第7話 再出発

俺はいつもよく来る場所に来ていた


「やーっぱ、始まりはここだよな!」


その場所はクエストを受けるギルド案内所


俺はジャックボットの交渉役としてほぼ毎日ここに足を運んではいたが・・・


何をするにもまずはお金がいる


ずっとクエストで稼いでいた俺にはここが手っ取り早い


「まさかジャックボットの為じゃなく、自分の為に来る日が来るとはな・・・」


勇者にジャックがなってから選ぶクエストも限られてくる


まさか勇者に薬草採りや掃除をさせる訳にもいかない


ジャックは喜んでやるだろうが、小遣い程度で依頼したら勇者が来る


依頼人の方が恐縮する可能性があるからだ


俺は案内所の扉を開けていつも歩き慣れた場所に行く


「あっ、ボットさんじゃないですか!」


人族の受付嬢が応対してくれる


「よっ!マイ、今日も元気だな」


「えへへ!そりゃもう、それが取り柄ですので!今日はパーティの新しいクエスト受注ですか?」


マイと呼ばれた女の子は人懐っこい笑顔で未解決クエストの束を取り出す


さっきジャックに言われたばかりで勿論世間の皆はパーティ解散を知らない


勇者パーティが解散となればそれを知って攻めて来られる可能性もある


俺からばらすのは良くないよな・・・


「いや、今回は俺1人でクエスト受けようと思うんだが、出来るか?」


そう俺が言うとマイはキョトンとした顔でこっちを見る


「ボットさん1人ですか?もちろん受ける分には構いませんが、ボットさん一人でって初めてじゃないですか?」


確かに、言われてみれば初めてかもな・・・


「えーと、ちょっと待ってくださいね・・・あっ、やっぱりボットさん個人冒険者として登録されてませんね?」


「個人冒険者?」


「はい、個人冒険者とはソロで活動する際に受ける事の出来るクエストランクを知る為に登録した人の事です!」


マイはムフーと自慢げに言う


「例えばパーティでSランクのジャックボットですが、それはパーティ全員の力を合わせた物です!ボットさん個人がSランクのクエストを受ける事はできません!」


なるほど、確かパーティ登録した時はEランクから始まってD→C→B→A→Sランクになったけど、個人でやるなら取り直さないといけないと言う事か


「これは勇者ジャックさんでも同じことです!国からの依頼であれば可能ですが、普通の依頼を受けるなら個人冒険者ランクの1つ上が限界なんですね!普通、パーティを組む冒険者はすでに個人冒険者になった人が多いのですが、珍しいことに『勇者ジャックボット』さんで個人冒険者の方はいないですねー!」


マイはジャックボットのメンバーであれば誰でも見れるメンバー表を取り出して俺に証拠を見せてくる


「登録されますか?」


「あぁ、頼む」


マイは登録用紙を出しながら説明を続ける


「個人冒険者はパーティの時とは違ってGランクから始まりAまで上がり国から認められるとSになります!ただ、Aランク冒険者は世界に5人しかいない上にSは長い事いらっしゃらないです!まぁパーティランクではSランクに勇者ジャックボットさんがいるのですが、どちらにしろSランクは滅多にいるものではなく、基本的には両方登録されていらっしゃる方は高いほうを名乗る方が多いですね!」


まぁGランク初心者なのにパーティ組んでEと名乗る困った方もいますがねーと苦笑いするマイ


「基本的に実力のあるランクと言うのがパーティでも個人でもDからとなります!なので個人Gの方がパーティランクEと名乗っても1人前とみられる事はまずありませんし、国などの公的な身分でパーティランクを名乗るときは途中入会に限りパーティに入って1年経った上にある程度ランクに見合ったクエストをクリアする必要があります!お金を積んでパーティに入りランクを買うなんてこと防ぐためです!」


なるほど、確かに俺らのパーティは5人でSランク(まぁ俺はその実力がないと世間から言われていたが)だったが、新たに新入りを入れた瞬間その人もSランクになってしまうのであればお金を多く出す貴族が一瞬入って抜け『元Sランク』なんていう肩書だけ買う事もできてしまう


ずっとパーティに入るなら国から強制依頼も来るがすぐ抜けてしまえば肩書だけが残り名誉となる


意外と考えられてるシステムなのかもな


「ではこちらにサインを下さいー!」


マイが指さすところに名前を書く


するとその名前が光り、まったく同じ筆跡でプレートが出てくる


「これが冒険者プレートです!ご存じの通り冒険者は危険が伴いますので顔確認の出来ない死体などの本人確認にも使いますし、クエスト受注・達成は勿論、材質でランク確認、こちら側の魔法で過去達成のクエストも分かります!」


出てきたプレートは木でできたプレートだった


ジャックボットのプレートは始めたEランクの時は鉄で出来たものだったがSになった時はダイヤが何個もついた物だったし、仕組みは同じようだ


「あぁ、ありがとうな」


「はい!・・・あのー、怒らないで聞いてほしいのですが・・・」


マイは急に言いにくそうにこちらを見つめる


「どうした?」


「はい・・・受付で働いていて様々な冒険者に会いました・・・中には亡くなった方も大勢います・・・その方の大半は身の丈に合っていないクエスト受注が原因です。クエスト失敗は違約金が発生しますので無理に強行する方も多いです。ボットさんは勇者ジャックボットで経験豊富ですし無いとは思いますが、安全第一にお願いしますね・・・?」


多分、ジャックボットでも戦闘力の低い俺を心配しての注意だろう


パーティだったとしてもSランク冒険者に普通そんな初心者の忠告はしない


だがクエストはランクが高くなるほど戦闘が多くなる傾向にある


勇者ジャックボットでSランクだったからと言って報酬につられあまり危険なクエストを受けるなと言う事なのだろう


「分かった。アドバイスありがとうな」


「いえ・・・失礼なことを言いました・・・で、では!早速ですがクエストを受けられますか?ちなみに違約金はパーティの時は予定報酬の5パーセントを支払いでしたが個人だと負担が大きいと言う事で1パーセントです!勿論、クリアしていただくのが一番ですが!」


お金の種類は3つ、金貨・銀貨・銅貨で銀貨と銅貨は更に大小別れる


小銅貨100枚で小銀貨1枚と同じ、小銀貨100枚で金貨1枚と同じ


また小銅貨10枚で大銅貨1枚と交換できる


これは銀貨でも同じ


この国の普通の人で1月金貨30枚位


「分かった。実はやってみたいクエストがあってだな・・・」


そう言って俺は1つのクエストを指定した


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る