには多大な恩があります。私、キールは国王とボットさんのお力になる事をお約束します」


そう言ってキールは軽く頭を下げた


「キールさん、ありがとうございます。ですが、よろしいのですか?この家は大事な思い出が・・・」


「家は使わないと老朽化が早いと言います。私が一人で住むには広すぎて大事な思い出と共に辛い思い出も多すぎる・・・それに私にはあの絵とこの指輪がありますので・・・」


「そうですか・・・はい、大切に使わせていただきます・・・あっ、そういえば・・・アキ!!キールさんに言う事があるだろ?」


俺の呼びかけにアキはもじもじしながら応える


「うむ・・・朝は店に入っていきなり脅してすまぬかった・・・ごめんなさいなのじゃ・・・」


と頭を下げるアキに合わせるように俺も頭を下げる


「キールさん、すみませんでした」


キールはそれを見て微笑みながら首を振る


「お気になさらないで下さい。アキさんの言動は魔族を嫌ってではなく、ボットさんを助ける為です。人間の国に人間のふりをした魔族がいる。それに気づいたアキさんがボットさんの心配をするのは当然と言えば当然ですから」


「すみません・・・ありがとうございます・・・」


「いえ、アキさんが惚れ込むのも良く分かります。これからは私も是非ともボットさんの協力が出来たらと。頼れることがあれば何なりと・・・では、こちらの書類にサインを・・・」


キールが取り出した屋敷の契約書類


俺は一通り確認してサインをする


「金額ですが、私としましては御礼として無料でも構いませんが・・・」


「いや、さすがにそれは!?俺は半額でも申し訳なかったので・・・」


「そうですか・・・では今回の御礼はまたいつかと言う事で・・・家の私どもの衣服や本・子供用品や絵等、お2人に必要ないであろう物は後程取りに伺います。家具などは私の分は5年前に買い直しておりますので、よろしければご自由にお使いください。では、失礼いたします・・・」


そう言ってキールは2人の遺骨を大事そうに抱えて店に帰った





「さて・・・この庭や屋敷の掃除、やらなきゃいけない事は山ほどあるが・・・」


俺はアキの頭を撫でて笑う


「まずは荷物を置いて、アキの服と晩飯を買いに行かなくちゃな!!」


「おぉ、早く行こうぞ!!ボット、早くなのじゃ!!」


嬉しそうなアキを連れて荷物を置く為に屋敷の中に入ったのだった

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