第13話 御礼
バッグに顔を突っ込んでいた女の子が叫びながら顔を出す
目の前にいる俺と目が合い口回りベタベタの顔のままキョトンとした
「なんじゃ?わらわに何か用か?」
「いや・・・俺の弁当を勝手に食っておいて『何か用か?』って言われてもなぁ・・・」
俺は背中に攫われていた女性を背負いながら指で弁当を指す
「ん?この弁当か?何を言っておる、これはわらわが見つけた物じゃ!早い者勝ちなんじゃぞ!」
まだ少し残っている弁当を絶対に渡すもんかと手で後ろに隠す女の子
「いや、その弁当を寄こせという意味じゃなくて元々その弁当は俺が作ったんだよ」
女の子は自分の手に持っている弁当をまじまじと見た後、数秒俺の顔をみてパァと輝いた笑顔を見せる
「なんじゃと!?この弁当はお主が作ったのか!良い腕をしておるな!・・・じゃが食べ物を捨てるのは感心せんぞ?」
「いや、捨ててるんじゃないから。後で食べようと置いておいたら勝手に食べられてるんだけど。」
「まぁ細かい事は気にす・・・おょ?なんじゃこの声は」
弁当泥棒の少女が俺の後ろを見ているので俺もつられて振り返って後ろを見る
俺には聞こえなかったが、何か聞こえたらしい
するとすぐに1体のゴブリンが大きな唸り声と共に現れる
『ぐおぉぉぉぉぉぉぉっ!』
「しまった、追いつかれたか!」
普通のゴブリンは子供位のサイズだがこのゴブリンは大きい
手下のゴブリンは俺が全員殺したのか1人で来たのだけが幸いだ
「2メートルはあるな・・・くっ、完全にこいつはゴブリンキングだ。こうなったら、俺が1人で時間稼いでる間に弁当泥棒に誰か呼んでもらうか・・・」
「なんの話をしてるんじゃ?」
少女はベトベトになった口回りを手で拭きながら俺に尋ねた
「何って、この状況見て分からないのか?お前だけでも逃げろ。俺が時間を稼ぐ。町に行ってギルドで応援を呼んで来てくれ」
俺は背負ってる女性を岩陰において戻り短剣を構える
「ふむ・・・。あやつと戦うのか?お主、かなり魔を消費している様じゃが」
「魔力の事か?あぁ、確かに無理かもしれね。でもな・・・」
なんでだ?
なんで俺はここまで知らない2人の為に命を捨てようとする?
「・・・女の子2人を・・・いや誰であっても捨てて逃げるなんて絶対できない」
あいつなら・・・ジャックなら絶対助けようとするからだ
「そうか」
少女は後ろで短くつぶやく
「だから逃げ・・・」
「お主、どいてくれぬか?」
俺の言葉を遮って急に意味の分からない事を後ろで言い出す少女
「何言ってるんだ危ないだろ!」
「お主がそこにいる方が危ない。踏みつぶしても知らぬぞ?」
さっきから会話が成立していない事に少し俺はイライラし、少女を振り返る
「何を・・・えっ?」
そこには少女は見えない
いた場所に見えるのは大きな足のみ
俺はその足の持ち主を見る為に上を向く
5メートル近くはあろうか
そこには深紅に輝くドラゴンがいた
俺はフラッとよろけた
「弁当泥棒・・・お前なのか?」
「ふふっ、お主の勇気と美味い弁当。なかなか良い物であったぞ。今、弁当の恩を返してやろう」
よろけた時に出来た道を弁当泥棒・・・いやドラゴンが歩きゴブリンキングに近づく
ドラゴンは後ろにいる俺に続けてこう呟いた
「わらわの名は深紅姫龍『アキ』じゃ。覚えておいてくれ」
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