第16話 同居

「アキ、出来たぞ」


俺は、宿の女将に頼んで調理場を借りアキが食べたいと言った物を片っ端から調理してきた


量は人化している時は普通の女の子の量で良いらしいが、アキには町に来る事自体が初めてだった様で町の活気や色んな露店がとても楽しかったらしく


「ボット、あれが食べたいのじゃ!!!」


「なんじゃ、これは!是非とも食べんと!!!」


と沢山の種類を食べたがったので少量買っては次の店を繰り返していた


アキにお金を渡してやると嬉しそうに店の人にお金を渡して食材を受け取っていた


なので、料理数が多く1品ずつは下ごしらえして焼くだけなど他の料理が冷めずに時間がかからない物ばかりであったが・・・


だが勇者ジャックボット時代はとても好評だった


「どんな飯屋よりボットの飯が良い!」


とメンバーは大げさに褒めてくれて料理人でもないのに嬉しかったっけ


その内、物凄い高価な食材を買ってきては宿の女将さんに渡して調理してもらうのではなく、わざわざ俺が調理場を使えないか宿に頼んで俺に食材を渡すほどだった


「おー!!!なんじゃこの美味そうな香りは!!!じゃぁ、さっそく・・・」


「あっ、こら、まず『いただきます』をするから待て」


早速、ステーキに手を出そうとしているアキを止める


「いただきますとな?」


「そうだ。今から俺らは家畜の命は勿論、それを食べれるように解体してくれた人の時間、それを買うお金を稼ぐ為に殺した魔物の命とか全部合わさって目の前の料理を食べるんだ。家畜は人間に食べられたる為に育てられたからと言っても、魔物は人間に害をなすから殺したと言ったってそいつらにも家族がある。だから俺らは手を合わせて『今から美味しく命をいただきます』と祈らないと」


俺が説明しながら手を合わせるとアキは


「ふむ、なるほどな・・・こ、こうかの?」


と、ぎこちなく真似をする


マイに言われた親子みたいって否定できないな・・・


「じゃぁ、いくぞ・・・」


「うむ・・・」


『いただきます』


俺らは食事を始めた


「もぐもぐ・・・なんじゃこれは!!これが本当にわらわがいつも食べている牛なのか・・・」


一口サイズにあらかじめ切って串で刺しておいたステーキを口に入れてはこの世の絶頂かのような幸せそうな顔をする


「そんなに喜んでもらえて嬉しいよ、そこまで難しい料理じゃないけどな。アキ、普段はどんな風に食べてるんだ?」


「ん?わらわか?大きい姿に戻って野生の牛をそのままガブって・・・」


「は?生で食べるのか?いや、お前ファイアー使えるだろ」


アキは次々とステーキを口に放り込みながら少し暗い顔をする


「もぐもぐ・・・いや、わらわの炎だとな・・・その・・・燃えてなくなるんじゃ・・・まぁわらわは何百年とそうやって食べてきたのじゃ」


「あぁ、なるほどな・・・って、ちょっと、待て!?アキ、お前何歳なんだ?」


「わらわか?4体居る一族の中では一番若いぞ。まだ600歳くらいじゃ」


「600・・・」


娘じゃない、もうひいひいが何個付くか分からないお婆ちゃんだ


年齢で言ったら育児じゃなく介護が当てはまるかもしれない・・・


「じゃが、今日は600年近く生きて初めて事だらけじゃった・・・」


「どういう事だ?」


アキは今日の事を思い出しているのか、とても幸せそうな顔で語る


「わらわ達は他種族に基本的に干渉はしない。なぜか分かるかの・・・?」


「えーと、たしか長寿だからそういう事に既に興味がないみたいな事を聞いたような気がする」


「それは実は正解ではないのじゃ・・・ボット、例えば龍を見たことのない人の目の前に自分の何倍もの大きさの龍が現れたらどう思う?」


「んー・・・びっくりするとかか?」


俺も初めて見た時は物凄いびっくりした


「それで済むのはかなり少数じゃ。ボットの場合はこの人の格好の時に話してわらわが敵意がない事がすでに知っていたからと言うのもあるしな」


「どういう事だ?」


「まず、自分の何倍も大きい龍が現れたら人やその他の種族でも魔物でも警戒するんじゃ。自分たちを殺す力を持っているわらわ一族を・・・」


「・・・」


俺はたった20年しか生きていない


でも、目の前にいる600歳近いの女の子は俺よりも年下の悲しい顔をしている


「だから、本当に誰とも関わらず生きてきたのじゃ。一族も4体集まるとこの世の終わりを連想されるので別々の地で住んで居る。人化できるわらわだけが人の住処に近いところじゃがな。」


