第23話 手紙

「この手紙は・・・妻が良く使っていた封が・・・」


もう、糸目の笑顔をする余裕もなかったのだろう


人間の国に亡命して、王に対して


妻の為に一生懸命馴染もうとして、人間に対して


すべてを失って行く所も無くなって孤独に何とか生きようとして、彼自身に対して


彼がこの国に来てからずっとしてきた処世術の作り笑顔はそこには無かった


「これはライラさんがキールさんに宛てた手紙です」


「まさか・・・妻が死ぬ前に私にこんな贈り物を用意してくれていたなんて・・・私は自分のエゴで彼女とウィルを5年間も寂しい思いをさせたのに・・・彼女は・・・こ、こんな嬉しい事が・・・」


キールは震える手で手紙を手に取る


「この手紙はライラさんの部屋にありました。夫婦が寝室として使っていたライラさんの部屋ならきっと見つけてくれると思われたのでしょう」


「そうでしたか・・・私は2人を見つけて自分の部屋にすら戻らず家を飛び出ましたので・・・」


「その手紙の内容を生きている間に貴方に伝えられなかった事がライラさんがアンデッドに支配された理由の『後悔』でした・・・勝手ながらライラさんに対してキールさんに手紙を渡すと伝えると『ありがとう』と言う一言と共に、後悔が消え・・・」


「・・・彼女は消えたんですね・・・正確には彼女ではなく彼女になったアンデッドではありますが・・・最後の最後まで私は・・・何も・・・してやれなかった・・・」


消えそうな小さく震えた声


「・・・これが・・・最後なんですね・・・私が妻にしてあげられる事の・・・本当に・・・これ以上・・・。私は本当にダメな男だ・・・最後ですら、この小さい手紙ですら開ける勇気が・・・これで妻との物語が終わってしまうと言う恐怖感が・・・」


顔を下に向け手紙を握りしめ続ける


「いえ・・・分かってはいたんです・・・それでも最後は誰でもなく私が終わらせないといけない。妻がアンデッドになってまで伝えたかった事なんだから・・・」


キールはゆっくりと手紙を取り出し、懐かしい妻の筆跡に顔を歪ませ読んでいく





『貴方に手紙を書くのはいつ以来でしょうか?


最後の手紙になってしまいますが、伝えたかった事を書かせて下さい


最初は貴方が魔族なんて知らなかった私。知った時には魔族とかどうでも良くなる位、貴方を愛していました


亡命を決意してくれて2人で駆け落ち同然に暮らし始め、辛い思いもしたけどとても幸せな生活


そんな私達に神様が宝物をくれました


ウィルは私と貴方の大事な子、大切に育って欲しいと願いつづけましたが・・・


私の幸せは一瞬で崩れ去りました


3人の男たちが急に入って来て2人がかりで私を床に押さえつけ、1人が私の目の前でウィルの首を・・・


私はウィルのそばに居てあげようと思います


同じ死に方でウィルに「苦しかったね、お母さんもいるから、同じだから大丈夫だよ」とあやし続けようと思います


「お母さんが守ってあげられなくてごめんね」と謝ろうと思います


男たちが逃げた後、何とか息を吹き返さないか揺すったり頬を抓ったりしましたが、ウィルの体温が私の腕の中で徐々に低くなっていくんです


この子は確かにハーフ魔族です。ですが、この子が何をしたのでしょうか?


泣いて寝て母乳を飲んで・・・私たちを幸せにすれど、誰の迷惑にもなっていないのに・・・


そんな可哀想な思いをさせたウィルを私は放っておけません


ウィルが完全に冷たくなり私は泣き続けていましたが、すぐに私もウィルのそばに行くと決め、すぐに会えると分かり手紙を書く余裕が出来ました


私達の為に復讐は考えないでください


復讐をすれば、また魔族と人族の戦争になるでしょう


もう私達の悲しみを誰かに背負わせては駄目です


貴方は、いつも「私が魔族じゃなかったら・・・」と私達に謝ってましたね


私はずっと言いたかった事があります


最後に聞いてください







愛するキールへ



あなたと出会えて良かった


あなたと一緒にいれて幸せでした


もし、また私とキールが人族と魔族で生まれ変わっても私は・・・







「あなたと結婚したい」





                        ライラより』




キールの頬につぅーと伝う涙


「そうでした・・・人族の世界には『天国』と言う死後行ける場所があると言われていると聞いたことがあります・・・ライラはウィルを育児するために一緒にそこに向かったのですね・・・」


彼は手紙を大切にしまう


「ボットさん、アキさん・・・最後に妻と子供に会おうと思います。再度内見、お付き合いいただけますか?」


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