第6話 冷華

宿の主人に鍵を返して外を出る


主人に聞いたところ、メンバー全員既に出たらしい


「どこ行くの・・・?」


宿から出た所すぐにレナがいた


彼女はいつも冷静だから感情が分からない時もあるがレナも他のメンバー同様、俺の事を気にかけてくれている


「おう!パーティも解散したしとりあえず出ようかなってな。レナもか?」


「うん・・・本当にあなたにはお世話になった。人族にも魔族にも差別を受ける私をパーティに受け入れ助けてくれた。あなたはジャックボットに欠かしてはならない必要な人物。だから・・・」


レナは少し恥ずかしそうにしてこちらを見る


「恩返しとして1つだけ、私が叶えてあげられる事を手伝う」


ボットは胸が高鳴る


「えっ!?良いの!?」


「い、いや!?私ができることだからね!?」


珍しくレナが焦る


「えっ、あっ・・・うん・・・」


ま、まずレナが俺にどこまで出来るか全く分からん・・・


好きだから付き合って・・・?


いやいやレナは今まで俺にそんな好意を見せてくれたか?


これから一緒に旅に出ないか?


うーん・・・これからの時間を束縛するお願いは迷惑か・・・


「・・・?」


レナがこっちを見ている


レナは世間からは『冷華のレナ』と呼ばれている


『勇者のジャック』『慈愛のアヤカ』『防砦のリク』メンバー全員に二つ名がついている


・・・俺?金魚の糞扱いの俺にある訳ないわな


冷華はレナの得意魔法が氷魔法だったことから名づけられた


使える習得魔法の中でも氷魔法はほぼ全て大レベルだ


また常に冷静な表情が美人で冷華と言う名前にマッチしていると言う事で世間の評価も高かった


主に男子からのだが


「なら・・・仲間との最後の惜別だ。友人としてハグしてくれるか?」


それを聞いてレナは少し驚いた表情をしつつも


「分かった」


と目をつぶる


よっしゃー!


心の中ではそう思いつつも表情に出ない様に抱きしめる


腕に収まるレナから漏れる珍しい震えた声


「ねぇ、最後の惜別って・・・もう会うことはないのかしら?」


「えっ?あぁ、すまん・・・そういう訳じゃない。必ずまた会えるし、会いに行く」


「んっ・・・」


少し安心したのか更に俺に寄り掛かった


「なんか安心する・・・今ならどんな敵も倒せる気がするわ」


「ははっ、それは頼りになるな・・・」


まだ朝早い街は人がほとんど居なくずっとこうしていたかったが、俺とレナはどちらからという訳でもないがゆっくり離れる


「これからどうするんだ?」


「私はハーフ魔族だし、国もそこら辺に放置したくないみたいで国立帝都大学の魔法教師にならないかって前々から要請が来てたから引き受けようと思う」


帝都大学はこの国一番の学問機関である


特に魔法に関してはまだまだ解明されていない部分があり、帝都大学での研究が盛んだ


「やっぱレナはすごいな。一緒に旅できたことが誇りだよ」


「これもあなた達のおかげよ。1人では何もできなかった」


「そんなことないさ・・・頑張れよ」


「あなたは人の為に頑張りすぎよ。これからは自分の為に好きに生きてね・・・」


レナはそういって俺に背を向けて歩き始める


「さてと・・・」


俺も荷物を担ぎなおす


これで本当にジャックボットは終わりなんだな・・・


寂しくはなるがメンバー皆が無事新たに旅立てた事に俺は少し安堵した

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