第14話 深紅

「さてと・・・食事の後は運動しなくてはいけぬな。良きタイミングじゃ」


深紅のドラゴン、アキはゴブリンキングと対峙する


対峙すると言ってもアキは5メートル、ゴブリンキングは2メートルと大人と子供位の迫力の差だ


俺は更に小さい175センチだが・・・


アキはゴブリンキングに向かって言い放つ


「そこの者。わらわ一族は他の種族の争いに手出しをせぬのが普通じゃが、色々あってな。お主の相手はわらわがする事となった」


ゴブリンキングは立ったままアキの口上を聞く


いや、戦闘力の差を感じたのか動けずにいるだけなのかもしれない


「この人族に手出しをせず他の地に移るなら、わらわは手出しをせぬ。去るが良い」


ゴブリンキングは自分がなめられているのに気づいたのだろう


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


普通のゴブリンの持つ何倍も大きな棍棒を構えアキに近づき胴体を殴るゴブリンキング


普通の人間なら死んでてもおかしくないがアキは微動だにしない


「ふむ・・・やはり向かってくるか。まぁ、警告として言っただけじゃ。向かって来ぬと運動にもならん」


アキは胴体で止まった棍棒を大きな爪のついた手でつかむ


「ただ、お主だけ武器を使うのはちょっといただけんな」


そう言ってまるで木の枝を折るように片手で棍棒を折ってしまう


「こ、これが龍族か・・・」


俺がそう呟く


単体でもCランクにはなるゴブリンキングを圧倒する


それどころかアキは一切攻撃をしていないのに誰の目から見ても分かるゴブリンキングとの実力差


龍族が他の種族に無関心ではなく攻めてくる種族だったら・・・


考えただけでも恐ろしい


「さて・・・どうやらお主じゃ運動にもならないようじゃ」


「ぐるる・・・があぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


武器を取り上げられたゴブリンキングは素手でアキに向かう


「お主も諦めが悪いのう・・・命まで取る気はなかったのじゃが歯向かうなら容赦はせん」


そう言って突進して来ているゴブリンキングの頭を鷲掴む


ミシミシとゴブリンキングの頭から音がしだす


『ばきっ、ぐしゃ・・・』


ゴブリンキングの大きな頭の頭蓋骨を割り脳をまるで熟れたトマトの様に潰すアキ


「すまぬな。供養はしてやる」


もう既に息をしていない頭がないゴブリンキングをアキは口から吐く炎で燃やす


「はぁ、手が汚れてしもうたわい」


アキはそう言いながら少女の姿に戻った


「手、洗うか?『集え精霊よ ウォーター』」


俺はアキに近づく


「おぉ、すまぬな!わらわは炎属性の魔しか使えないのでな!」


そう言って嬉しそうに手を洗うアキ


「アキ・・・で良いか?俺はボットだ」


「うむ、構わぬぞ!ボットじゃな?」


「あぁ、本当に助かった。心から感謝する」


そう言って俺は頭を下げる


「気にするでない。しかし、あれじゃな・・・お主の料理を食べ、人化していたからその弁当の量でも腹は満たされたが、元に戻って運動してとなるとまた腹が減ったのう・・・」


「いや、運動にもならんって言ってなかったか?」


俺が突っ込むととぼけた顔をするアキ


「そうじゃったかの?まぁ良いではないか!もう料理はないのか?」


と期待した顔で俺を覗き込む


「残念ながら今は持っていない」


「なんじゃ・・・そうなのか・・・」


あからさまに落ち込んでいるな・・・


「・・・なんなら一緒に来るか?怪我人運ぶために町に行くし料理位なら振る舞ってやるぞ」


「なに!良いのか!?」


一転してパァと顔を綻ばせるアキ


「あぁ、ただ角と尻尾を持っていると色々言われるかもしれないが良いか?」


アキは鱗が人化したら服になるのか普通の赤く薄手の服を着ていたが、やっぱり角と尻尾は目立つ


魔族と勘違いされて差別を受ける可能性だってある


差別を受けたら歯向かうものとみなして人族を滅ぼすかもしれない


「大丈夫じゃ!わらわは生まれつき『変化』と言う魔が使える!この様に角や尻尾の出し入れも勿論、恰好まで自由自在じゃ!」


そう言って完全に人間と同じ格好になるアキ


「・・・もしかしてアキ以外にも人族に化けて町で生活している奴っているのか?」


「わらわ龍一族は4体しかおらんし、それぞれ生まれ持った魔が違うのでな!

!使えるのはわらわだけじゃ!」


アキの話からすると龍族にも生まれつき持った潜在魔法が存在するらしい


俺はゴブリンキングが居て燃やされた跡を見る


そこには大きく紫に輝く魔石があった


どんな魔物でも魔石と言う物を持っている


魔石が俺たちで言う心臓と同じ働きをし、全ての種類で魔石の色は違うので討伐した証として魔石を回収しギルドで報酬を貰う


洞窟で倒したゴブリン達の魔石は回収する余裕はなかったのでそのままだ


「なぁ、アキ。あの魔石貰っていいか?売ったら料理の材料で良いのを買えそうだ」


「なんともっと美味い料理が食えるのか!?あの石か!?かまわぬ、かまわぬぞ!?」


嬉しそうにジャンプしながら涎を垂らしているアキを横目に俺は魔石を回収する


「なら・・・いくか。アキ。悪いがそこのバッグ持ってくれるか?中身は薬草だけだからそこまで重くないはずだ」


「うむ!!わらわはお主より力持ちだから人族側を背負うでもよいぞ?」


「やめとく、ギルドのメンバーに女の子に人を背負わせてるなんてバレたら俺は色んな意味で終わる」


「にししっ!!」


悪戯な笑みを浮かべるアキ


俺はその顔を横目で見ながらゴブリンに攫われて現在は岩陰で寝ている女性を再び背負い、アキと町に向かって歩くのだった

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