人が近いところは川があるからな、わらわは人化出来て良かったと呟く


「そうだったのか・・・」


アキは更に続ける


「人を助けた事はわらわが生きてきて初めてじゃ。また料理と言う物があるとは知っていたが食べたのも初めてなのじゃ。そして町に入るのは勿論、人の・・・笑顔を・・・」


アキの目に涙がたまりだす


「見たのも初めてじゃったし・・・お金を使うのも勿論・・・ひっく・・・なのじゃ・・・。わらわの為に料理を作ってくれた事も、マイとやらに心配された事も・・・そしてお主にやさしくして貰って・・・いただきますをして・・・誰かと一緒に料理を食べて・・・ひっく・・・」


アキの目から大粒の涙が溢れ出す


もうしゃべってる声もままならない


「・・・だ、だから・・・今日は初めてのっ・・・事だらけだったのじゃ・・・物凄い幸せで・・・600年生きてきてこんな幸せな事など・・・なかったのじゃ・・・」


「アキ・・・」


「き、今日と言う日を・・・わらわは永遠に忘れぬぞ・・・何百年、いや何千年経とうが・・・ぼ、ボット、お主が死のうが永遠にわらわはボットと今日の事を忘れん・・・」


アキは腕で目をめいいっぱい擦り涙を拭く


「すまぬな・・・さぁ、料理の続きじゃ!食べようぞ!!」


アキは無理やり明るく振る舞う


600歳であろうが見た目の10歳であろうが無理しているのは20歳の俺でも分かる


今日と言う楽しい日を過ごして明日から普通の日々に戻る事にアキは恐れてる


「あ、アキ・・・俺と一緒に暮らすか?」


アキは俺より強い


だけど俺が守ってやらなきゃ


もっとずっと笑顔でいさせてやりたい


俺は咄嗟にアキに提案した


「えっ・・・」


「俺と町に住むならずっと人化しなくちゃならないかもしれないが、適度に一緒に山にも行こう。美味しい料理も沢山作る」


「ちょ、ちょっと待つのじゃ!わ、わらわは・・・」


戸惑うアキ


それでも俺は喋るのをやめない


「服屋でおしゃれなんかもどうだ?これからずっと一緒に『いただきます』もしよう。俺と・・・」


俺は決心してアキに告げる


「家族になって一緒に生きていかないか?」


せっかく拭いたアキの目からは大粒の涙が止まらず流れ始める


「わらわは・・・600年近く生きても人族の掟など何も知らぬぞ」


「俺が教える」


「ずっと1人じゃったから甘えたり・・・わがままになったりするかもしれんぞ・・・」


「何でも言え。俺が受け止める」


「ボット・・・」


アキは涙を拭くこともせず俺を見る


「1つだけ・・・お願いがあるのじゃ・・・」


「なんだ?」


「人族はどれだけ頑張っても120年しか生きないと聞く・・・わらわが突然死んだりしない限り、ボットはわらわを置いて死んでしまう可能性が高いのじゃ・・・」


「あぁ・・・」


いくら何でも寿命は変えられないからな・・・


「だから・・・事故や殺される等ではなく寿命を・・・生きて欲しいのじゃ・・・1秒でも長く楽しい思い出が欲しいのじゃ・・・」


俺はアキに何も考えずに提案してしまったのかもしれない


長く生きる龍にとって俺の寿命など短い期間かもしれない


俺が長く生きてあと100年


それが終われば彼女はまた1人になる


それは今日1日の思い出だけより、100年楽しくても俺が死んだらより辛い思い出になるのでは無いだろうか?


100年当たり前だった事が当たり前じゃなくなる


いつもいただきますを一緒にしていた人が居なくなる


俺は無責任だったのだろうか





それでも・・・




「アキ、約束する。今まで退屈な600年、俺がこの100年で全部塗り替える。お前が今後何千年でも絶対に一人にならない様に俺が何とかする。だから・・・」


「もっと楽しい思い出を作ろうな?アキ」


アキは涙を流しながら俺の話を聞いている


「ひっく・・・ぼ、ボット・・・う、うわぁぁぁん!!!!!!!!」


声を抑える事もやめて大泣きするアキ


俺はそれをやさしく抱きしめてあやす


こうして俺とアキの同居生活が始まった

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