第12話 逃走

俺は目を凝らしてファイアーの先にいる倒れている人物を見る


見た所、人族の女性の様だ


いい服は着ているがかなり華奢目


そして腕からかなりの出血をしている


「おい、大丈夫か?」


ゴブリン達にバレない様に気を付けながら声をかける


「・・・」


返事がない・・・死んだか?


「いや、体が少し上下に動いてる・・・気絶しているだけか・・・『集え精霊よ ヒール』」


俺は彼女に向って回復をかける


「ん・・・んんっ・・・」


どうやら気が付いたようだ


「おい、無理するな。ヒールで止血はしたが俺のヒール程度では失血した血までは戻らないからな」


「うぅ・・・ここは・・・?」


まだ意識朦朧としており事態をのみ込めてない様子


「ここはゴブリンのアジトだ。どうやらあんたは攫われた様だぞ。ちょっと待ってろ『集え精霊よ ストーンビルド』」


格子を燃やすかも考えたが煙で気づかれたりする可能性がある


俺はストーンビルドで格子のすぐ横の壁を無数の石ころに変え檻に通路を作る


「『集え精霊よ ストーンビルド』」


更にストーンビルドの重ね掛けでゴブリンキングに続くであろう道を塞いだ


「くっ、今ので結構魔力持っていかれたな・・・」


ゴブリン8体に対してビルドアップ+複数回のアイスニードルとストーンビルド、倒れてる人族に対してヒール、さらに今かなり広範囲のストーンビルドを重ね掛けとかなり魔力を使った


少しダルさを感じるがここで休む余裕もない


短剣もゴブリン8体との戦闘で血糊で切れ味が悪くなっている


魔力もゴブリンキングに見つかったら、倒れている彼女を守りながら戦えるだけ残っているかと言われたらかなり無謀だ


「歩けるか?・・・ってあんだけ血を流していたら無理だろうな。背負うから寄り掛かってくれ」


意識朦朧とする彼女を俺は背負うと俺は出口へと向かった


出口付近まで来て無事に逃げれるかと思ったその時地面がものすごく揺れる


『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


「まずい、この咆哮はゴブリンキングに気付かれたみたいだ・・・走るぞ、しっかり捕まれ!『集え精霊よ ビルドアップ』」


ストーンビルドで塞いだおかげで多少は時間稼ぎができるはず


俺はすでに切れているビルドアップを掛け直し走り出す









どれくらい走っただろう


1分にも感じるし1時間にも感じる


もしゴブリンキングに見つかれば2人とも死ぬか彼女を置いて俺はビルドアップ状態だから逃げるかの二択しかない


「まぁジャックと今までやってきて助けられる人を見捨てるなんて絶対しないけどな」


勿論、勇者ジャックボット時代も助けられない命は多くあった


多くを助ける為に残り少数が間に合わなかった事も数知れない


その助けられなかった被害者の遺族は口を揃えてこういった


「勇者様・・・なぜ私の家族を助けて下さらなかったのですか・・・」


命をかけて多くを助けても結果的には自分たちを憎む人たちが増えていく


勿論、国民は勇者ジャックボットが悪いとは思っていないし被害者の遺族だって心の奥底では俺らが見捨てたかった訳じゃないというのは分かっているはずだ


ただ自分の大切な人が亡くなったと言う事実から目を逸らし、誰かに当たり散らしていないと気がおかしくなってしまう


そんな気持ちからジャックに言わずにはいられなくなっているのだ


そんな時、ジャックは「すまない・・・」といつも謝る


何度も目の前で人が死ぬのを見ていても必ずあいつは守れなかった事を悔いている


その被害者の遺族と同じくらいジャックも心に傷を負っている


ジャックはそれでも当たり散らせる人がいない


それだけじゃなく遺族の恨みも背負う


それでも彼は何度も世界や人を救おうとしていた


ジャックは解散の時、「俺は勇者になりたかった訳じゃない」なんて言ってたけど俺はずっと思う




『ジャックは最高の勇者だ』




走り続け、俺は途中で身軽になる為に元々は罠一式と弁当が入っており今は薬草と弁当が入ってる大きめの背負うバッグを置いた場所まで戻って来た


「荷物は今は無理だな。まず彼女を町のギルドまで連れて行かないと」


ギルドならポーションが売っている


まずそれが最優先だ


「弁当は腐っちゃうかもな・・・ん?」


俺は目を疑った


バッグがもぞもぞ動いている


ていうかバッグの取り出し口から尻尾が生えている


「な、なんだ・・・あれは・・・」


俺は走らなくちゃいけない事も忘れ立ち止まってしまう


すると数秒後





「美味いのじゃぁ!!!!!!!なんじゃこのうんまい料理は!!!!!」





バッグから顔を出したのは角と尻尾の生えた、口の周りをご飯粒とオカズのソースでベトベトにした10歳前後の女の子だった

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