第20話 先住

『ぎぃ・・・』


長年経っているからだろうか


扉が自分を通って良い証を持つ俺を待っていたかの様に音をたてて出迎える


「・・・物凄い埃っぽいな・・・ん?」


俺は違和感を感じる


長年掃除されていないこの屋敷の床には白い埃が絨毯の様にうっすら敷き詰められていた


だが・・・


「足跡が1つもない・・・本当に誰かいるのか?」


その埃を踏んだ足跡は1つもなく、何年も誰も通っていない事を物語っている


この屋敷は2階建ての様だ


玄関から入り大きめの階段が待っている


階段の踊り場には大きな絵画がかかっていた


その絵画に描かれていたのは座っている女性の肩に立った男性が手を置いた20代位の夫婦の仲睦まじい画だった


この屋敷の持ち主らしいな


慎重に1階を探索する


「台所も長い事使われた感じもないな」


厨房と言うほどではないが立派な台所だ


仮に水魔法が使えて蛇口を使う必要がなかったとしても排水の為にシンクは使う


だがそこにも水滴すら残っていなかった


その時


『ギー、ギー』


と言う音が聞こえてくる


「これは上から鳴っているのか?」


屋敷にいる者が動き出したのだろうか?


「いや、音が一定で規則的すぎる。これは何か作業的な物をしているな・・・」


まだ気づかれてはいない


相手を確認しない事には対処のしようがない


俺は音を出さない様に階段を上がる


アキが言うには敵は1人


気付かれていないのなら奇襲できる可能性もある


「一応かけておくか『集え精霊よ ビルドアップ』」


音が出ている部屋の扉の前に立ち、そっと隙間を開ける


そこにはロッキングチェアに座った中年の女性がいた


『ギー、ギー』


ロッキングチェアが揺れる度に発するギーギー音


彼女はそれを心地よさそうに聞きながら何かを喋っている


「あなたは私とあの人の大事な子、大切に育っておくれ・・・あなたは私とあの人の大事な子、大切に育っておくれ・・・あなたは・・・」


同じ言葉をずっと繰り返す女性


「あれは・・・アンデッドか?」


アンデッドは魔物の一種である


死人に寄生し、その者の精神を支配・・・と言うよりアンデッドすらその人自身と勘違いし、生きていた時の一番幸せだった行動を繰り返すと言う


害は基本的には無いがたまに一番幸せだった行動が「殺人」などと言う物騒な死人に寄生すると被害がでる


能力は死人のままだし、寄生する者で討伐難易度がかなり変わるのも厄介だ


アンデッド自体は喋る事は出来ないが死人の力で喋っているのであろう


寄生している死人をまた殺してもアンデットは次の寄生体を探すだけ


アンデッド自体を消す対処方法はその故人の後悔を解消してあげると言う事だ


実はこのアンデッド、死人に悔いがあると察知し近寄りやすい性質がある


その悔いにアンデッドが耐えられるように一番幸せだった行動を繰り返し行い、悔いが晴れるのをずっと待っているとされている


「あなたは私とあの人の大事な子、大切に育っておくれ・・・あなたは・・・」


青白くなった中年女性のアンデッドが大事そうに抱えて話しかけているのは、白骨化し顔だけ出されて布にくるまれた状態で小さな棺桶に入れられている赤ん坊の遺体だった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る